17 絶対に変わらない思い 【17-4】

【17-4】
「ドラマや歌番組で流行を知ろうとしていた時間を、その日何が起きたのか、
知らせてくれるニュースを見るようになりました」


司は、初めて会ったときから、自分にとって文乃はやはり特別な人だったとそう思った。

だからこそ、艶やかな長い髪の毛も、憂いのある目も、

そして、時折見える小さな仕草にも、確実に鼓動が速まっていく。

どんな相手と交渉しても、自分がわからなくなるようなことは、

近頃感じたことがなかったのに、文乃の前に座るだけで、思考回路はただ忙しく、

動き続ける。


「昔……好きになった人に、どう気持ちを伝えたらいいのかわからずに、
ただ、突っ走ってしまって、傷つけてしまったことも、
今は……冷静に振り返られるようになりました」


司は、本当に自分勝手な行動を取って、申し訳なかったと文乃に頭を下げる。


「俺があんなことをしなければ、文乃さんは今のような生活をすることもなかったし、
大輔だって、もう少し前を見ることが出来たかもしれない。
自分のことだけに必死になって、周りを見ることが出来ていなかった。
謝っても、謝りきれません」


司の謝罪に、文乃は黙って首を振る。

司の声を聞くたび、その視線が自分に向いているのだと意識するたび、

文乃も自分の鼓動が速くなるのを、自分自身で感じていた。

大輔がそばにいないという不安よりも、司が自分をどう見ているのかという方が、

文乃の気持ちを埋め尽くしていく。

今まで長い間押し込んでいた思いは、その反動なのか一気に押し寄せてきた。


「司君、あなたが悪いわけじゃないの。私が……そばにいてくれることに、
甘えていた。大輔の友達なのに、いつのまにか、リハビリを見てくれるのも、
当たり前のようにしてしまって」

「それを求めていたのは俺ですから」

「でも……」


文乃の視線が、司の左腕に向かう。

司は、文乃の気持ちにすぐ気付き、袖をめくった。

文乃の目の前に、傷跡のある腕が現れる。

文乃は、初めてあの日、カッターを当ててしまい傷つけた司の腕を見た。

ただ、司の気持ちを止めようとして触れてしまった刃が、

こうして一生残る傷を作ってしまう。


「これがあの時の傷です。でも、それだけです」

「司君……」

「本当に、そう思うんです。強がりでもなんでもなく」


司は傷に触れながら、笑みを浮かべてみせる。


「生活に何も問題などないですし、腕だってきちんと動きます」


司は文乃の前で、左腕を動かしてみせる。


「それなら聞きます。文乃さんは、足、どうですか?」

「足?」

「はい。大輔は、今でも文乃さんの足のことを、気にしています。
でも、文乃さん自身は、それをもういい加減にしてほしいと思っていませんか」


司の言葉に、文乃は確かにそうだと頷いた。

一生、残る傷だとはいえ、それを抱えた生活に慣れてしまったし、

それを惨めだとか、悲しいなど思ってはいない。


「これも含めて自分だって、俺もそう思っています。
むしろ、この傷を負わせてしまったと、あなたが傷ついていることを思うほうが、
何倍も辛い」


必死に抵抗しようとして、出来てしまった傷。

司にしてみたら、自分の未熟さがこの傷を作ったのだと、そう言いきった。


「大輔に、文乃さんがもういいと思っているのと、俺も一緒です。
この傷なんて、もうどうだっていい。俺は毎日普通に暮らしていますし、
今話をしたように、日々、色々と変わっています」


司の腕の傷を申し訳ないと思うのは、

大輔が自分の傷を申し訳ないと思うことと一緒だと言われ、文乃は黙ったままになる。

どうしたら大輔が悩まなくなるのか、いつもそう考えていた。

一生懸命仕事に打ち込んでいれば、わかってくれると思っていたが、

なかなかその日は訪れない。


「こんな傷、本当にどうだっていいんですよ、文乃さん。
あなたに俺がつけた、心の傷と比べたら……」


司はそういうと、めくった袖を元に戻す。


「大輔と祥太郎から、文乃さんに見合いの話しが出ていると、そう聞いて、
俺はいても立ってもいられなくなりました。迷惑かけて、最低なことをしたのに、
どうしても変わらない、変えられないものに、気付かされたからです」


他の女性と付き合っても、思いを封じ込めようとしても、

どうしても出来なかった『たった一つのこと』。

司は、一度小さく息を吐いた。



「あなたを、今でも好きだということ」



司は、一番大事な言葉だと丁寧に、そしてゆっくりと文乃に向ける。


「このことだけは、どうしても変えられなかった。酒の趣味が変わっても、
仕事のノウハウがわかっても、あなたを好きだという気持ちだけは、全く変わらない……」


司は、数年分の思いを込めて、もう一度文乃に告白する。

勢いのまま、全てを得ようとした、あの頃とは別の方法だが、

心の中に秘めている思いは、何も変わっていないとそう言った。

文乃は、司の言葉を聞き、自分の中にも確かに存在した『変わらない思い』を、

どう話したらいいのか、わからなくなる。


「すみません、勝手に話し続けて」

「いえ……」

「でも、これが俺の正直な気持ちです。全てを無くすかもしれないと思いながら、
大輔に話しました。どうしてもっと早く言わなかったと、そう言われて。
今はそうだなと思いますが、やっぱり……」


司の目が、文乃に向かう。


「あなたを傷つけたことが、あれだけ思っていた人を、深く傷つけたことが、
どうしても越えられなくて……ここまで」


その続きは、聞かなくてもわかることだった。

文乃も司も、思いだけが前に出てしまい、追いつく言葉が出せないまま黙ってしまう。

数秒が数分になり、さらにまた1秒ずつ重なっていった。



【17-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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