18 羽ばたけない鳥の翼 【18-6】

【18-6】

「日曜日なのに、お仕事なんですね」

『フリーですからね。言われたら、曜日なんて贅沢言えませんし。
その日じゃないと、撮れないものも多いですから』


大輔はそういうと、視線を前に向けた。

ちょうど、駅の構内に、近所の幼稚園の看板がかけられていて、

昨日、目の前で泣き崩れた陽菜のことを思い出す。


「えっと……」


有紗は何を話したらいいだろうかと考え、目の前の真帆を見る。

真帆は、そばにあったちらしの裏に、『またみんなで飲み会を』と書くと、

有紗の前に出した。


「白井さん」

『はい』

「近いうちに、お会いできませんか? 私、やっぱりきちんと謝りたくて」


真帆の『飲み会』というメモとは違い、有紗は個人的に会えないかと、

大輔に言い始めた。真帆は突然飛び出した言葉に、どういうことよと口を動かしていく。


『そんないいですよ、謝罪なんて。今してもらいましたし』

「いえ、またみんなで会いましょうということも、あるかもしれないので。
きちんと自分なりにけじめをつけたいというか……」


有紗は片手を顔の前に出して、真帆に『ごめん』のポーズを取る。

受話器の向こうから、電車がホームに入る音が聞こえてくる。


「あらためてメールでもさせてもらいますから。忙しい時にごめんなさい」


有紗はそういうと、『それでは』と携帯を切ってしまう。

有紗は、目の前で驚いている真帆に、申し訳なさそうに受話器を戻した。


「ごめん……方向が変わった」

「いや、変わったって、変わり過ぎでしょう。謝るものどうのこうの言っておいて、
個人的に会うの?」


真帆は、今謝罪したのだから、みんなで集まった時に、

改めて言えばいいじゃないと、携帯をテーブルに置く。


「そう思った。でも、みんなと一緒のところで話せば、
どういうことなのかって、他の人に細かく説明しないとならなくなるでしょう。
それって面倒だし」


有紗は、6人で会う前に違和感は無くしておきたいのとそう言うと、

切り分けたチーズケーキを食べ始める。


「違和感……」

「そう、違和感」


有紗は真帆に対してそう理由を説明していたが、本心は別のところにあった。

自分よりもある部分、灰田のことを知っている大輔に、聞いてみたいことがあり、

それを先に済ませたいという思いが、勝ってしまった。

この間は、あまりにも強気な態度を見せてしまったため、素直に出られなかったが、

次回は、素直に聞く事が出来たらと、考えてしまう。

有紗は、8月中なら陽菜も自由がきくだろうから、

また3人で食事をしようと真帆に言うと、自分の手帳を見ながら、

都合がいい日を書き始めた。





「ありがとうございました」


その日の最後の客が店を出たため、圭子は暖簾を取ると、扉を閉めた。

厨房では、祥太郎が料理を作り終えた、鍋やフライパンを一つずつ丁寧に洗っていく。

圭子は、片づけを手伝うことなく中に入ってしまった明彦の様子を見るが、

その姿は見えてこない。


「何しているんだろうね、お父さんは。片付けを全部祥太郎にやらせて。
飲みにでも行ったのかしら」

「いいよ別に。親父も疲れているんだろ、ずっと厨房で立っているわけだし。
片づけくらい、俺がやるよ」


祥太郎は道具を元の場所に戻し、水がついた場所を拭いていく。

台布巾を洗うと、それを丁寧に伸ばし、乾かすための場所にかけた。


「おい、祥太郎」


飲みに行ったのではないかと噂された明彦は、家の中にいた。

祥太郎は名前を呼ばれ、『何?』と振り向く。

明彦の手には、何やら茶色の封筒がある。


「片づけを終えたら、来い」


明彦はそういうと、また中に入ってしまった。

祥太郎は思わず、そばにいた母、圭子を見る。


「なんだろうね、お父さん」

「うん……」


祥太郎は圭子と協力して片づけを終わらせると、母屋の方に入った。

テレビの前で寝転がり、麦茶を飲んでいる明彦が見える。


「親父……何?」

「座れ」


祥太郎は調理用の服を脱ぐと、明彦の前に座った。

テーブルに置いてある茶色の封筒に、自然と目が向かう。


「それ、中身を出してみろ」

「うん」


祥太郎が封筒を開くと、中に入っていたのは、この土地と店の権利書だった。

どういうことだろうかと、祥太郎は明彦を見る。


「……ったくなぁ。俺が勉強なんて出来ずに、この店で必死に生きてきたから、
息子には大学まで通わせて、もっと広い世界を見て欲しいと願ったのに。
いつまで経っても、目覚めるかけらもないし……。
こんな油だらけの店を、守りたいだのなんだのって」


明彦は寝そべっていたが、そこからゆっくり胡坐姿になる。

祥太郎は封筒をとりあえずテーブルに戻し、前を見た。



【19-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

コメント

非公開コメント