14 こぼれ落ちる苛立ちの涙 【14-5】

【14-5】

それから3日後、クーデターによって失脚させられた『リファーレ』の創業者一族が、

今ある株だけを保有し、経営からは一切手を引くことにしたという会見が行われた。

社長を始めとしたスタッフは、従業員側の計画通りとなり、

大手アパレルメーカー『リファーレ』は、新しい1ページを開くことになった。

有紗は、その発表を同僚たちと社内で聞き、その日の昼食を迎える。


「どういうこと?」

「だから、今のような秘書課はなくなるかもしれないって」

「なくなるの?」


話題は、新しい経営体制になると、社内がどう変わるのかというものだった。

元々、『無駄遣い』を追求するところから始まったクーデターのため、

現在の社員たち、そして株主の気持ちを捉えるには、しっかりした経営方針と、

時代にあった社員数、仕事の配属などがすでに討論されているという。


「なくなったら、私たちクビ?」

「今までも、半分は事務職のようなところもあったものね」


有紗は、同僚の話を聞きながら、

自分と灰田の関係はどう動くのだろうかと、ただそれだけを考えた。

今までは、秘書としていつもそばにいられたので、

忙しい隙間の時間を互いに作り、気持ちを保ってきた。

それが、秘書という肩書きを無くしてしまったとき、どう動きをとればいいのか、

想像もつかなくなる。


「ねぇ、山吹さん。灰田部長から何も聞いていないの?」

「エ……はい、何も」


今回の中心人物だった灰田のそばで仕事をしている有紗は、

何かを知っているのではないかと、何度も同僚から尋ねられた。

しかし、知らないものは知らないとしか言えず、その日も仕事を終える。

会社を出たあと、家に帰ろうとしたが、足は思った方向に進まない。

有紗は、電車に乗り『ミラージュ』へ向かった。





「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


有紗は、瞬にお勧めのカクテルを作って欲しいと頼み、カウンターで飲み始めた。

瞬はグラスを拭きながら、会社の事件から何かあったのかと尋ねる。


「何かあったのか、ないのか……気になりますか? 青葉先輩」


有紗は頬杖をつき、カクテルを飲み干すと、また同じものをオーダーする。


「これ美味しい」

「女性に人気があるんだ」

「でしょうね……」


有紗は、2杯目に口をつけると、客の動きを見ながら、仕事を勧める瞬を見続ける。

当たり前だが、大学時代に比べたら、瞬の顔つきは代わり、痩せた気がしてしまう。

それでも、自信を持って仕事をしている雰囲気が感じられ、

有紗は瞬を見つめたまま、頬杖をつく。


「青葉先輩……」

「ん?」

「妻という相手がいても、他の女性を真剣に愛せる人って、実際、いると思います?」


有紗は、陽菜がまだ瞬に思いを残していることを知っているため、

自分と灰田の関係をかけて、わざとそう問いかけた。

瞬は、有紗の顔を見る。


「有紗は、酒、弱かったか?」

「いえ、それほど弱くはないですよ。それにまだ酔ってませんし。
酔っていたらこんなこと聞きません」


有紗はそういうと、またカクテルに口をつける。


「先輩……どう思います? 結婚された今の状況で、別の女性を深く愛せます?」


有紗は、そう言い終えると『ふぅ』と軽く息を吐く。


「どうして俺に、そんなことを聞くわけ?」


瞬は、笑みを見せながら、余裕の表情を作る。


「だって、先輩はいつまでも先輩じゃないですか。そうそう、ほら大学時代から、
いつも私たちの色々な話に付き合ってくれたでしょ。
陽菜の課題が終わらないからって、くだらない話も、それに政治や経済の話も。
私、今日は青葉先輩とまた、語り合いたいなと思って、ここへ来ましたから」

「それがこの質問か」

「人生の先輩として、聞いているんです」


有紗は、瞬の表情や態度から、陽菜への思いを探ろうとする。


「いや……それだけじゃないかな。私にとって大切な人の人生が、
どこかで絡みそうな気がするので」


有紗のセリフに、瞬の顔があがる。

互いに視線を合わせると、言葉にならない言葉を読み取り、自然と口元がゆるむ。

瞬は書き終えた伝票を置くと、冷凍庫を開ける。


「そうだな、人生の色々な瞬間を切り取って、自由に貼り付けることが出来るのなら、
そんなことにはならないだろうけれど。
人は同じタイミングで全ての人間と出会うわけじゃない。だから……」


瞬は氷のブロックを取り出しボールに入れると、アイスピックで崩していく。


「わかっていても、愛してしまうことはあると思う……」


有紗は、瞬の中にも、まだ陽菜への思いがあるのだとそう考える。


「そうですか……」


有紗は出されたカクテルに口をつけ、カウンターの中にいる瞬を見る。

瞬は、有紗に何か食べていくかと尋ね、有紗は軽く首を振った。



【14-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

コメント

非公開コメント