16 男と女を意識した日 【16-2】

【16-2】

突然にかかってきた有紗からの電話。

大輔は、『フォトラリー』が発売されたこともあるので、

何か気付くところがあったのかと思いながら、今週の予定を有紗に話す。


『なるべく早くお会いしたいです。出来たら今日の夜にでも……』

「今日、ですか」

『どうしても無理だと言うのでしたら、仕方がないですけど』


有紗は、そういうと言葉を濁してしまった。

大輔はわかりましたと返事をする。

待ち合わせの場所は、互いに知っているということもあり、

最初の飲み会で使用した『ミラージュ』に決めた。

有紗との会話を終えた電話を、大輔はテーブルに置く。

話したいことを聞けたわけではなかったが、

おそらくあまりいい話しではないだろうということは、予想がついた。

過去2回行われた飲み会では、有紗はいつも周りとあわせることをしていたし、

愛想よく人の話に相槌を入れたりもしていたのに、

今はその明るい雰囲気はどこにもなく、怒りに近い感情まで見えていた。

大輔はデータの中からある写真を見る。

そこには、園児たちと一緒に、じゃがいも掘りをする陽菜が収まっていた。

シャッターを切る瞬間、子供たちが動いてしまい、

3人いた園児の顔は、みんな下を向いている。

陽菜だけが掘り出したじゃがいもの大きさに、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

大輔はその顔を見ると、穏やかな気持ちになり、口元がゆるんでしまう。

パソコンから過去のデータを呼び出し、そこから数枚の写真を選ぶと、

社内の機械でプリントした。





『ミラージュ』


仕事を終えた大輔が到着すると、有紗が窓際の席に座っているのが見えた。

機材の入ったバッグを肩にかけなおし、そのままそばに進む。


「こんばんは」


大輔の声に有紗が顔をあげ、同じように挨拶をする。


「すみません、遅くなったみたいで」

「いえ、私が早かったので」


いつもの有紗と違うというのが、ここでもハッキリとわかる。

大輔は荷物を横におき、とりあえず腰かけた。

ウエイターがやってきて、オーダーはどうするのかと聞いてくる。


「じゃぁ……ビール」

「はい」


小さめの瓶ビールを注文し、大輔はメニューをテーブルの端に戻す。

有紗は、大輔の顔を見ながら、自分が呼び出したのだから、

今日は聞きたいことを聞き、言いたいことは言わなければと思うものの、

さすがに本人が目の前に座ると、一気に出そうと決めていた言葉も、

滑らかには出て行かない。気持ちに弾みをつけようと、飲みかけのワインに口をつけた。

あらためて前に座る大輔を見る。


「白井さん、お仕事はフリーのカメラマンだと、言われてましたよね」

「はい」

「灰田部長の写真を掲載していた雑誌で、お仕事されてましたか」


有紗はそういうと、大輔の返事を待った。

大輔は、有紗の質問を受け止めようとしているのか、数秒間黙ったままになる。

そして、具体的に言ってくださいと、冷静に返事をした。


「『フォトラリー』という雑誌です」


有紗は雑誌名をあげると、あらためて大輔の返事を待つ。


「『フォトラリー』で、確かに仕事をしています。
でも、どうしてそういうことを聞くのか、まず理由を話していただけませんか」

「理由?」

「はい。山吹さんの言い方だと、俺が責められているような……」

「人の行動をつけまわすようなことをして、恥ずかしくないですか」


有紗はそういうと、大輔をにらみつけた。

自分の問いに、あまりにも冷静な大輔の態度が気になり、声が大きくなった。

そして、瞬間的に『つけまわす』という言葉を使ってしまったが、

それでも、ここは伝えなければとさらに気持ちを出そうとする。


「あんなふうに、灰田部長を追いかけて、勝手に写真を撮って……」


有紗は、灰田を庇うとかそういうことよりも、あの雑誌に出てくる写真や記事が、

自分の知らない灰田を突きつけてくる気がして、膨らむ不安に耐えられなかった。

自分は秘書であり、灰田に頼りにされていると思っているものの、

本当にそうなのかと、近頃のすれ違いに小さな自信すら戻ってこない。

大輔は、有紗のぶつけてくる言葉の意味を、噛み締めるように下を向く。


「相手にはわからないような場所に立って、自分勝手に写真を撮って、
こうしてうちの会社に動きがあるとわかると、急に表沙汰にする。
部長が必死に戦ってきた時間を、まるで何かからくりがあるように書いて……」


大輔の注文したビールが届き、ウエイターが離れていった。

有紗は、そこで一度言葉を止める。


「からくりがあるかどうかなんて、写真ではわかりません。俺はただ、
事実を撮っただけです」


『事実』。

何も誇張していないし、何もウソはないという大輔の選んだセリフが、

どうしたら冷静になれるのか、着地点を探している有紗の思いに触れてしまう。


「事実なら……事実だと言えるのなら、何をどこでしていても、写真を撮られても、
文句も言えないということですか」

「別に、家の中に入ったわけでは……」

「あんな写真の撮り方は、卑怯です」


『卑怯』という言葉に、今度は、大輔の表情が変わった。



【16-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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