12 信頼が崩れだすとき 【12-2】

【12-2】
「それでは、母をよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ」


ハルが部屋に戻り、信也は仕事に行きますと施設の入り口へ向かう。

文乃は来週には、ハルが制作したものが展示されるので、ぜひいらしてくださいねと、

信也に夏祭りのパンフレットを手渡した。

信也はそれを受け取ると、軽く目を通す。


「白井さん」

「はい」

「本当に、お付き合いをしている方はいらっしゃらないのですか」


突然飛び出した質問に、文乃は一瞬、どう返答していいのか迷ってしまった。

信也は、その態度を見て、正直に言ってくださいと笑みを浮かべる。


「いらっしゃるのでしょ。
母に私とのことを言われて、どう答えていいのか迷って、それでと」

「いえ……」


付き合っている相手がいるのかと言われたら、それは『いない』と答えるしかなかった。

文乃は、紳士的な態度に出てくる信也に対し、ウソをつくのは申し訳ないと思い、

今はいませんと返事をする。


「本当ですか」

「はい」

「好きな人も?」


信也はそう聞くと、しつこいですねと笑い出す。

文乃はそんなことはないですよと、気にしないように言葉を選ぶ。


「一度、お休みの日に店へ来ませんか。美味しいものを食べていただきたくて」


信也は、あまり堅苦しくならずに、立ち寄ってみませんかと、文乃に告げる。


「この中にいると、入居者の家族として、気をつかわれるでしょうし。
私も、あなたと同じように、器用な人間ではないもので。
料理なら、自分をうまく出せるかなと……」


信也は、お友達と一緒で構いませんからと、文乃に店の名刺を差し出した。

文乃はそれを受け取り、ありがとうございますと頭を下げる。


「社交辞令はなしですよ。ぜひ」

「……はい」


信也はそれではとあらためて頭を下げ、『アプリコット』を出た。

文乃はいただいた名刺を手に持ったまま、事務所に戻る。

無くしたり落としたりしたら失礼だと思い、事務所に置いてある名刺入れに挟んだ。

『お付き合いをしている人はいるのか』、

『好きな人はいるのか』の質問を信也から受けながら、嫌な気持ちはしなかった。

ハルに信也のことを言われ、意識せずに接しているといえばウソになるが、

今までのイメージ通り、真面目そうで行動や言動にも嫌みは何もない。

ここに入って仕事をするのは、体力的に大変ではあるけれど、

文乃自身はやりがいのようなものも感じていた。

そんな自分を認めてもらったことに、少しずつ、気持ちが動き始める。

文乃は夏祭りが終わった後、信也に誘われたことをきっかけにして、

外へ出てみようかと、そう思い始めていた。





「山吹さん、これお願い」

「はい」


『リファーレ』の秘書室。

いつもなら灰田と行動をともにしているはずの有紗は、

ここのところ社内での雑務が続いていた。

灰田自身が、会議などで社外に出ることが増えていること、それが一番の理由だが、

今までのように、同行させてもらえないことに、有紗は少しずつ不満が膨らみ始める。

二人でいる時には、甘いささやきも、将来への期待をさせるようなコメントも、

十分すぎるほど出してもらえるのに、この1週間は、まるで有紗のことなど、

目に入らないくらいの状態で、灰田は目まぐるしく動いていた。

有紗は、そんなときこそ、全ての面で役に立ちたいと思うのに、

今日も、書類整理や名刺の管理でPC画面を見つめているだけになり、

時間は夕方近くなる。


「山吹さん、電話」

「電話?」

「灰田部長」

「……はい」


秘書室に連絡が入り、有紗はすぐに受話器を上げた。

相手は灰田で、今から移動する先に、

いつも頼んでいるファイルを、持ってきて欲しいという任務だった。

有紗は、灰田が語った場所を間違えないようにとメモに取る。


「すぐに向かいます」


灰田からの連絡だというだけで、有紗の気持ちは高ぶった。

これを持っていけばきっと、何かしら会話が交わせるはずだと思いながら秘書室を出る。

有紗は言われたファイルを、蓋つきのフィルムバッグに入れると、

同僚たちよりも少し早めに、本社を出た。



【12-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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