17 絶対に変わらない思い 【17-2】

【17-2】
『ミラージュ』から少し離れた店。瞬が指定したのは、その場所だった。

陽菜が仕事を終えて到着すると、瞬が先に席についている。


「ごめんなさい」

「あ……いや、いいんだ」


瞬は陽菜の顔を見ると、沈んでいた顔をあげた。

ここのところ見せてくれていたような、優しい笑みはなく、どこか緊張感が漂っている。

陽菜は、瞬と同じようにアイスコーヒーを注文する。


「奥さん、体調どうなの?」


病気で苦しむ相手に、『離婚』というさらなるハードルを押し付けるのかと思うと、

やはり陽菜の心もチクチクと痛んだ。

一線を越えることが、瞬へ見せる自分の覚悟だと考えていたので、

何があっても、時間がかかっても、信じていこうと思っているが、

その言葉に対しての、返事がすぐに戻らない。


「そんなに悪いの?」

「いや、そうじゃない」


陽菜は、それならどういうことかと瞬に問いかける。


「陽菜」

「何?」

「思いがけないことが起きてしまって……で、数日気持ちを整えていた」

「思いがけないこと」


瞬はそういうと、陽菜に向かって、一度だけ頷いた。

陽菜は何が起きたのだろうと、視線を前に向けたままになる。


「実は、体調を崩したのは、病気じゃなくて……」


瞬は、そこで言葉を止める。瞬にも言いにくいことなのだろう、

のどぼとけがハッキリと動いた。


「……妊娠した」


妻の純香が具合を悪くしたのは、病気ではなく、妊娠だったという事実に、

陽菜は軽い返事が出来なくなった。

『妊娠』

夫婦なのだから、当然だと言えばそうなのだが、すでに瞬の気持ちは、

自分に向いていると思っていただけに、陽菜は動揺が隠せなくなる。


「妊娠って……」

「まだわかったばかりらしい。あいつも子供が出来るとは考えていなかったから、
疲れくらいに思っていたみたいで。調べてみたらってちょっと驚いていて」


陽菜は、見たくない瞬の現実を見せられた気がして、黙ってしまう。

気持ちは離れたと言った相手の体を、求めることが出来るのか、

男と女の感覚はこれほど違うのだろうかと、そう考える。


「まぁ、驚きはあるだろうけれど、大丈夫だ。おろしてもらう」


瞬は、こういうきっかけが前に進める材料になるだろうと判断し、

『離婚』の話を、純香に正式に告げたとそう言った。

陽菜は瞬を見る。


「妊娠の話を聞いた後に、言ったの?」


どこかで言わなければならない話だと言うのは、当然なのだが、

陽菜は思わずそう聞いてしまう。


「あぁ……。どうせ『離婚』の選択を取るつもりなんだ。
非情かもしれないけれど、その命をつなげていくつもりはないし……って……」


瞬は、先日、二人で一線を越えたのは、覚悟があったからだとそう言いきった。

陽菜は『覚悟』という言葉を、何度も頭で繰り返す。

それでも、『妊娠』から『離婚話』の流れは、

陽菜の予想をはるかに超えた展開になっている。


「陽菜を抱きしめたのは、流れじゃないから。それはわかってほしい。
言ったよね、あぁしていることで、自分自身も強くなれる気がしたから」


短い文章の中にあった、『流れ』という言葉だけが、陽菜の心に響いた。

自分との時間が『流れ』でないのだとしたら、

気持ちが離れたと言った妻を抱きしめたのは、その『流れ』と言うことになる。


「ごめんな……また、陽菜に嫌な思いをさせて」


妻のある男性を奪い取るのだから、きれいごとを言っている場合ではない。

それは陽菜にもわかっていた。しかし、『妊娠』という事実が、

また別の感情をわきあがらせる。



男と女とは、愛情がなくなっても、その場の『流れ』が存在する。



瞬から飛び出す言葉の数々は、陽菜にとって思いがけないものだった。

瞬の言葉を信用すれば、互いに望んでいないとはいえ、

今、瞬の妻の体内には、新しい命が宿った。

陽菜の脳裏に、この夏で幼稚園を去ることが決まっている

舞ちゃんの寂しそうな顔が浮かぶ。



身重の妻と子供を残し、新しい女性に走った父親。

その被害を受け止め、生まれてくる前からハンデを背負うことになる子供。

体の変化を受け止める女は『母』として、身勝手な男の『流れ』を一生抱えていく。


「陽菜……」


舞ちゃんの母親が、幼稚園で見せた悔しそうな顔に、

陽菜は見たこともない、瞬の妻、純香を重ねてしまう。


「陽菜」

「あ……ごめんなさい」

「思いがけない話でショックなのはわかる。でも、必ず、結果を出すから。
とにかく信じてくれ」


瞬の言葉に、混乱したままの陽菜だったが、ここで反応しないわけにはいかず、

ただ頷くしか出来なかった。





瞬はそこから当たり前のように仕事へ向かった。

陽菜は一人電車に乗ったが、かき消せない不安な思いに何度もため息をつく。

中途半端な状態が嫌だと思い、自分から瞬にハッキリさせて欲しいと迫った。

後輩や妹ではなく、まだ一人の男として愛しているのだと宣言し、

忘れていた悦びの感覚を、自分の中に呼び戻した。

愛されることとはどういうことで、求め合うということがどういうことなのか、

陽菜は、これからどれほど困難な道があろうとも、瞬を信じていくと決めて、

全てを受け入れた。

しかし、男と女がそこにいて、互いの欲望を満たすということの半面に、

『流れ』という言葉があり、そして妊娠という事実が押し寄せた。

自分がこの世に生まれることを信じ、成長しようとしている『命』を、

身勝手な大人たちが支配していいのかどうか、そう思い始める。

しかし、それを拒絶してしまえば、瞬との距離は二度と戻ることはない。

しかも、親である瞬自身が、その命に対し否定的な意見を持っている。

陽菜は思いを揺らせたまま、部屋へ戻った。



【17-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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