18 羽ばたけない鳥の翼 【18-5】

【18-5】
真帆は、カップをテーブルに運びながら、有紗の表情が本当に寂しそうだとそう思った。

大手企業『リファーレ』に就職し、地位のある『広報部長』の秘書であることに、

誇りを持っているように見えた姿は、すっかり過去になってしまう。


「秘書という仕事も、見直されるみたい。経費節減もあるだろうし。
今の時代に合わせて、機械化していくって」

「機械化? 何それ」

「スケジュール管理も、全部タブレットとかで出来るでしょ」


有紗は、そうなると自分の居場所がどこになるのかわからず、

不安ばかりが増したと真帆に語った。真帆は中小企業にいる自分とは、

違った悩みを聞きながら、ただ頷き返す。


「あ、そう。そうしたらね、この間、
偶然部長の記事や写真を特集していた雑誌のカメラマンが、誰だったかを知ったの」

「うん、知っている人?」

「そう……ほら、結婚式で会った……」

「……エ! もしかしたら白井さん?」

「そう、驚いちゃった。彼、ずっと部長のこと追っていたみたい。
フリーカメラマンって、どんな仕事をしているんですかって聞いたときも、
はぐらかされたのに。あの時も知っていて隠していたのかと思ったら、
なんだかイライラしちゃって。私、呼び出したの、『ミラージュ』に」

「呼び出したって、白井さんを?」


紅茶を入れようとした真帆は、『呼び出したの……』とつぶやきながら、

サーバーを手にとっていく。


「うん。会社がどうなるのかもよくわからないから、とにかくイライラしていた。
到着した彼に、ガンガン好きなこと言って、『最低』だって罵って」


有紗の告白に、真帆は黙ってしまった。

手だけはなんとか動かすものの、どう反応していいのかわからなくなる。

今まで、有紗があまり人に対して、感情的になったというのを聞いたことがなかった。


「で……どうした?」


それでも真帆は、大輔がどういう態度に出たのかと、興味を持ちながら聞き返す。


「灰田部長を追っていたのは確かだし、写真を撮ったことも間違いないけれど、
でも、それが仕事だからって、逆に言い返されちゃった」


有紗は、当たり前だよねと寂しそうに笑う。

真帆は、有紗の複雑な思いを理解しようとするものの、どう切り出したらいいのか、

相手を傷つけずに済むのかと考えてしまい、結局、言葉が出なくなる。


「部長を理解して、そばにいて、仕事をしてきたと思っていただけに、
正直、自分の知らないところがあれこれ出てきて、今まで横にいて、
一緒の時間を過ごしてきたのに、秘書という仕事はなんだったのかとか、
本当に信頼してもらえていたのか考えてしまったり……」


有紗は、手土産のチーズケーキにフォークを入れる。


「『最低』とか『卑怯』とか、言いたいこと言っておいて。
白井さんに謝らないとと思うのに、なんだか電話をかける勇気がないの。
どうしたらいいかな……と。だからさ、陽菜から連絡が入ったときも、
もしかしたら白井さんから話を聞いたんじゃないかななんて」


有紗は携帯電話を取り出すが、テーブルに置いてしまう。


「白井さんが陽菜に?」

「うん……ほら、幼稚園のイベント、彼が撮っているって言っていたでしょ」

「あぁ……うん、そうだったね」


有紗は、話が広がっていたのだとしたら、会って謝りにくいなと苦笑する。


「今、かけてみたら? 今日は日曜だし。部屋にいるかもしれないよ」

「今?」

「そうだよ。今ならさ、ほら、私のところに遊びに来ていてって、こう……
なんとなく話題もつなげられそうだし。私も何か出来るかも」


真帆は、一人の部屋で電話をかけようとすると、緊張してしまってかけにくいからと、

自分の携帯電話を取り出し、大輔の番号を呼び出すとボタンを押す。


「あ……真帆」


真帆は有紗の顔の前に手を出し、発言の続きを止めた。

有紗は、真帆の口元を見ながら、大輔が電話に出るだろうかと考える。

数度の呼び出し音が鳴り、そして受話器の上がる音がした。


「もしもし……あの、黄原です」


真帆の自己紹介に、大輔はすぐ『こんにちは』と挨拶を返した。

真帆は、有紗に向かって、右手で小さな丸を作る。


「すみません、急に電話なんかしてしまって」

『いえ……』


真帆は、今電話で話をしていても平気なのかと、そう大輔に言った。

大輔は、今は移動中でホームにいるから大丈夫だと返してくる。


「実は、今、有紗が前にいるんです。
なんだか先日、白井さんに失礼なことをしてしまったと、ここで反省していて」


真帆の説明に、大輔は『ミラージュ』でのことを思い出した。

思わず口から『あぁ……』と言葉が出てしまう。

真帆は受話器を手で押さえ、代わりなさいよと合図する。


「変わるの?」

「当たり前ででしょう。誰のためにかけているのよ。私が謝る理由はないもの」


真帆にそう言われ、確かに引きずるのは余計に気まずくなると判断した有紗が、

一度咳払いをした後、受話器を握る。


「もしもし……」

『こんにちは』

「こんにちは。あの白井さん、先日は本当に失礼しました。
お酒を飲んでいたとはいえ、自分自身……」


有紗は、会社の体制が一気に変わって、わからないことばかりが増えている現状に、

不安ばかりが膨らみ、ついイライラしてしまったと、あの日のことを謝罪する。


「本当にごめんなさい。『最低』だなんて」

『いえ……そう言いたくなる気持ちも、わかりますから』


大輔も、『それから』を気にしていたため、

真帆のところに遊びに来ているという有紗の今を知り、どこかで安心する。

ホームに電車は入ってくるというアナウンスが聞こえたが、

話しが続きそうだったので、少し電車から離れた場所に向かった。



【18-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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