19 不安定な立場にいる女 【19-5】

【19-5】

文乃が信也に思いを語っていた頃、大輔は『新町幼稚園』に向かっていた。

来週行われる予定の『お泊り会』の打ち合わせと、

先日の盆踊り大会の写真が出来上がり、それを届けること、

訪問には2つの理由があった。園自体は夏休みになっているので、

実際には9月に入ってから、親たちがまた購入写真を選ぶことになるのだが、

大輔にしてみると、盆踊りの日以来、陽菜に再会できると思い、

様子を知ることが出来るだろうと考えながら、インターフォンを鳴らす。

女性の声が聞こえ、自動ドアが開いた。

大輔は中に入り、出てきた先生に『フォトカチャ』だと話す。


「はい、どうぞ」


玄関を掃いていた女性は大輔を職員室に案内すると、

すぐに年長の担当者と、副園長を呼びますと廊下に出ていった。

大輔は座った状態で、先生たちの机の上を見る。

陽菜の机の位置は、おそらくここだという予想がついたので、

座りながらバッグなどを探すが、机は片付いた状態で、あまり人の気配を感じない。

特に今日行きますと連絡をしたわけではないし、園児がいないこの時期なのだから、

休みを取るのは当たり前のことだと思いながらも、

ここに来れば会えると思っていたのも事実で、少し残念だとさえ感じてしまう。

しばらくすると、副園長が年長担当の教諭と一緒に現れて、

お泊り会の流れが書かれた1枚の紙を、大輔によこした。

大輔はそれを手に持ち、どういった写真を撮るのかなど、打ち合わせを続けていく。


「当日は2名の予定ですが」

「十分だと思います」


大輔はメモに赤のペンで色々と書き込むと、

よろしくお願いしますと頭を下げてくれた先生に対し、こちらこそと返礼した。

副園長にどうぞと言われ、出された麦茶に口をつける。


「それと、今日は盆踊りの……」

「はい。お持ちしました」


大輔は見本のファイルを取り出すと、副園長に手渡した。

副園長は、休みの間に貼り付け作業をしますと、そのファイルを受け取っていく。

大輔は、舞ちゃん用にプリントされた集合写真を出す。


「あの……今日、はるな先生は」

「はるな先生ですか。あぁ、そうか。舞ちゃんのですね」

「はい。直接お渡しできたらと」

「すみません、今日は休みを取っています」


大輔はそうですかと言いながら、頷き返した。

それならばと、集合写真を副園長に渡すと、お願いしますと頭を下げる。


「はい」


副園長は、これからもよろしくお願いしますと言いながら、

打ち合わせを終えようとする。大輔は、カバンの中に入れてきた、

2枚の写真をどうするべきかと考えた。

陽菜がいないのなら出すべきではないかとも思ったが、

舞ちゃん自身が写っていることもあるため、思い切って出すことにする。


「あの……」

「はい」


大輔は2枚の写真を副園長に手渡した。

それは同じ写真が2枚になっている。


「これ、実は盆踊りの日に、舞ちゃんとはるな先生を撮ったものです。
撮ってくれと言われたわけではないのですが、僕自身、思わずカメラを向けていて。
なので、二人に渡せたらと」

「あ、はい」


副園長はその写真を見る。


「はるな先生が来たら、渡しておきます。舞ちゃんに手紙の1枚でも書いて、
写真を送るでしょうから」

「はい」


大輔はそれではと立ち上がり、週末に迫った『お泊り会』でと挨拶する。

今日は、カメラが入っていないため、軽いバッグを肩にかけなおすと、

そのまま駅に向かって歩き始めた。





株式会社『リファーレ』。

昼食を終えた後、有紗は灰田が本社に戻ってきたと知り、

部屋の扉を叩くと、そのまま中に入った。

明日以降のスケジュール確認をしようと思い顔を上げると、

そこには知らない一人の男性が座っている。

『クーデター』以来、今まで自分と灰田が使っていた部屋に、

知らない人物が入っていることが確実に増えた。

有紗は、どういう立場の人かわからず、灰田を見る。


「あの……」

「山吹君。彼は以前、僕の下で働いてくれていた水島君だ」


灰田にそう紹介された『水島謙吾(けんご)は、すぐに立ち上がると有紗に頭を下げた。

何も聞いていなかった有紗だけれど、灰田に言われとりあえず挨拶をする。


「彼はとても優秀な男で、これから一緒に色々と動いてもらおうと思っている。
今まで『リファーレ』は、昔からのやり方を大事にして商売をしてきたが、
まぁ、経営者もがらりと変わったこともあって、経営方針にも変化があるだろう」


水島はタブレットを取り出すと、そこにある画面を呼び出した。

有紗はその画面を見る。


「これからはしばらく、僕も仕事に同行させてもらいます。
山吹さんが今まで、灰田部長のそばで色々と仕事をされてきたと伺ったので、
そのノウハウを……」


有紗は、水島の言葉を聞き、すぐに灰田を見た。



【19-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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