13 親友に語られる秘密 【13-2】

【13-2】
山の事故に遭い、和臣から別れを告げられた頃には、本人も落ち込み、

この先はどうなるのかと考えていたのに、リハビリを始めてしばらくすると、

怪我や後遺症など乗り越え、気持ちはさらに前向きになったと思えるくらい、

文乃は明るく笑ってくれていた。

だからこそ、大輔は、安心して長い仕事の旅にも出ていた。

今思えば、いつでも自分の代わりを受けてくれた司の優しさに、

自分自身が頼っていたことに気付かされる。


「演技する必要がなくなったとき、初めて現実を見せられた。
文乃さんは、自分の彼女ではなくて、大輔の姉さんだということ。
役目がなくなったら、自分はここにいてはいけないし、また、
『弟の友達』と言われるような距離に、戻らなければならないんだと……」



『司君……ダメ……』



「自分が初めて抑えられなかった。お礼だと、スポンジケーキを焼いてもらって、
感謝の気持ちを言われたとき、どうしてもこの人を離したくないとそう思って……」


話を聞いている大輔の手が、自然と握られる。


「背中を向けた文乃さんを……後ろから抱きしめた」


そばで聞き続けていた祥太郎も、唇をかみ締める。


「抱きしめてそのまま押し倒した。自分の気持ちをどうしてもわかって欲しくて。
足が悪いこともわかっていたはずなのに、自分の行動が止められなかった。
文乃さんは必死に抵抗したんだ。俺に何度もこんなことはダメだ、
俺は、大輔の友達だからって。でもそう言われたら、違う……
俺は大輔の友達だから、ここにいるわけじゃないんだって、
余計に気持ちが前に向かってしまって……。その時だった」


司は、自分の袖口にあるボタンを外し、左腕のシャツをめくる。

大輔と祥太郎の前に出したのは、明らかに傷がついた腕だった。


「文乃さんが必死につかんだカッターが、俺の腕に当たった。
倒れたときにぶつかって転がったペン立てに入っていたんだと思う。
文乃さんは、俺を脅かそうと思っただけで、切ろうとしていたわけじゃない。
だから、腕から血が出たとき、俺より驚いて震えたのは彼女の方で……」



『あ……司君……どうしよう……』



「その文乃さんの震える声を聞いて初めて、
俺も自分が卑怯なことをしていることに気がついた。
力に任せて、押さえつけて、自分のものにしようだなんて……」


司は、謝り続ける文乃を残し、アパートを飛び出たのだと話す。


「腕の傷なんてどうだってよかった。でも、謝罪しなければならないと思っても、
二人で会うことに自信がなくて。いや、連絡を取って拒絶されるのが怖かった。
それでもこのままではいけないと、毎日、毎日電話を握ってはため息ついて。
そんな日々を過ごしていたら、文乃さんが、今の仕事先を選んだと聞いた」


大輔は、誰にも何も言わず、環境を変えようとした文乃の気持ちを考え、

流れてきた時間が、戻っていくのを感じた。

そのスピードがあまりにも速くて、鼓動とともに体温まで上がっていく気がしてしまう。


「外との交流を避けたような場所に就職したのは、大輔、お前が悪いわけじゃない。
悪いのは……俺だ」


司はそういうと、畳に頭がつくくらい必死に下げた。

祥太郎は、そこで初めて大輔に対し、司は本当に文乃さんが好きだったのだと訴える。


「大輔、司が、文乃さんを好きなことは、俺もわかってたんだ。
でも、相手がいるしって、司はずっと気持ちを押し込んできた。
今の話は俺も初めて聞いたけれど、でもさ、どうしてもって気持ち……
お前も男ならさ……大輔、わかるだろ」


祥太郎は二人の間に入り、司を庇う正論を、必死に大輔に訴え続ける。

大輔はそれを聞きながら、怒りと哀しさと情けなさが、

自分の心の中で複雑に混ざり合っている苦しさに、

普段どおりにしようと思う呼吸が、少しずつ荒くなる。

頭を下げ続ける司と、司の気持ちに気付いていてなんとか間に入ろうとする祥太郎。

自分と司の関係を考え、何も言わずに身を引いた姉、文乃のこと。

『自分だけが、何ひとつ知らなかった』という罪の意識に、大輔は両手を握り締め、

悔しさを必死に我慢する。

しかし、その我慢をどこにぶつけたらいいのかわからず、

大輔は握り締めた手を、座敷の畳にたたきつけた。

大輔の複雑な拳は、鈍い音をさせる。

その振動だけは、頭を下げ続けている司にも伝わった。


「司……どうして今まで黙っていた」


大輔の言葉にも、司は上を向くことはなく、下を向いたままになる。


「なぁ、顔を上げろ。どうして、今まで黙っていたんだよ」


司が姉、文乃を好きだと思っていたこと。

二人の間に、押し込まれていた秘密があったこと。

大輔は、もっと早く知っていたら、文乃にも司にも何かが出来たのではないかと、

そう考え、声は自然と大きくなる。


「司……お前今、その出来事から何年経っている。どうしてすぐに話してくれなかった。
姉ちゃんからは、何ひとつ聞いていない。お前のことも、和臣さんのことも」

「大輔……」

「お前とのことだから、俺の友達だから、こんなことがあったと誰にも言わないで、
いや、言えないで。じっと……耐えて来て」

「耐えているのは、司だって一緒だ!」


祥太郎はそういうと、頭を下げたままの司の肩に触れる。


「言えないよ、大輔。お前との付き合いだって、無くしたくないしさ。
人に話すことで、文乃さんのことも、これ以上傷つけたくないしって、司だって……」

「祥太郎、いいんだ。大輔にしてみたら、なんてことをしたって、
そういう気持ちだろう。俺だってそう思っていたから言えなかった。
軽蔑されることもわかっていたし、大輔と付き合えなくなるのが、
怖かったのも事実だから」

「でも……」

「それはわかってここへ来たんだ。もう二度と会わないと言われても、
それでも仕方がないと思って」


司は、少しだけ上がった頭を、『ごめん』と言った後、また下げてしまう。


「ずうずうしいことも承知で、最低だと言われることも承知で、ここへお前を呼んだ。
他の方法など思いつかないし、ありえない。お前に頭を下げるしかなくて」


大輔は、訴え続ける司を見た。

苦しい思いを訴える姿に、開きかけた口は、そのまま閉じられる。

司の頭が、ゆっくりと上に向き、大輔と視線が重なっていく。


「大輔……俺はこのままじゃ、終わったことになんて出来ないんだ。
全てをさらけ出して、殴られても蹴られてもとそう思ってきた。
だから、最後に一つだけ頼みを聞いて欲しい。どうしても、文乃さんに会いたい」


司はそういうと、もう一度しっかりと頭を下げた。

このまま、謝罪が出来ないのは申し訳ないからと、訴える。


「大輔、俺からも頼む。文乃さん、見合い話があるんだろ。
司、それを聞いて、話すつもりになったはずだから」


祥太郎も座席に上がると、司の横に座り、一緒に頭を下げる。

大輔と司が話をしている間に、『華楽』から音が消えていた。

業務用の冷房が、上昇していた温度を下げようと機械音をさせる。

互いに思いを吐き出した3人の、誰からも声が上がらない状態が数分続いた。


「何しているんだよ、祥太郎。お前まで」

「だってさ……」


祥太郎は、その言葉の先が、出てこなくなる。

大輔は、自分に頭を下げたままの司を見ながら、過ぎてきた日々を思い返した。



【13-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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