15 感情の中にある向き 【15-6】

【15-6】
陽菜が待ち合わせの場所に着くと、瞬の車は先に到着していた。

すぐに助手席に乗り込み、シートベルトをする。

車はエンジンをかけ、その場を離れた。


「盆踊り?」

「うん……あと10日なの。だから来週は忙しくて、こんな時間には終わらないと思う」

「そうか。園児がいない夏休みは、暇なのかと思ったよ」


瞬はそういうと、陽菜がどんな反応をするのかと、横を向く。

陽菜は、そんなことはありませんと、瞬の膝を軽く叩いた。


「なぁ、何、食べたい?」

「何でもいい」

「何でもいいって言うのが、一番面倒なんだぞ」


瞬はそういうとウインカーを出し、右に曲がっていく。

陽菜は、滑らかに進む会話が嬉しくて、自然とハミングが出てしまう。

この状況が『不倫』だという思いは、二人でいるという事実があまりにも楽しくて、

心の奥底に押し込まれてしまう。

いつかそれが湧き上がっても、一緒ならば越えていけるという、

身勝手だけれど強い思いも、生まれ始めた。


「それなら、勝手に決めるよ」

「はい」


二人を乗せた車は、大通りへ出るとスピードを上げる。

夕焼けの残りで、まだ少し明るさのあった通りは、

10分くらいのうちに夜へと変わっていった。





二人の席に、食後のコーヒーが運ばれる。

陽菜は、前に座る瞬を見た。

瞬もカップを持つと、視線を合わせてくる。


「どうした」

「ううん……なんだか、こうなったことが、まだ信じられなくて」


陽菜は、コーヒーに口をつける。


「ごめんな……陽菜」


瞬の突然の謝罪に、陽菜はどうしてなのかと問いかけた。

もしかしたら、この関係が難しくなったと言われるのだろうかと、身構える。


「そうじゃないんだ。俺がもう少ししっかりしていたら、
君にこんな思いをさせることもなかったなと」


瞬は、自分があれこれ考えず、正面から陽菜と向かい合っていたら、

道はこれほど複雑にならなかったかもしれないと、そう言い始めた。

陽菜は、軽く首を振る。


「とにかく、俺がなんとかするから。お前には迷惑をかけないように……」


瞬は、そういうと、精一杯笑ってみせる。


「そろそろ出ようか。遅くなるから」

「うん」


陽菜は、明細を持ち、立ち上がった瞬の背中を見た。

その時、舞ちゃんの母親から聞いた言葉が蘇る。



『そうしたら、私には覚悟がありますと、そう言われてしまいました』



妻がいる相手を好きになるということは、確かに覚悟のいることだろう。

自分にはその覚悟が出来ているのか、あらためて考えてしまう。

レジで支払いを済ませ、瞬は自然と陽菜の左手をつかむ。


「行こう……」


陽菜はコクンと頷き、瞬の車がある駐車場に戻っていく。

つながれた手と手が、時間の経過とともに、言葉に出せない思いに熱くなる。


「なぁ……」

「何?」


陽菜は、瞬を見た。

その視線が何を意味するのか、互いにわかっているのか、ほんの数秒動きが止まる。


「もう少し……一緒にいられないか」


瞬のセリフに、陽菜はすぐ返事が出来なかった。

ひとつの線を乗り越えることで、喜びなのか、それとも痛みなのか、

どちらが自分を包むのかが、わからなくなる。

瞬は、無言で立つ陽菜の頭に、軽く触れた。


「ごめん。少し強引だな」


そういうと、また車に向かって歩き出す。


「ただ……不安になるんだよ。木所の家と戦うのは俺だけれど、
陽菜の思いが、ついてきてくれているのかって、不安になるんだ」


瞬は、男はそんなことでしか、愛されている気がしないのかもしれないなと苦笑する。

陽菜は、舞ちゃんの母親が唇をかみ締めたシーンを思い出し、下を向く。


「陽菜……」


瞬はその場に立ち止まると、不安そうな陽菜のおでこにキスをした。

そして、さらに唇を重ねる。

数秒間のぬくもりは、そっと二人を引き剥がす。


「もういいよ……気にするな」


瞬は車の向こう側に行くと、キーを向けてロックを外した。

陽菜は助手席に座り、前を見る。

このまま、ただ別れてしまっていいのだろうかと、そう考え始める。

何を言われても、前に進む覚悟で、真帆や有紗に話をしたつもりだった。

苦い顔をされる関係であることもわかって、一歩進み始めた。

瞬の気持ちを探り、それでもどこか離れた場所で見ているだけでは、

大きな罪を、乗り越えられない気がしてしまう。


「私も……もう少し、一緒にいたい」


誇れることではないかもしれないが、自分の思いにウソはない。

陽菜はそう思い、横に座る瞬を見る。


「……いいのか」


瞬の言葉に、陽菜は黙ったまま頷いた。



【16-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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