16 男と女を意識した日 【16-5】

【16-5】
どの写真の自分も、本当に楽しそうに笑い、そして驚いた顔をしている。


「誰のために撮っているのかと言われたら、うちも商売ですから、園児が中心です。
だから、この写真たちのように、園児の顔が全く写っていないものとか、
ちょうど下を向いてしまっているものとかだと、出しても売れませんからね。
そういったものは、ほとんど『消去』の運命なのですが……」


大輔は、それでも、陽菜の表情だけはタイミングよく撮れていたのでと説明する。


「俺、最初の飲み会の時、言いましたよね。赤尾さん、正直つまらなそうで、
この顔を見た後だったから、すごく驚いたというか……」


『結婚式』で偶然に出会い、そこから開いた初めての飲み会。

確かに、陽菜は乗り気ではなく、

出来たらすぐにでも帰りたいと考えていたことを思い出す。


「園児と写っているあなたの顔は、どれも本当に楽しそうですよ。
さっきも言いましたが、何度か幼稚園関係の仕事もしていて……。
中にはいるんです。写真に写すと、表情が沈んでいる人も」


大輔は、その瞬間が悪かったのかと考えていたけれど、実はそうではなく、

次の年に行くと、辞めていたりするのだと、そう言った。


「自分のやりたいことを、仕事としていけるのは、幸せですね」


大輔はそういうと、櫓の位置を確認し、どういう並びになるのかと、

陽菜に尋ねた。陽菜は、大輔にもらった写真を見つめたままになる。


「はるな先生」

「……あ、はい」


陽菜は、ごめんなさいともらった写真をエプロンのポケットに入れて、

大輔の質問に答えるため、園児たちの並びなど、当日の様子を説明した。

大輔は、陽菜の説明と、園長から言われた注意事項を、しっかりとメモに取った。

当日はよろしくお願いしますと挨拶されたため、精一杯頑張りますと頭を下げる。

『フクちゃん』と呼ばれる副園長も職員室に顔を出し、当日は、

自分が太鼓を叩くので、かっこよく撮って欲しいと注文を出す。

大輔は、わかりましたと答えると、『新町幼稚園』を出た。


「それでは、白井さん」

「はい……あの……」


玄関を出た陽菜に、大輔は5分だけ時間をもらえますかと、そう言った。

陽菜は、何か言い忘れたことがあったのかと、聞き返す。


「いえ、仕事のことではないんです。だから、園内で話すのはどうかと」

「……はい」


陽菜は『仕事以外』と言われ、一瞬身構えた。

大輔に、何を言われるのか全く想像できない。


「山吹さんのことです」

「有紗のことですか」

「はい」


大輔は、先日、有紗から呼び出されたことを、陽菜に語り、

その理由が『フォトラリー』の写真だったことも話す。


「『リファーレ』のクーデター、知ってますよね」

「はい。詳しくは知りませんが、新聞などで」

「で、山吹さんがついている広報部長の灰田氏が、今、注目されているんです。
元々、コーディネーターの仕事をしていた人で、才能を買われて入社して、
この出来事に加わった。その才能に、今度は力を貸した政治家たちが目をつけて……」


大輔の話を聞きながら、陽菜は有紗が上司になる灰田のことを、

よく話していたなと、そう思った。

真帆の家に集まったときも、いつもの有紗に比べたら酔うのも早く、

どこか挑戦的だったことも思い出す。


「山吹さんにしてみると、自分の上司なのに、知らない部分があれこれ見えて、
おそらく、どうしたらいいのかわからない状態なのだと思います。
実は俺、あの最初の遠足以来、ここに来ていなかったのは、
『フォトラリー』の仕事が入っていたからで」

「それじゃ……」

「はい。灰田さんを撮ってました。山吹さんもそれを知ったみたいで、
どういうことかと……」


大輔は、灰田と有紗の関係に気付きながらも、そのことには触れずに、

ただ、不安そうだという部分だけを陽菜に語る。

陽菜は、有紗も色々と不安を抱えていたのだと、その時に初めて感じ取る。


「よくわからないことが多いと、不安だと思うんです。
秘書って尽くす役目でしょ。自分の仕事に自信を無くしているというか。
だから、赤尾さんや黄原さんと、うまくこう……」


大輔は、自分と司や祥太郎は、いつも『華楽』に集まって、

飲めば気持ちが治まるのだけれどと、苦笑する。


「この間、3人で会ったんですよ。でも、有紗、何も言わなくて。
わかりました。また、有紗と連絡を取ってみます。
真帆もきっと、心配すると思いますし」

「はい、ぜひ」


大輔はそういうと、それでは盆踊りでと頭を下げる。

陽菜も『よろしくお願いします』と返礼し、その姿を数分見送った。

自動扉から園内に入り、あらためて櫓を見る。



『秘書って尽くす役目でしょ。自分の仕事に自信を無くしているというか。
だから、赤尾さんや黄原さんと、うまくこう……』



陽菜は大輔の言葉を思い返しながら、有紗のことを考える。

家に戻ったら連絡をしてみようと思いながら、仕事の続きをするために職員室に戻った。





『店の駅、間違えるなよ』



文乃は仕事を終えて、携帯に届いた大輔からのメールを見た。

こうして時間や場所が決まると、大輔が一緒だとはいえ、

本当に、数年ぶりに司と顔をあわせることになる。

そう思うだけで、この数日は、なぜか落ち着かず、

気付くと部屋で無駄な動きをしていることが増えた。

洗濯物をたたみながら急に思い出し、窓ガラスを何度も丁寧に拭いてみたり、

どうしても今あるもの以外の飲み物が飲みたくなり、財布を持ち買い物に出る。

それでも、緊張の中にある別の気持ちは、この落ち着かない時間さえも、

甘く優しいときに思え、文乃は、思い出から抜け出した人の姿が見られる日を、

一歩ずつ進みながら待っていた。



それは、仕事をしている司も同じだった。

自分の未熟さを謝罪するという条件で、文乃との再会を約束してもらった。

大輔がいるのだから、冷静に話しが出来ると思いながらも、

細かい計算など、なかなか前に進まない。

事務所の受付にいる女性に、少し外に出てくると言い残すと、司は真夏の日差しを避け、

アーケードに出来る日陰を、ゆっくりと進む。

司は、文乃ともう一度向かい合えることの喜びをかみしめながら、

心を落ち着かせるために、しばらく歩き続けた。



【16-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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