14 こぼれ落ちる苛立ちの涙 【14-4】

【14-4】

扉がパタンと閉まり、大輔がこの場を離れたことがわかると、

文乃は今まで張りつめていた気持ちが、抜けてしまうような気がした。

布巾を持ったまま部屋の中に戻り、腰が抜けるようにペタンと座り込む。



『ずっと……好きでした』



あの出来事を、司が大輔に語るとは、思わなかっただけに、

文乃は大輔に、何を言い、どう答えたのかもわからなくなっていた。

司にとってみたら、自分との関係よりも、

大輔との友情の方が長く深いものだと思っていただけに、

『覚悟』を知った気がして、その重さに冷静さが保てなくなった。

文乃は、テーブルの上に残された1枚の写真に気付き、ゆっくりと手を伸ばす。

そこには、今の大輔と同じように、今の司が収まっていた。



『私が、司君に甘えてしまったのが悪いの』



文乃は、写真で笑っている司の顔を見る。

こうして顔を見ているだけで、押し込めていた思いが、

心の底から湧き上がりそうになるのを、自分自身感じてしまう。

文乃は、両手で写真を持つと、あの頃から、数年の月日を重ねた司の顔を、

ただじっと見続けた。





『じゃがいも収穫』の日。

大輔は予定通り、子供たちの笑顔をたくさん撮影した。

泥だらけの手を誇らしげに見せてくる子。掘ったじゃがいもの大きさに、

目を丸くしている子。そして、小さなじゃがいもを自分の目に当てて、ふざける子。

それぞれの特徴が表現されていて、撮り終えたリストを見ていると、

自然と笑顔になれた。


「どうですか? 子供たち」

「あ……なかなかです。すぐにリストは出せますので、また届けます」

「はい」


イベントを終え、大輔はまた職員室に入り、陽菜と向かい合った。

大輔が本当に楽しそうに写真を見ているのがわかり、

陽菜は、なんだかおかしくなり、笑ってしまう。

大輔は、陽菜がどうして笑っているのかがわからずに、

何かおかしなところがあるだろうかと、自分の体を確認した。


「すみません、いえ、あの……なんだか白井さんのギャップがおかしくて」

「ギャップ?」

「そうです。ほら、飲み会のときとか、白井さん、おとなしいでしょう。
最初の飲み会では、緑川さんが大輔は怒っていないって、わざわざ言ったくらいで」

「あぁ……」


大輔は、昔から愛想がないのでと、少し照れ笑いをする。


「そういえば、赤尾さんは変わりましたよね」


大輔は、この間の飲み会では、前よりもとても楽しそうだったと、そう言い返す。


「遠足の時に園児に見せていたような、キラキラ笑顔でしたから」


大輔は、何かいいことでもありましたかと、陽菜に尋ねる。

陽菜は、先週末、瞬とドライブデートをしたことを思い出した。

最後に交わされたキスの余韻が、また蘇りそうになる。


「さぁ、どうでしょう」

「あはは……それ、ありましたって言っているようなものでしょう」


大輔はそういうと、またレンズに目を向ける。


「あの子……休みでしたね」


あの子とは、舞ちゃんのことだった。

陽菜は、今朝、母親から連絡がありましたとそう説明する。


「風邪でも?」

「いえ……ちょっと」


家庭の事情なので、語るわけにはいかず、陽菜は笑って誤魔化した。

大輔は、また余計なことを聞いたようですねと、笑い返す。


「大変ですね、幼稚園の先生も。家庭のことが、見たくなくても見えるし」

「まぁ、そうですね」


陽菜は、大輔のコップに麦茶を足していく。


「でも、『フリーカメラマン』の白井さんだって、
見たくないものを、見たりすることがあるんじゃないですか?」


何気なく出たセリフだったが、大輔はすぐに有紗のことを考える。


「まぁ……確かに……」


陽菜は、大輔の、どこか気まずそうな表情を見る。


「すみません、私も余計なことを」


陽菜がそういうと笑ったため、大輔もまた笑顔になった。


「そうだ、黄原さんと、山吹さんは元気ですか?」


大輔は、先日『リファーレ』の騒動を新聞で読んだと、そう話し、

有紗がどんな様子なのか、聞きだそうとする。


「真帆は相変わらずだと思いますけれど、有紗は、忙しそうで……
メールの返信が戻ってこないと、真帆が愚痴っていました。
私は、今、色々と大変だろうから、落ち着いてからもう一度連絡したらと、
真帆には言いましたけど」

「そうですか」


大輔はカメラをケースにしまう。


「それじゃ、また」

「はい、お疲れ様でした」


大輔は仕事道具を肩にかけると、幼稚園を出た。



【14-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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