12 信頼が崩れだすとき 【12-5】

【12-5】
次の日、大輔はすぐに起きると、近くのコンビニに向かった。

適当に食べられそうなパンを2つ、そして新聞を取る。



『株式会社リファーレ 創業者一族に反旗』



宮石が予想していた通り、

『リファーレ』の創業者一族に対する、クーデターの話題が誌面を飾った。

外部理事や、社内の役員たちともすでに約束事を取り付けていた現在の常務が、

この週明けにでも、新しい社長になるのではないかと、名前を挙げられている。

『灰田啓次』の名前は、この中には見えないが、間違いなく黒幕の中にいる一人で、

華麗な経歴が表に出てきたとき、世の中がまた新しく動き出すことになるだろうと、

大輔は思いながらレジに向かう。

店員から値段を告げられ、千円札でお釣りをもらうと、それをポケットに押し込み、

そのまま店を出る。

誰が企業のトップに立とうが、どういう形で幕を引こうが、

そんなことは大輔にとってどうでもいいことだったが、

ただ、有紗がこれからどうなるのか、そのことだけが気にかかった。



「大丈夫だからお母さん。うん。私は社員だもの、何も変わらない」


その頃、有紗は別に暮らしている母親からの電話を受け取り、

初めて会社の一大事を知った。

以前から、公私混同とされていた創業者一族のやり方に、不満を持っていた社員は多く、

少なからず、こういったことも噂はされていた。


「会社がなくなるわけではないし、仕事も変わらないから」


有紗の母は、娘の説明に『そうだよね』を繰り返し、電話を切った。

有紗は、あらためて携帯を取り出し、『リファーレ』の動きを知ろうとする。

噂のクーデターが実際に起こってみると、親には大丈夫だと言ったものの、

はたしてこれからも同じ待遇が保証されるのかどうか、不安になり始める。

それなりのニュースを検索すると、そこに『灰田啓次』の名前を見つける。

元々、コ-ディネーターの仕事を持ち、企業のイメージアップに力を注いできた男は、

過去にも企業同士の提携などに、名前を連ねてきた。

今回、子会社化した企業の受け入れに対する仕事依頼をしたつもりの経営側は、

まんまとその手腕に騙されてしまったということになる。



『有紗……』



自分の場所は、色々な意味でこれからもあるのだろうかと、

有紗は灰田について書かれた文字だけを追い続けた。





『リファーレ』が、会社全体をひっくり返すような話題に飲み込まれていた日、

幼稚園が休みだった陽菜は、待ち合わせの駅前に立っていた。

車で出かけようと話してくれた瞬が、ここへ迎えに来ることになっている。

朝は、身支度に忙しく、ニュースも見ていなかった陽菜は、

駅の売店で取りやすいように丸められ、売り場に置かれている新聞の見出しによって、

初めて『リファーレ』のことを知る。

見える部分だけを目で追っていると、創業者一族に対する厳しい見出しが多く、

クーデター側の方が、正しいような論調だった。

見出しをいくつか読みながら、陽菜の脳裏に有紗の顔が浮かぶ。

すると、後ろからクラクションの音が聞こえた。陽菜は慌てて振り返る。

車の中にいた瞬が、陽菜の方に向かって手を振った。

有紗はすぐに気付き、車の方に走っていく。

瞬は助手席の扉を開け、走らなくてもいいのにと笑顔を見せた。

陽菜が中に入ると、瞬は運転席に戻り、シートベルトをつける。


「ごめんなさい、新聞に『リファーレ』のことが書いてあったから」

「あぁ……驚いたよ。実際に動くのは週明けだろうけれど」


瞬も、今朝の新聞で知ったと、エンジンをかけるとアクセルを踏む。

車はロータリーを半周するとウインカーを出し、左に曲がろうとする。


「有紗はどうなの? 何か問題ありそう?」


瞬は、運転席からサイドミラーを見て、後ろを確認すると、

そのままアクセルを踏み、流れに乗った。

陽菜は、ハンカチを取り出し、少し汗ばんだおでこを押さえる。


「わからないけれど、確か広報部長の秘書をしているって、そう言っていたの。
広報部長だと、どうなんだろう」


陽菜は、会社を立て直す方なのか、追いやられる方なのかと心配する。


「電話、してみたら?」


瞬は、様子を聞いてみたらどうだと、提案した。


「うん……でも、今日はやめておく。実際、有紗もよくわからないかもしれないし。
私もわからないのに、教えてくれって言うのも……」

「そうか、それもそうだな」


陽菜は、週末で会社も休みだろうしと、そう言い返した。

瞬は、納得するように数回頷き、スピードを上げる。

駅前の住宅街から、幹線道路に出ると、

陽菜は、あらためて運転席に座る瞬の横顔を見た。

迎えに来てもらい、当たり前のように助手席に座ったが、

足元に、ビーズで作られたかわいらしい花を見つける。

携帯電話につけそうな飾りがあったことに、陽菜はこの場所は、本来、

別の女性のものなのだと感じてしまう。


「こうして車を運転するのも、久しぶりだな」


瞬は、店に出ることが多くて、どうしてもお酒を扱うから、

車を乗ることが少なくなったと、軽く笑ってみせる。


「あの頃は、自分がバーの店長になるなんて、考えてもみなかったけどね」


『あの頃』とは、陽菜との思い出が蘇る大学時代のことだと、瞬は続けて話した。



【12-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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