11 子供と親の微妙な距離 【11-6】

【11-6】
遅れて戻ってきた母の圭子は、祥太郎の姿に気付き、明彦の方を見る。


「大学まで出してもらって、本当にありがたいと思っている。
親父の言うように、大手企業に勤めることはしなかったけれど、
俺は大学に入って、大輔や司……。一生付き合える友達を得ることが出来た。
それは大学に行かなければ会えなかった仲間だし、過ごしてきた日々には、
十分満足している。その生活をする中で、やっぱり、この店を……
『華楽』を継ぎたいと、俺は真剣に考えた」


今までも『店を継ぎたい』ということは、何度も伝えてきた。

しかし、祥太郎は自分を前に出しすぎていたことを反省し、

今日は『頼み』という意味を込めて、語っていく。


「俺は俺なりに、育ててもらったこの店を愛しているつもりです。
だからこそ生意気なことも言ってきた。でも、今まで守ってきたのは、親父とお袋だ。
道具一つ、調味料の容器一つ、きちんと手入れをしながら、ここまで来た。
あらためてそこに気付かされたから」


祥太郎は、まず、自分がこの店を継ぐということを認めてもらえるように、

精一杯努力させてほしいと、そう話す。


「今までも作り方は見てきたし、今も実際作っているから、全くの素人ではないけれど、
でも、親父からしてみたら、まだまだだと思うところは色々あるだろう。
だから、もう一度、中華料理の基本に戻ろうとそう考えて……。
親父に、祥太郎に店を継がせたいと、思ってもらえるように……」


祥太郎は、明日からまたしっかりと仕事をしますと宣言し、その場を立ち上がる。

台所にある冷蔵庫を開けて、中から麦茶を取り出しコップを探した。


「おい、何かつまみはないのか」


明彦は、台所に入ってきた圭子に気付き、ぶっきらぼうにそう言った。

圭子は、缶詰でも開けてくださいよと、明彦に向かって声を出す。


「なんだよ缶詰って……」


明彦はそう言いながらも、棚の中から缶詰を取り出し、蓋を開ける。


「お袋、先に風呂へ入るわ」


祥太郎はそういうと、台所からお風呂場に続く廊下へ向かう。

『自分が変えていく』という思いが前に出ていたときには、

祥太郎の一言ずつに、明彦は必ず文句をつけて戻した。

店を継ぐというキーワードにも、何度も『頼んでいない』という返しがあったのに、

しかし、今は黙って聞いていただけで、否定も肯定もされなかった。

どこか無反応に近い気がして、普通なら考えてしまうところだが、

父親の性格はわかりきっているだけに、祥太郎は自然と笑みがこぼれる。

真帆が言っていたように、案外、父親の強い反対は、立場を変えてやることで、

弱まるのかもしれないと思いながら、棚にあるバスタオルを取った。





梅雨の晴れ間になった日、『新町幼稚園』の『りす』組では、

陽菜の座るテーブルの横に、園児たちの列が出来た。


「はるな先生、見て」

「はい、残さず食べることが出来ました。偉いぞ」

「うん」


陽菜は子供たちの持ってくるお弁当箱を見た後、全て食べられた子供の左手に、

花丸を書いてあげた。子供たちの自信につながるように、

母親たちには食べきれる量のお弁当を持たせて欲しいと、話してあるため、

ほとんどの子供がきれいになったお弁当箱を誇らしげに持ち、順番だと列になる。


「はい、花丸」

「うわぁ、やった」


男の子は嬉しくてその場で体をクルリと回す。

おしゃまな女の子が、危ないからやめてよと、頬を膨らませた。

陽菜も、まだ食べている人がいるからダメだと、男の子に注意をする。

『りす』組では、子供たちが一人ずつ減っていき、最後に残ったのは、

以前、大輔が遠足でカメラマンとして同行した日、お腹が空くことを気にして、

お菓子を分けた舞ちゃんだった。陽菜が『大丈夫?』と声をかけると、

舞ちゃんは黙ったまま、小さく頷いた。


「どうしたの? お腹でも痛い?」


陽菜はそう尋ねるが、舞ちゃんは何も言わないでいる。

お弁当の中身を見ると、ご飯の横に2種類のおかずが入っていた。

全く食べていないわけではないが、いつもの舞ちゃんとは様子が違っている。

お弁当のおかずも、茶色のものしかなくて、他の園児に見られるような、

色のバリエーションがない。

結局、帰りの時間も迫るため、舞ちゃんの昼食は、花丸をもらうことが出来ないまま、

そこで終了した。



「はるな先生、ライオンバス、出ました」

「はい」


午後2時半を過ぎた頃、その日の保育時間が終了し、とりあえず陽菜もフリーになった。

更衣室に入り携帯を見ると、瞬からのメールが入っている。



『今度の週末は、車で出かけないか』



いつも、店を終えてからや、店に出るまでの隙間時間を作り、会っていただけに、

『車』というキーワードが、ごく普通のデートらしく思え、

陽菜の表情が、自然とほころんでいく。

『はるな先生』という声が聞こえたため、携帯をバッグに入れると、

すぐにロッカーを閉め、更衣室を出た。


「はい」


陽菜を呼んだのは、『りす』組の母親だった。


「はるな先生、ちょっといいですか」

「はい」


その母親は、幼稚園の役員も積極的に引き受けてくれるような女性で、

すでに上の姉がこの幼稚園を卒園し、今は小学生になっている。

いつも、お迎えに来ては、仲のいい母親たちと井戸端会議をしているが、

今日はその取り巻きらしき姿は見えない。


「何かありましたか」

「いえ、先生はご存知なのかと思って」

「……何か」


『噂話』というのは、どこにでもあるもので、

陽菜も偶然、他の父兄から他の家族のことを聞いてしまうことなど、何度かあった。

それとは逆に、知りたがる父兄に対しては、あえて知らないふりを貫く姿を見せる。


「舞ちゃんのことです」


舞ちゃんとは、お弁当が最後まで食べられずに、

『りす』組に残っていたあの子のことだった。



【12-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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