14 こぼれ落ちる苛立ちの涙 【14-1】

14 こぼれ落ちる苛立ちの涙
【14-1】
「ですので、その件に関しましては、灰田が戻り次第……はい」


週末から『クーデター』のことが明らかになり、

『リファーレ』は、株主や取引先からの連絡が、ひっきりなしになっていた。

秘書課で、普段は別のところにいる有紗も、

灰田の行方がわからないため、雑務をこなし続ける。

すると、内線電話が鳴り、灰田が社内に戻ってきたと連絡を受けた。

有紗は、すぐに声を聞こうと持ち場を一度離れる。

廊下を歩き、いつも打ち合わせをする部屋へ向かう。

扉をノックすると、中から聞きなれた灰田の声がした。


「失礼します……部長」


有紗が扉を開けると、そこにいたのは、灰田と先日店で待ち合わせをしたあかりだった。

二人は楽しそうに笑っていたのか、あかりはハンカチで目を押さえる。


「あぁ……もう、お腹がよじれそう」

「何を言っているんだ」


あかりは有紗の表情に気付くと、それではこれでと立ち上がる。


「灰田部長、またご連絡お待ちしています」

「あぁ……これからも頼みます」


灰田もあかりにそう挨拶をすると、椅子から立ち上がった。

あかりは入り口に立つ有紗の横を歩く。

何気なく向けた視線に飛び込んできたのは、あの日よりさらに自信をつけたような、

あかりの挑戦的な目で、有紗は文句を言われたわけでもないのに、

動けなくなってしまう。それでも、扉はバタンと閉まり、

部屋には灰田と有紗だけになった。

あかりが去った後、有紗は、タバコを吸っている灰田の背中を見る。


「あの……」

「色々と惑わせてしまったのは申し訳ない。でも、君にもわかるだろうが、
あまりにも内容が大きすぎて、明らかに出来なかった。一番僕のそばにいる、
有紗に話せなかったのは、本当に心苦しかったけれど、まぁ、それも、もう少しだ」


灰田はそういうと、有紗の方に振り向いた。

その顔は、先日とは違い、優しく穏やかなものになっている。


「部長、プロダクションの社長が2件、それに……」

「仕事の話しは、後にしてくれ」


灰田はそういうと、有紗の前に歩いてきた。

そばにあった灰皿でタバコを消すと、黙ったままの有紗を、両手で抱きしめる。


「仕事はこれからゆっくりと処理していく。まずは……君の香りだ」


灰田は、有紗の髪にゆっくりと触れながら、その指でさらに耳に触れる。

有紗は、そのゾクッとするような指の動きに、数分前まで持っていた、

不安な気持ちを、封じ込められてしまう。

有紗は、灰田の腕に包まれながら、黙って目を閉じる。


「また、しばらく時間が取れないかもしれない」


灰田は、結果的に『クーデター』は成功したように見えるが、

相手方もこれだけではないため、油断は出来ないとそう話す。


「部長……私は何をすれば」

「君は、何も考えなくていい。ただ、私の指示を待ってくれ」


灰田はそういうと、さらに強く有紗を抱きしめた。





陽菜と幼稚園での打ち合わせを終えた大輔は、そのまま『アプリコット』へ向かった。

最寄り駅で降りた後、住宅街を歩いていると、後ろから近付いた救急車に、

素早く追い越される。大輔がその行き先を見ていると、

救急車は『アプリコット』に入り、サイレンを止めた。

数人の職員が慌しく動き、そして救急隊員が担架を持って現れた。

一人の女性が横たわっている担架は、そのまま救急車に入っていく。


「一番そばにいた方は、どなたですか」

「はい、私です」


声をあげ、前に出てきたのは文乃で、そのまま救急車へと乗り込んでいく。

大輔が声を出す間もなく、救急車はまたサイレンを鳴らし走り出した。

ざわついていた職員たちが、元の仕事に戻ろうとする。


「あの……」

「はい」

「いつもお世話になっています。白井文乃の弟ですが、今……」

「あぁ……はい」


大輔の問いかけに、先輩介護士は、今、昨日から体調を崩していた入居者が、

食事中にうまく飲み込めなくなり、救急車を呼んだのだと説明してくれた。

食事介助を担当していたのが文乃だったため、状況を話すため、救急車へ乗ったという。


「あぁ、そうですか」

「完全看護の病院ですし、白井さんもしばらくしたら戻られると思いますけれど」

「はい……」


大輔は、救急車が来たことで動揺している入居者たちに、対応している職員の様子を見る。


「わかりました。また後で連絡してみます」


事情を話せば、『アプリコット』の中で待つことも可能だろうが、

大輔は、一度この場所を離れることにした。

夕食の頃に電話をしてまたくればいいと、結局、『華楽』へ顔を出すことにする。

店では、黒木家の3人が、いつものように料理を作っていた。


「へぇ……文乃さんが」

「うん。目の前で救急車に乗っていったから、何も言えなくて」

「そうだよな、それは」


大輔は、文乃が好きだからと、春巻きやシュウマイをお土産にしようと考え、

祥太郎に注文する。


「よし、わかった。後で」

「うん」


カウンターに座る大輔の後ろから、

圭子が、『天津丼』のオーダーを厨房にいる二人へ入れる。


「祥太郎」

「ん?」

「お前やれ」

「……うん」


明彦は、ちょっと腰が痛いからと言いながら、厨房を出て行ってしまう。

大輔は、その様子を見ながら、まだ機嫌が悪いのかと、問いかけた。

祥太郎は明彦が見えなくなったことを確認し、首を振る。


「あれでも、精一杯俺に色々と教えているつもりらしい。
いいか、これはこうだって、直接言えないのかよと思うけどさ」


祥太郎は卵を冷蔵庫から取り出すと、容器に入れてかき混ぜる。

大輔は、祥太郎の調理姿を見ながら、コーラをグラスに注いだ。



【14-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3201-783db7fa

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
361位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>