12 信頼が崩れだすとき 【12-3】

【12-3】
有紗が指定された場所には、

実は大輔も宮石からの連絡を受け、カメラを準備し向かっていた。

先日、一緒にいるところをスクープした大物政治家と、

灰田が長く付き合っている愛人と言われる業界紙の記者、

そして今回のクーデターを繰り広げるメンバーが、

全て集合するという情報が手に入ったという。

灰田を『リファーレ』に引き抜き、

着々と進めてきたクーデターの決行は週明けと決まり、

そのための最終段階を迎え、決定的な写真を残しておこうと、

数名のカメラマンが集合することになった。

大輔は大物政治家が出席している、都内のイベント会場に向かい、

そこからの動きを追いかけることになる。

この時期になると、選挙活動のひとつとして、地域の夏祭りや、

小学校などのイベントにも、顔を出すことが決まっていたため、

政治家はほぼ時間通り、あいさつ回りを終えて、集合場所へ向かうことになった。

大輔は宮石に連絡を入れて、その動きを追いかける。

最終的にその政治家が向かう場所はわかっていたので、大輔は先回りした。

そこは以前も張り込んだ場所で、向かいのコーヒーショップに席を取ると、

店の前に立つ人たちを、とりあえず写真に収めていく。

大輔よりも少し遅れて、業界紙の記者、つまり灰田の愛人が姿を見せた。

そして、その後すぐに、灰田が数名の男性と姿を見せる。

大輔は、木の影にうまく隠れながら、灰田たちの姿を撮っていく。

後は、仕事を終えた政治家が到着するだけだろうと思っていると、

そこに有紗が歩いてくるのが見えた。

大輔は構えていたカメラを下げ、肉眼で有紗を確かめる。



有紗が灰田から指定をされたのは、この店ではなく、

その先にある、大輔がいるところとは別の『コーヒーショップ』だった。

そこに灰田が現れるだろうと思いながら、席につく。

しばらくすると携帯が鳴りだし、有紗は『はい』と返事をした。


『もしもし』

「あ……山吹です。少し前にお店に入りました」

『うん。今から、間宮という業界紙の記者がそちらに向かう。
私の名刺を渡してあるので、彼女と一緒にここへ来て欲しい』

「いえ、大丈夫です、一人で。部長のいらっしゃるお店はわかります」

『いいから、彼女を待って』

「あの……部長」


有紗は、どうして知らない人を待ち、一人で行くことが出来ないのかと聞こうとしたが、

灰田の電話は、呆気なく切れてしまった。

しかたなく間宮という女性が来るのを待っていると、

到着から5分後、おそらくこの人だろうという女性が、店内に入ってくる。

有紗は立ち上がり、軽く会釈をした。

『間宮あかり』はまっすぐに有紗のところへ向かってくると、

ポケットから『灰田』と自分の名刺を、2枚並べて出した。


「すみません、お待たせして」

「いえ……部長は」

「灰田さんは中に。とにかく私と一緒に来てください」

「はい」


有紗はあかりの言うとおり席を立つと、そのまま店を出た。

有紗は、あかりの後ろを歩きながら、どうしてこの人が灰田と一緒にいるのか、

そして、自分よりも前に立つのかと思い始める。

道路の反対側にいた大輔にも、そんな有紗の不安な様子はわかったが、

レンズを向ける気持ちにはならず、そのまま肉眼で姿を追い続けた。


「ここで結構です。資料を……」


あかりは左手を出すと、資料を渡して欲しいという態度を取った。

有紗は、咄嗟に資料を体に近づける。


「いえ、これは私が部長のところに」


有紗は、自分は灰田の秘書として、仕事を正確にこなしたいとそう訴えた。

間宮あかりは、その言葉を聞き、『ふっ……』と息を漏らす。

それはまるで、何を言っているのと、どこか上から有紗を見る態度だった。

有紗は、ファイルを強く握る。


「あなたは結構よ」


あかりはそういうと、あらためて有紗からファイルを受け取ろうとした。

有紗は、あかりの手を、自分の左手で止める。


「いえ、困ります。これは大事な社内資料です。
外部の方にお渡しするわけにはいきません。私の手で、部長に」


いくら灰田の名刺を持っている女性が来たとはいえ、

秘書として、ここは職務を途中で投げ出すわけにはいかないと、有紗は首を振った。

灰田の命令で来ているあかりに対して、わざと『外部』という言葉を口にする。

それは有紗の意地だった。

灰田の姿を見て、それを渡さなければならないと、中に入ろうとする。

あかりに笑われたと思った有紗の、立場は相手の方が上だとわかったうえでの、

精一杯の強がりでもあった。


「全く、面倒な人ね。わかりました。ここで待って」


あかりはそういうと、有紗を店の前に残し、中へ入った。

有紗もそのまま続こうと思ったが、重々しい雰囲気を感じ、足が動かなくなる。

名の知れた店なのだろうが、入り口からしばらく廊下が続くため、

どこに席があるのかすら、よくわからなかった。

有紗が今まで灰田と仕事をしていて、こういった場所に出入りすることはなかった。

トップモデルが並び、スポットライトの当たるようなCM撮影現場や、

『リファーレ』の製品が並び、撮影をするようなスタジオ。

いつも、光りがその場所にあり、常に灰田を照らしているような、

そんな華やかな場所ばかりだった。

しかし、今いるのはそれとは正反対とも言える場所で、

先が見えないような暗闇の向こうに、何かがあるという重たい空気だけが、

有紗に向かってくる。

すると、店の奥から灰田が姿を見せた。

今、一緒に歩いてきたあかりも隣にいる。


「部長」

「山吹、急いでいるから。資料を間宮さんに渡しなさい」

「あの……」

「いいから。君とここで話しをしている時間はないんだ」


灰田はそういうと、優しい言葉も、笑みを浮かべてくれることもなく、

有紗の前からまた奥へと消えていく。


「ほら、言ったでしょ。素直に渡してくれたらよかったのに」


あかねはそういうと、呆然としている有紗の腕の中から、資料のバッグを取る。


「灰田さんには、身勝手に踏み込まれたくない場所があるのよ。秘書だからといって、
あまり、ずうずうしく振舞わないほうが、身のためだと思うけど」


あかりはそういうと、有紗に『ごくろうさま』と言い、

灰田と同じ場所へ消えていく。

有紗は、しばらくその場に立ち続けていたが、仕方なく店の外に出た。

本社を出る頃には夕焼けも広がっていたが、今はほぼ暗闇が占めている。

有紗は、何もなくなった手を握り締め、一人駅へ歩き出す。

大輔はその姿を捉えながらも、最後まで有紗にカメラを向けることはしなかった。



【12-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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