19 不安定な立場にいる女 【19-1】

19 不安定な立場にいる女
【19-1】
『華楽』の営業時間が終わり、父、明彦に呼ばれ家に戻ると、

祥太郎の前に出されたのは、店と家の権利書だった。


「俺がいくら反対しようが、俺たちが死んだらここはお前のものだ。
やろうと思えば、結局、やることが出来る。だったら、俺の目の黒いうちに、
お前の計画とやらがどれほど素晴らしいものなのか、見せてもらおうかと、
そう思い始めた」


『計画』とは、もちろん、『華楽』を改築し、

上を賃貸マンションにするということになる。


「豆腐屋にも、理容店の木戸口さんにも言われたよ。逃げたいというやつが多いのに、
継ぎたいというお前は立派だと……」


明彦は、本当にそうなのかはわからないけれどと、麦茶に口をつける。


「お前が、この場所で頑張る覚悟を決めたと知ったら、
同じように頑張ろうとする若い者も出てくるんじゃないかと、言われてね。
ほら、隣町の工務店、あそこが腕がいいだのどうだのって、外野がうるさい、
うるさい……」


生まれてからずっと育ってきた『商店街』。

シャッターが閉まってしまうようなことになったら、思い出は寂しくなるばかりだ。

祥太郎は明彦の言うとおりだと、頷いていく。


「俺は、『華楽』が好きだから。だから守りたい。そのためにチャレンジするんだ。
この夢は小さいものじゃないし、人から笑われるようなものでもない。
親父の言うとおり、確かに大学まで行ったのだから、
どこか大手に勤めてというのもわかる。でも、大きな車輪の小さな部品になるのなら、
俺は小さな歯車でも、自分でそれを動かしてみたい」


祥太郎はあらためて正座をすると、『お願いします』と明彦に頭を下げた。

母、圭子も、二人の会話を台所で聞き続ける。

明彦は、そんなことはしないで顔をあげろと、祥太郎に言い返す。


「おい、この間のお嬢さん、あれからどうした」

「お嬢さん?」

「ほら、お前に色々アドバイスをしてくれたとかいう」

「あぁ……」


祥太郎は、父が真帆のことを言っているのだと理解する。

祥太郎は、実は、真帆が店を追い出された後、謝罪するために会った喫茶店で、

もっと親と向かい合った方がいいと言ってくれたことを話し出す。


「親父とお袋が、どれだけこの店を大切にしてきたか、彼女はここで飲み会を開いたとき、
色々と感じたらしいんだ。だから、主張する前に、それを知ったほうがいいと、
アドバイスをしてくれた」

「……アドバイス」

「うん」


祥太郎は、真帆が教えてくれたことで、初めて色々な部分に気付き、

あらためて、料理も学び直す気持ちになったと、そう話を続けていく。


「無茶なことはしない。親父やお袋が、これならと納得してもらうものにするつもりだ。
今すぐに始めなくても……」

「そうかっこつけるな。もう諦めて手放すんだ。どうにでもしろ」


明彦はそういうと照れくさいのか立ち上がり、風呂に入ってくると部屋から出て行った。

祥太郎は、あらためてテーブルの上にある権利書を見る。

偽者でもなく、本物なのだと、どこか古そうな紙の匂いがすることで納得できる。

今まで感じたことがないような『重さ』を、祥太郎はこの場で初めて味わっていく。


「祥太郎……よかったね」

「……うん」


祥太郎は、圭子の言葉に対し、素直に頷いた。

自分の父親は、わからずやで頑固なだけだと思い続けてきたが、

それは、相手の気持ちを知ろうとしなかった自分自身も悪かったのだと、

あらためて反省する。

守って来てくれたことへの感謝の思いと、引き継がせて欲しいという意欲。

それを見てくれたのだと思いながら、書類をまた封筒に戻す。

祥太郎は自分のバッグの上に置いていた携帯を取り、

真帆の番号を呼び出すと、すぐに電話をかけた。

話しが止まってしまったと嘆いてから、それほど経っていないのに、

事態はいい意味で急転し、報告が出来るようになった。

真帆がどんなに驚くだろうかと、祥太郎は受話器を握る。

その時、真帆は有紗と食事に出かけていて、デザートを待っている時間だった。

揺れ始めた携帯電話に気付き、相手を見ると祥太郎だとわかる。


「ちょっとごめん、電話」

「うん」


真帆は祥太郎と話しているところを、有紗に見られていると気になるので、

携帯を持ったまま、店の外に向かった。

途中で通話ボタンを押すと、すぐに『こんばんは』と明るい声が聞こえてくる。


「こんばんは」

『休みの日にごめんなさい。でも、どうしても一番に伝えたくてさ』


特別扱いとも思える『一番に』という響き。真帆の心臓が『トン』と音を立てる。

祥太郎の口調は楽しそうで、何かいいことがあったのだとわかるため、

それがどういうことなのか、早く知りたくなる。


「何かいいことあったんですか」

『あったよ、あった。親父がさ、『改築』にOK出してくれた』


祥太郎から聞けた話に、真帆は思わず『エッ』と声をあげた。

そうなって欲しいと願っていたものの、

正直、まだまだ時間はかかるだろうと思っていた。

急展開の話に、何か別の理由があったのかと聞き返す。


『理由なんてないよ。親父が認めてくれた。ただそれだけ』

「はい」

『黄原さんのおかげだ、本当にありがとう』

「いえ、そんな」


祥太郎から感謝の気持ちを告げられ、真帆は自分のことのように嬉しくなった。

これから祥太郎が目指したものを実行できるのかと思うと、

今までバタバタしていた日々が、無駄にならなかったとほっとする。


『あれだけ反対していたのにさ、なんだろうな急に。
親父の方から、隣町の工務店がどうのなんて話まで出してきて……』


祥太郎にとってみると、父、明彦のつぶやきを真帆に報告しただけのことだった。

しかし、今の一言が、真帆の気持ちに小さな悩みの芽を出させてしまう。


『こうなったら、親父をしっかり巻き込んでいこうと思って。
ほら、黄原さんも言っただろ、親父が寂しいんじゃないかって。
いやぁ……本当にそうだったみたいなんだ』


嬉しそうな祥太郎の声に、真帆は、そうですよねと同意するだけで精一杯だった。



【19-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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