15 感情の中にある向き 【15-5】

【15-5】
『新町幼稚園』では、陽菜がバスに乗る園児たちを送り出し、

『りす』組へ早足で戻るところだった。

舞ちゃんの母親から、『話がある』と言われ、保育終了後の面談を約束したからだ。

舞ちゃんの母親は、先に『りす』組に入っていて、子供たちの絵や写真を、

優しい笑顔で見つめている。


「すみません、お待たせしてしまって」


陽菜は『りす』組に入ると、園児の椅子を引き出し、どうぞと勧めた。

舞ちゃんの母親は、こちらこそ忙しいところを申し訳ありませんと頭を下げる。


「舞ちゃんは、竜君のお母さんと一緒に」

「はい。舞にあまり聞かせたい話ではないので、お願いしました」

「……はい」


陽菜は、舞ちゃんの母親が座った席の前に、小さな椅子を出し座る。

舞ちゃんの母は、肩にかけていたバッグを床に置くと、

ハンカチで軽く汗をぬぐった。

陽菜は、冷房をもう少し強くしましょうかと尋ねる。


「いえ、これで十分です」


舞ちゃんの母親は、『はるな先生もご存知ですよね』と話を切り出した。

陽菜は、どういうことなのかわからないまま、無責任に答えられないと思い、

黙ったままになる。


「みなさんから聞いていませんか? 団地では噂になっているようですし」


舞ちゃんの母親は、そういうと、ハンカチを両手で小さくたたみ、また少し広げた。

なかなか言い出しにくい話をする決心をつけようと、

自分自身に言い聞かせているように見える。


「主人が、家を出てしまいまして。もう、2ヶ月になります。
会社の同僚が相手で、私が身重であることもわかっているのに、戻ってこなくて」


話の内容は、やはり以前、耳に入ってきた『父親』のことだった。

陽菜は、お弁当をなかなか食べ終わらない舞ちゃんのことが頭に浮かぶ。


「どうにかして、話し合いをしてと、向こうの親からも言われましたが、
彼は別れて欲しいと思っているようで……。お腹の子供もおろして欲しいと。
もう……何も話しが動かなくて。ストレスが一番体調に悪いことなのに、
私自身、そばにいる舞に、当たるようなことばかりしてしまいました」


母親は、そういうと、ため息をついた。

陽菜は、近頃、友達とうまく遊べなかったり、ちょっとしたことでも泣き出してしまう、

舞ちゃんの姿を思い出していく。


「やっと、1週間前に相手に会いました。自分の方が正しいのだからと、
必死に前を向いて。それで言ってやりました。
妻がいて、子供がいる相手を、好きになるあなたの神経がわからないって……」


舞ちゃんの母が言った、心からの叫びに、陽菜は思わず下を向いた。

『妻がいる相手』と言われて、瞬のことを考える。


「そうしたら、私には覚悟がありますと、そう言われてしまいました。
何を言っているのと唖然としましたが。でも、言うだけ言ったらもういいやと。
相手の顔を見ながら思ったんです。私と子供たちを不幸にしてまで生きようとする女が、
絶対に幸せになんてなれないって。そう……」


舞ちゃんの母親は、強めのセリフを出したことに、照れくさそうな顔をする。

妻としてのプライド。陽菜にはそう思えてしまう。


「自分の子供ですよ、それを平気でおろして欲しいって……そう言える男なんです。
愛情のない人に、父親面をされても舞もそしてこの子も。かわいそうなだけですから」


舞ちゃんの母親は、自分のお腹を優しくさする。


「親の言うとおり、実家に戻ろうと考えています」


舞ちゃんの母は、何も知らずに成長しているお腹の赤ちゃんも、

一緒に育てていくとそう言った。陽菜は、実家はどちらですかと聞く。


「宮崎です。ちょうど夏休みが来ますし。小学校入学まであと1年はありますから。
向こうに戻って生活を始めた方が」

「では……」

「幼稚園は、この夏までで……」


舞ちゃんの母親は、この夏休みに行われる『盆踊り』を最後に、

『新町幼稚園』を退園することにしたと、そう話した。

舞ちゃんの母親は、団地の契約も7月で切ることが出来てちょうどいいと話し続ける。


「そうですか」


陽菜は、突然の申し出に驚きながらも、

状況を考えると仕方がないことかもしれないと思い、残念ですがと頭を下げる。


「舞は、はるな先生が大好きだってそう言っていました。優しいし、
でも、意地悪をする男の子を、ちゃんと怒ってくれるって」


舞ちゃんの母親は、出来たら卒園までさせてあげたかったがと、寂しい笑顔を見せる。


「大丈夫ですよ、舞ちゃんはとても強い子ですから。新しい幼稚園でも、
すぐにお友達を作れますし」

「そうでしょうか」

「はい」


それから10分くらい、舞ちゃんの幼稚園での話を聞き、

母親は、来たときよりも気持ちを前向きに変えた笑顔を見せ、幼稚園から出て行った。

陽菜は、正面の門まで見送り、職員室へ戻る。



『相手の顔を見ながら思ったんです。私と子供たちを不幸にしてまで生きようとする女が、
絶対に幸せになんてなれないって。そう……』



あの言葉は、舞ちゃんの母親が言える、精一杯の言葉だった。

『結婚』という約束をして、子供をもうけ家庭を作った。

それなのに、別の女性を好きになったと言い、家を出て行った男に対して、

そして、『人のものと自分のもの』の分別もつかない女に対して、

ぶつけられない怒りを、ぶつけた言葉だった。

舞ちゃんの父親の前に母親がいるように、瞬にも、純香という妻がいる。

そして、幼稚園で園児たちに道徳を教えている自分は、

片方で妻に肩入れをしながら、『不倫』という反対の状況に身を置こうとしていた。

陽菜はロッカーを開け、瞬からのメールを確認する。



『この間の駅前に、7時でどうだろう』



頭では、わかっているつもりなのに、心がそれを拒絶してしまう。

陽菜は瞬のメールを読み終えると、すぐに返信をした。



【15-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3211-15507d2c

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
500位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>