13 親友に語られる秘密 【13-6】

【13-6】
『話しがあるんだ。今夜、寮に行きます』



そのメールを受け取った文乃は、

大輔が何を話すつもりになっているのだろうと考えながら、部屋のカーテンを開けた。

眩しい日差しが文乃を照らし、思わず左手で日よけを作る。

もしかしたらお付き合いする人でも出来たのだろうかと思いながら冷蔵庫を開け、

大輔が来るのなら、何か作ってあげようと考えた。



「おはようございます」


大輔に全てを話した司は、

あらたな気持ちを胸に『アモーラ』の営業所に到着し、PCを立ち上げた。

新商品をお願いしていた企業から、もう一度話を聞きたいという、

連絡メールが入っていたため、その内容を読み終えるとすぐに電話をかける。


「おはようございます。『アモーラ』の緑川です」


それぞれの1日が、また始まろうとしていた。





火曜日の午後、負傷した吉田に仕事を代わった大輔は、『新町幼稚園』に向かった。

入り口前まで来ると、お帰りの子供たちが列になっていたので、

大輔はその波をよけるようにし、入り口にあるインターフォンを鳴らす。

『フォトカチャ』から来ましたと告げると、職員はすぐに扉を開けてくれた。


「すみません」

「すぐに主任を呼びますので、お待ちください」

「はい」


大輔は以前も通された職員室に入り、ソファーに腰掛けた。

仕事途中の先生たちが、数名出入りを繰り返す。

ピラニア騒ぎを起こしたあの水槽が見えたので、大輔はただ座っているのも暇で、

その水槽の前まで進んだ。小さな魚たちが楽しそうに中を泳いでいるのを見ていたら、

大輔は急にズボンの端をつかまれ、危うくバランスを崩しそうになる。


「おっと……」


大輔の影に隠れるようになったのは、遠足でお菓子をくれた舞ちゃんだった。


「あれ? 君」


舞ちゃんは、大輔の顔を見ると、指で『シーッ』とポーズを取る。

その後、数人の園児が廊下を走ってきた。


「あ、舞ちゃん、ここにいる。先生、ここにいる」


一人の男の子が、大きな声で先生を呼ぶと、舞ちゃんはさらに大輔にしがみついた。

大輔は舞ちゃんの前で、盾のようにされ、どうしたらいいのか迷ってしまう。


「あぁ……舞ちゃん。おばちゃんと一緒に帰ろう。ママ、病院だってそう言ったよね」

「いや!」

「舞ちゃん」


舞ちゃんを呼びに来たのは、同じ団地に住む別の園児の母親だった。

その後ろから、陽菜も現れる。


「あ……」

「どうも」


大輔は、舞ちゃんを後ろに隠しながら、陽菜に挨拶をした。

陽菜もすぐに返礼するが、そこから表情を変え、

隠れているつもりの舞ちゃんに声をかける。


「舞ちゃん。今日は竜君のママと一緒に帰ってくださいって、
先生、ママから言われているから、ほら、行こう」

「いや! 舞ちゃん、ママが来なければ帰らない」

「舞ちゃん……」


舞ちゃんは、大輔の洋服をつかんだまま、その場で足をジタバタとさせ始めた。

陽菜は舞ちゃんに、そんなわがままを言うと、ママが悲しむよと声をかける。


「いいの、ママなんて嫌い。舞、パパがいい……」


舞ちゃんはそこまで言うと、大きな声で泣き始めてしまった。

ママが来なければ帰らないと叫んだ後、急に嫌いだと言い泣き始めたことに、

大輔はどういう状態なのか理解が出来なくなる。

小さな子供の手の感覚が背中から伝わり、それを振り払うことも出来ず、

助けて欲しいと陽菜を見た。


「すみません」

「いえ、俺はこういう場合、どうすれば」


その騒ぎを聞きつけたのか、園長先生が奥から姿を見せた。

のしのしと音が聞こえそうなくらい、大地を踏みしめる歩き方と、

厳しい表情がサファリパークにいるような動物と重なり、

大輔はこのままだと、舞ちゃんが首をつかまれて、放り出されてしまうのではないかと、

妙な想像力を働かせてしまう。

今ならまだ間に合うと、思わず背中に手を伸ばした。


「よぉし!」


大輔は振り返り、舞ちゃんを抱き上げた。

舞ちゃんは、予想外の動きに、驚くのが精一杯で目を丸くする。


「わがままを言っているのは、誰だ? 
遠足の時には、俺におやつをくれた優しい子だったのにな……」


大輔は舞ちゃんを抱き上げたまま、このまま水槽に落としちゃうぞと、

ふざけてみせる。始めは驚いていた舞ちゃんも、

大輔の動きに、だんだんと表情が落ち着き始めた。

緊張していた表情が、穏やかなものに代わり、

それを見ていたお迎え組みの子供、竜彦も、自分も抱き上げて欲しいと手を伸ばす。


「ダメ!」


舞ちゃんはそういうと、大輔の首に手を回す。

陽菜は、舞ちゃんの、いつにも増してわがままな様子を見ながら、

やはり、父親が出て行ってしまった影響があるのだとそう考える。


「はるな先生。10分だけ、いいですか」

「……はい」


大輔は舞ちゃんを抱き上げたまま、廊下を歩き出し、途中で竜彦君と交代する。

廊下を何度か行ったりきたりしていると、二人は満足できたのか、

竜彦の母親と一緒に、幼稚園を去っていった。

大輔はあらためて職員室に戻る。


「すみませんでした。園児たちがご迷惑をかけて」

「いえ、まだまだあれくらいなら、軽いですよ。
毎日カメラを持って移動しているので、こう見えても、結構、力だけはあるんです」


大輔はそういうと、最初に座ったソファーへ戻る。


「今……お迎えに来ていた他の母親が、外で話していましたけど、
あの子、父親が出て行ってしまったのですか」


大輔は、何げなくそう陽菜に問いかけた。

陽菜は、個人的なことなのでと、言葉を濁す。


「あ、すみません、俺、余計なことを」

「いえ……」


陽菜は、大輔の話をあえて否定しないことで、理解してもらおうとそう思っていた。

大輔は、そうなのかと頷いていく。


「あんな子供を残して……無責任だな」


大輔はそうつぶやくと、仕事の話をしましょうと、手帳を取り出していく。

陽菜は大輔の顔を一度見たあと、『じゃがいも畑』の地図を取り出した。



【14-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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