13 親友に語られる秘密 【13-3】

【13-3】
確かに文乃は、今の仕事について、距離を開けてしまったように思えるけれど、

寮を尋ねると、いつも大輔のことを気にしながら、司と祥太郎のことも気にかけていた。

それは大学時代から面倒を見てきたから、気になるのだと思っていたけれど、

はたしてそれだけだろうかと、大輔は考え始める。


結婚が破談になり、一生の怪我を負ったはずなのに、辛いリハビリを頑張る文乃は、

今よりももっと前向きだった気がする。

前向きになってくれたのはどうしてなのか、大輔はあの頃、自分も司に甘え、

何も考えていなかったのだと、そう振り返った。

いや、社会人としてしっかり一人立ちした今でも、文乃と会えば常に姉と弟で、

心配する方とされる方の状況は、何ひとつ変わっていない。

口では、幸せになれと言い続けてきたくせに、大輔は何ひとつ、

身近な場所で起きた出来事に気付けなかった。

大輔は、あらためて司のことを見る。

目の前で、申し訳ないと深く頭を下げ続けた親友に、

これ以上、強い言葉を浴びせる資格があるだろうかと、一度大きく息を吐いた。


「司……顔、あげろ」


大輔の声に、司はゆっくりと顔を上げる。


「お前さぁ……そういう話しは、ビール開ける前に言えよ。
コップに入れたまま、放りっぱなしって……」


大輔は泡の出なくなったビールを見ながら、苦笑する。


「今、言ったとおりだ。どうして早く言ってくれなかったって気持ちはあるけれど、
でも、この話に驚きはあっても、お前を怒る気にはならない」


大輔は、自分は司に対して、怒りの感情をぶつけられる立場にないと、

あらためて首を振る。


「そうか……そういうことだったのか」


姉の文乃が何も言わずに、仕事を変えてしまったのは、

これからも続くはずの、大輔と司の関係を考えてのことだったと、初めて気付かされる。


「はぁ……俺は本当にダメだな。弟としても、友達としても」

「大輔……」

「いや、今、心の底からそう思うんだ。本当に何も気付かなかったよ。
お前の気持ちも、姉ちゃんの考えも。そう、あの頃、仕事が入り始めて、
流れを失いたくなくて。俺、お前に何度も姉ちゃんのリハビリのこと、頼んだよな」


大輔は目の前にある、ビールが入った司のコップに、自分のコップを軽く当てて、

乾杯の仕草をした後、ビールを飲んだ。

泡はすでに消えてしまっていたが、喉越しなど考えず、半分くらい押し込んでいく。


「大輔、新しいの出すから」


祥太郎は立ち上がり、新しいものを持ってくるとサンダルを履く。


「いいよ、祥太郎」

「でも……」

「いいから……今は、これを飲みたい気分なんだ」


大輔は、祥太郎の動きを止める。

大輔は、ビールの減ったコップを見つめたまま、しばらく無口になった。

そして、残ったビールを飲んでいく。

祥太郎は、司の告白から、過去を振りかえっている大輔の気持ちを思いながら、

ゆっくりと厨房に向かう。

閉店の時間には少し早かったが、3人の様子に気付いた圭子は、

店の裏口から外へ向かうと、暖簾を外して戻ってくる。


「なぁ、司」

「うん」

「お前さ、姉ちゃんに会って謝罪したいって言ったけれど、今はどうなんだ」


大輔は、あれから数年経った今、文乃に対してどういう気持ちなのかとそう尋ねた。

祥太郎はケースからビールを取り出し、その答えを聞くために司の方を向く。


「今、お前の気持ちは、どこにある」


大輔は、あらためて司の顔を見る。

辛い出来事があった後、司の言葉を信じるとすれば、

二人は一度も会っていないことになる。時は流れ、年齢も重なった。

当時とは抱えているものも、見えているものも違っているだろうと思いながら、

大輔は司の答えを待ち続ける。


「別に責めているわけじゃないよ。正直に……」

「今も俺は何も変わらない。思いはずっと、文乃さんのところにある」


司はそういうと、自分自身の答えに対し、しっかりと頷いた。

数年の時が重なっても、姉を思うと宣言した司に大輔はコップを渡す。


「そうか……」

「あぁ……」

「よし、それならほら、お前も飲めって。これ、もったいないだろう」


大輔が差し出したので、司は泡の消えたコップを持つと一気にビールを飲む。


「これで一緒だ」

「うん……」


司はコップをテーブルに置く。

大輔は、冷房の冷たい風が肌に触れていくのを、その時初めて感じた。


「俺は、構わない。いや、司の話を聞いて、姉ちゃんが素直になってくれたらと、
本当にそう思うけれど。でも、こればかりは……」

「わかっている。文乃さんにも、文乃さんの思いがあるはずだから。
押し付けるつもりはない。あの出来事で、完全に軽蔑されていても、
文句など言えないからさ」


司は、あくまでも文乃に権利があると、そう告げる。

大輔は、覚悟を決めた友の顔を、あらためて見た。

同じ男として、これだけ一人の女性を思い続けられる強さと、優しさに、

なんとか自分の出来ることだけはしようと決心した。


「とりあえず、司が会いたいと思っていることはわかった。なんとかしようと思う。
このままじゃ、どっちにもよくないだろうし」


祥太郎は大輔が前向きであることがわかり、これは自分がおごるからと、

新しいビールを開けようとする。


「いや、待て! 祥太郎。お前もこれを飲め」

「……エ これ?」


大輔はそうだと言いながら、自分が空にしたコップにビールを注ぐ。

祥太郎はわかったよと言いながら、ビールを飲んでいく。


「うん……瓶から入れたら、まだ飲めるよ」

「そっか、よし。それならこれを飲んでから、新しいものを開けよう」


大輔はそういうと、腹が減ったから何かを作ってくれと祥太郎に注文する。

司も、餃子とそれ以外に数点作ってくれと、声を上げた。



【13-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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