15 感情の中にある向き 【15-2】

【15-2】
しばらくは料理を食べながらお酒を飲み、テレビのバラエティーを見ては、

ケラケラと笑っていたが、自分が飲む半分の量くらいで止まっている陽菜の姿に、

有紗はもっと飲めばいいと、また缶を開けようとする。


「あ、いいよ、有紗。私はこんなもので」

「なんで?」

「今日、部屋に戻らないとならないから」


陽菜はそういうと、またグラスに口をつけた。

真帆は泊まって行かないのと聞く。


「盆踊りが近いでしょ。うちわの飾りにつける紙の小道具。
月曜までに作らないとならないの。家に戻ってハサミで切らないと」

「あらあら……」


真帆は、それなら会場を陽菜の部屋にして手伝えばよかったねと、有紗の肩を叩く。


「いいよ、そんなこと」


陽菜は、自分の仕事が遅いのだと、笑う。


「陽菜の仕事が遅いなんてことはないでしょ。本当に仕事なの?
私はてっきり青葉さんとデートかと思った」


有紗の言葉に、陽菜は『エッ』と思わず声を出した。


「紙を切ることなんて、それほどかかる? 仕事なんて言わなくてもいいわよ。
週末だもの。本当は青葉さんとデートに行くんでしょ」


有紗はそういうと、残っていたポテトを食べる。

真帆は『そうなの』という顔で、陽菜を見た。陽菜は真帆から視線をそらす。


「何言っているの。違うわよ」


陽菜は、有紗が酔っていると笑い、グラスをテーブルに置いた。

有紗はそばにあったクッションを持つと、

この間、『ミラージュ』に行ったよと、陽菜を見る。


「『ミラージュ』に一人で行ったの?」


真帆は、新しいメニューの知らせでも来ていたかと、有紗に聞いた。

有紗はそういうことではないと、首を振る。


「青葉先輩に聞いてみたかったから行ったの」

「聞く? 何を」

「ん? 妻がいるのに、他の女性を真剣に愛せますかって」


有紗は陽菜を見ながらそういうと、隣にいる真帆に『お水が欲しい』と声をかけた。

なんとなく雰囲気が悪くなり始めたことがわかる真帆は、

自分がこの場から立ち上がって大丈夫だろうかと思いながらも、

キッチンに向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

有紗は、クッションで半分顔を隠しながら、視線だけは陽菜に向け続ける。


「だってさ……陽菜が先輩のことをまだ好きなのは、
私たち二人ともわかっているでしょ。だから聞いたの。そこのところどうなんだって。
こっちは、人生かかっているんだぞってね」

「有紗……ねぇ」


真帆は、有紗が酔っていると思い、少し横にでもなればと言い始めた。

陽菜は、黙ったまま空いたお皿を重ねる。


「ねぇ、陽菜。青葉先輩、堂々と言っていたわよ。
人と全て同じタイミングで出会えない以上、そういうことはあるって……
つまり、陽菜のことをまだ好きだってことでしょ」


有紗はそういうと、残っていたサワーを飲み干してしまう。

さらに他の缶へ手を伸ばしたが、

これ以上、空気が悪くなると困ると思った真帆に止められた。


「何よ、真帆。酔いつぶれますって宣言したでしょ。
今日はここに泊まっていいって」

「言いました。でも、少し酔い方が……」

「なんで? いいじゃない。不倫だってなんだって。だって好きなんだもの。
その人と一緒にいたいと思うのだから。男と女。堂々と取り合えばいいのよ。
選ぶのは本人でしょ」


有紗は、灰田のことを思い浮かべながら、そう言って見せた。

陽菜は自分を心配そうに見る真帆に気付く。

以前、瞬に気持ちを確認すると告げてから、真帆に何も話していない。


「……そうだよ」


陽菜の声に、真帆は『動き出したのか』という目を向けた。

陽菜は、その目に向かって小さく頷く。


「青葉さんと、乗り越えようって……話をした」

「陽菜」

「そう……『不倫』になる。それはわかっているけれど、でも、このままじゃ、
ダメだって青葉さんも」


陽菜の告白に、有紗はそこまでふざけていた態度を改めようと座りなおした。

適当に誤魔化すだろうと思っていたのに、正々堂々と認められてしまい、

逆に言葉が出なくなる。


「自分だけだと思っていたの。思いを捨て切れていないのは。
でも、捨て身で訴えたら、青葉さんも気持ちの変化を認めてくれた。
『不倫』だからね、何をしているんだって自分でも思う。誇れることでもないと思う。
これから大変だとも思うけれど、でも……乗り越えようって」

「本当に?」


真帆は、瞬が本当にそう言ったのかと、陽菜に尋ねる。


「うん」


陽菜は、動かなくなった有紗のグラスに、新しい缶を開けてお酒を入れる。


「はぁ……言っちゃった」


陽菜は、それでも本当に明日は幼稚園の作業をするだけだと、有紗に語る。

有紗は自分のグラスにお酒が入っていくのを見ながら、

『ごめん』と小さな声を出した。


「どうして謝るの? いいよ、別に」

「でも……ごめん。私……」


有紗は、自分の苛立ちを、ただ陽菜にぶつけた気がして、申し訳なさがこみ上げる。


「こんな状況の私だけれど、真帆と有紗は、これからも友達でいてね」


陽菜はそういうと、世間的に褒められないことをすると言いながら、

精一杯笑顔を作ろうとする。


「当たり前でしょう、そんなの。ねぇ、有紗」

「……うん」


陽菜は、それならもう一度乾杯しようと、有紗にグラスを持たせようとする。

有紗はそれを受け取ると、両手で陽菜の前に出した。



【15-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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