15 感情の中にある向き 【15-1】

15 感情の中にある向き
【15-1】
『華楽』に司を呼び出した大輔は、司と一緒に、店の奥にある座敷にあがる。

互いに向かい合い、楽な姿勢をとると、

司は何でも言って来いと覚悟を決めた顔をあげた。

大輔は、持ってきたビールに軽く口をつけ、それをテーブルに置く。


「姉ちゃんには、司が会いたいと話していることは伝えた」

「うん」

「最初は、俺がその話を知ったことに、驚いていたみたいで、
大丈夫だからとか、なんだとか言っていたけれど……気にしてたよ、
お前のその腕のこと」


大輔は、文乃にとっては、その申し訳なさがあるのだろうと、

コップに入れたビールを飲み干していく。


「だろうなと思っていた、俺も。悪いのは俺なのに、文乃さんにとっては、
あの瞬間、全てがひっくりかえったのだろうから」


『心の傷』と『体の傷』

司は、そう表現する。


「でも、俺は確信している」


大輔の言葉に、司は『何を』と問い返した。

文乃をそばで見続けてきた大輔が、どう語るのか、その口元に注目する。


「『甘えたから』って、姉ちゃんそう言ったから」


大輔は、今まで人に甘えているところなど見せたことがない文乃が、

自分自身、司に対して『甘えられた』と話したことに触れていく。


「あの調子じゃ、すぐには行動しないかもしれないけれど、
でも、必ずお前と会うと思う」

「うん……」


司は、少しほっとした顔つきになり、それまで緊張していた姿勢を崩す。


「お前もわかるだろうけれど、起用じゃないからさ。少し、待ってやってくれ」


大輔はそういうと、司に向かって、軽く頭を下げる。


「そんなことするな、大輔。今更焦ったりしない」

「うん……」


大輔は、置かれたままの新聞を、テーブルの下に置く。


「そうか……そうだよな」


司は、自分が思っていた通りだったと考えたのか、小さく何度も頷いた。

大輔は厨房の様子を見て立ち上がり、

祥太郎から料理を受け取ると、また元の場所に戻る。


「……もっと早くお前に話しておけばと、そう思うよ」

「ん?」

「焦りはしないけれど、でも、時間がもったいなかったかなと……」


司も、コップに残ったビールを全て飲み終えると、また自分で注いでいく。

司と文乃の沈んだ時間は、2年以上積み重なった。


「まぁな。俺も最初はそう思った。でも、その無駄に見える時間があったからこそ、
ここまで来られたのかもしれないぞ」

「そうかな」


司は、大輔のコップにも残りのビールを入れる。


「姉ちゃんは、自分の感情に疎いからさ」


時が経ち、どこか風化し崩れていく記憶だったが、確かに当時のまま、

強引にことを進めようとしていたら、

文乃の気持ちはさらに深い闇へ入った気がすると、司はあらためて考える。


「確かにそうかもな」


司の言葉に、大輔も小さく頷くと、厨房にいる祥太郎に餃子を注文した。





その週末、真帆は仕事を終えると、陽菜と有紗のために近くのスーパーで買い物をし、

料理の準備を始めた。仕事が休みなのは自分だけだったので、

今日は二人をもてなそうと考える。

待ち合わせの時間を、しっかり決めたわけではないのだが、

夕焼けが沈みかけた頃、手土産を持った陽菜が到着した。

真帆はとにかくあがってと、声をかける。


「ごめんね、もっと早く来て手伝えばよかった」

「いいの、いいの」


真帆は有紗がどれくらいでくるのかなと言いながら、食事の準備をし続ける。

陽菜は持ってきたお酒を冷蔵庫に入れて冷やすと、

台布巾をもらい、テーブルの上を拭きはじめた。



「こんばんは」

「あ、有紗」


有紗が姿を見せたのは、陽菜が到着してから1時間後のことだった。

その頃にはすっかり食卓の準備も整っていて、揃ったからと言いながら、

真帆はオーブンの中にグラタンを入れる。


「なんだか心配かけて悪かったです」


有紗は、メールが来ているのもわかっていたが、気持ちが追いつかず、

そのままにしてしまったと申し訳なさそうに頭を下げる。


「そうよ、そうよ。メールをしてもなかなか戻らないし、電話をしようかなと思っても、
どのタイミングだったらいいのか考えてしまって」


真帆は、クーデターが起こって忙しいのかと、有紗に話した。

有紗は首を傾げた後、苦笑する。


「仕事は忙しくないのよ、それが」

「そうなの?」

「会社がどういう方向で動くのか、下の私たちにはよくわからないことも多くて。
でも、上司たちは慌しいでしょ。なんだかズレがあるというか」


有紗は、灰田が自分との距離を開けているのではないかと考えていたが、

それをここで全て語ることが出来ないことに、どこかイラついた気持ちを残す。


「そうなんだ……この間、園のイベントに白井さんが来てくれて。
会社のことがあるから、有紗はって気にしていたよ」


陽菜はそういうと、それぞれの前にお皿や箸を置いた。

有紗は、飲み会の時、いつも端に座っておとなしい大輔のことを思い出す。


「白井さんか……」

「そう。あの人、子供の扱いが上手で」

「へぇ……そうなんだ」


陽菜は大輔がいつも園に来ると、自然と子供たちに囲まれていると、そう話した。

真帆は、そんなイメージないよねと、笑ってみせる。

有紗は、日々の時間に笑えるような明るい話を持つ二人に対し、

どうしようも出来ない自分の苛立ちが前に出てきてしまい、ため息をつく。


「ねぇ、飲もうよ今日は。もう私、ここで酔いつぶれちゃうんだから」

「酔いつぶれるの?」

「……ダメ?」


有紗の顔に、真帆は『わかった、わかった』と返事をし、

今日はここでゴロゴロ寝ようと言い始める。

女3人の乾杯は、それから数分後に始まった。



【15-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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