18 羽ばたけない鳥の翼 【18-1】

18 羽ばたけない鳥の翼
【18-1】

盆踊り大会は、盛り上がりを見せながらも、

そこは先生たちの努力もあり、時間通りのスケジュールで動くことが出来た。

お店にはご近所さんたちも顔を出してくれたので、売り上げも順調に伸びていく。

子供たちはヨーヨーを買ったり、かき氷を食べたりしながら、

踊りの順番が近付くと、手作りのうちわを持ち、

保育士たちと練習してきた成果を披露する。

大輔や吉田のシャッターとは別のシャッターが、親たちによって切られ続ける。

陽菜も、しっかりと輪の中に入り、浴衣とゲタでくるりと回った。

ちょうちんの明かりに浮かび上がる表情。大輔はその姿にシャッターを切る。

しばらくすると、集合写真を撮る時間が近付き、クラスごとに並ぶよう指示が出た。


「はい、もう少しみんな真ん中に集まろう」


副園長の声がかかり、子供たちは並んでいくが、だらけてしまったり、

隣の子供とふざけてしまったり、なかなか興奮気味でうまく流れない。


「はい、みんなピシッと整列」


笛の音に反応し、子供たちが精一杯の整列をしてみせた。

大輔はそこから少しリラックスするような言葉を投げかけ、

笑った顔に何度もシャッターを切る。

先生たちの連携もあり、集合写真は『りす』組の順番を迎える。

ある父兄が、今日で幼稚園を去ることが決まっている舞ちゃんを、

陽菜の隣にと、声がかかった。

子供たちも事情を知っているため、先生の横という一番奪いたい場所を、

舞ちゃんのために空けてくれる。

舞ちゃんは、かわいらしいピンクの浴衣に身を包み、嬉しそうに陽菜の横に座った。


「舞ちゃん、今日の浴衣かわいい」

「おばあちゃんが買ってくれたの」


舞ちゃんは、宮崎にいる母方の祖母が、今日のために買ってくれたと嬉しそうに笑う。


「はい、『りす』組さん。年少さんよりお兄さんお姉さんだからね、
バッチリ決めよう」


副園長の小さなプライドをくすぐる言葉に、すぐに反応した子供たちは、

自主的に並ぼうよと声が出た。

大輔も1つ違うだけで、慣れがあるなとその動きに感心する。


「はい、じゃ、撮るからね」


子供たちの笑顔がたくさん並んだ集合写真は、それからも数クラス続いた。





時間は夜の9時を回る。

盛り上がりを見せた盆踊りも終了し、

子供たちは一緒に楽しんだ親たちと家に戻っていく。


「すみません、白井さん、俺、先に」

「おぉ……頼むな」

「はい」


吉田は、別の会場で行われている『結婚式の二次会』撮影のヘルプとして、

現場に向かった。大輔は控え室でレンズを片付け始める。

大輔の視線に、部屋の前を陽菜が通り過ぎて行くのが見えた。

その姿は玄関前で止まり、一人の母親がその前に立っているのがわかる。

横にいるのは、今日で幼稚園を退園する舞ちゃんだった。

大輔は、『いるか』組にかかっていたカーテンを少しだけ開け、その様子を見る。


「はるな先生、お世話になりました」

「いえ……」


舞ちゃんを迎えに来た母親は、楽しい思い出が出来ましたと陽菜に頭を下げる。

陽菜は、集合写真を送りたいので、住所を教えて欲しいと話しメモを手渡した。

舞ちゃんの母親はありがとうございますと言い、そばにある台に紙を置き、

これから暮らす母親の実家の住所を書いていく。

舞ちゃんは、今日でさようならだと知っている他の子供たちからも、

プレゼントやおもちゃをもらい、『ありがとう』と笑っていた。


「ここです」

「ありがとうございます」


陽菜は、舞ちゃんの視線に合うように、その場に腰を下ろす。


「舞ちゃん」

「はい」

「舞ちゃんなら、すぐにお友達が出来るはずだよ。はるな先生、
舞ちゃんが元気に新しい幼稚園で過ごすのを、楽しみにしているから。
必ずお手紙、ちょうだいね」

「うん……お手紙出す」


そこまで興奮状態のまま笑顔でいられた舞ちゃんだったが、

子供ながらに、『今日』という日が、いつもの日とは違うこともわかっていて、

陽菜の顔を見ながら、少しずつ表情を崩してしまう。

そばにいる母親が、ハンカチを取り出し、舞ちゃんに渡した。


「舞、泣いていちゃダメだよね。はるな先生に渡すものがあるでしょ」

「……うん」


舞ちゃんは頷くと、横に置いていたピンク色の袋から、

半分に折った画用紙を陽菜の前に出した。

陽菜はここで開いていいかと尋ね、舞ちゃんが頷いたことを確認し開いていく。

そこには、舞ちゃんが描いた、自分と一緒に遊ぶ陽菜の姿がクレヨンで表現されていた。

はるなと思える人物の周りには、キラキラと星が加えてある。


「これね、舞とはるな先生なの」


舞ちゃんはそういうと、もう一度目をハンカチで拭き、

お星様もたくさん描いたと嬉しそうに笑った。

自分がいつも子供たちに見せている顔は、これだけ笑顔なのだろうかと、

陽菜はお椀型になっているクレヨンで描かれた口を見る。


「はるな先生。舞は先生が大好きだからって、星をたくさん描きました。
舞には、ずっと子供たちと優しく向き合ってくれた先生が、
本当に輝いて見えるのだと思います」


陽菜は、その絵を見ながら、少しずつ目頭が熱くなる。

自分自身も子供たちといる時間が楽しくて、充実していたとそう改めて考えた。

子供たちの笑顔が、自分を笑顔にしてくれる。

そんな当たり前のことを、もう一度再確認する。


「舞ね……大きくなったらね、はるな先生みたいに、幼稚園の先生になるの」

「舞ちゃん」

「たくさん子供たちと遊んで……遊んで……」


舞ちゃんはそこで我慢しきれなくなり、大粒の涙をこぼし始めた。

陽菜は描いてくれた絵を手に持ちながら、

『ありがとう』と舞を包むように抱きしめていく。

『いるか』組からその様子を見ていた大輔は、カーテンと扉の隙間から、

手に持っていたカメラを二人に向けた。



【18-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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