19 不安定な立場にいる女 【19-6】

【19-6】
灰田は有紗を見ると、思っている通りだというように軽く頷く。


「あの……水島さんも秘書だということでしょうか」

「いえ、僕は秘書ではありません。どちらかというと……部長の手足のようなものだと、
そう思っています。仕事の中身にももう少し踏み込めると……」

「手足……」


有紗はこの場所だけが、唯一灰田と話が出来る場所だと思っていただけに、

急に入ってきた水島に対し、警戒の気持ちをぬぐうことが出来ないでいた。

灰田は有紗の表情からそれを見抜き、水島に頼んだ書類を届けてきて欲しいと、

テーブルの上に乗せたファイルを手渡した。

水島はわかりましたと頭を下げ、そのまま部屋を出る。

パタンという音が聞こえ、中には灰田と有紗、そして重たい空気だけが残される。


「有紗……そんな顔をするな。水島に失礼だろう」

「すみません、ただ、私は何も知らなくて」


有紗は、知らないことが多くなり、戸惑っていると素直に語った。

灰田は、自分も同じようなものだと、有紗の前に立つと軽く肩に触れる。


「無駄遣いをしてきた経営者一族を追い出した以上、
外から見ても、納得してもらえる改革がなければ、私たちのしてきたことに、
長い賛同は得られない。おそらく、今までのような古い体制の秘書課は、なくなるだろう」


灰田の言葉に、有紗はやはりそういうことになるのかと、肩を落とす。


「そうガッカリするな。世の中の流れには逆らえない」


灰田の言葉に、有紗は黙ったままになる。


「水島には、この後計画している仕事のため、私のそばに来てもらった。
会社の動きは、このまま終わるわけではないんだ」

「……部長」

「ん?」


有紗は『隠されていることはないのか』と聞こうとしたが、

灰田の冷静な表情に、言葉は出ないままだった。

灰田が今何を考えているのか、どうこれからを歩もうとしているのか、

有紗は知りたいと思う反面、知ってしまうと自分が突き放されるのではないかという、

思いだけが膨らんでしまう。

灰田は、部長の椅子に座ると、有紗に今日のスケジュールを発表して欲しいと、

そう話を続けた。





その頃、休みを取った陽菜は、瞬に呼び出された駅に向かうため、電車の中にいた。



『陽菜 どうしたの? 忙しい?』



真帆からのメールが入り、陽菜はそういえば返事をしていなかったことを思い出す。

気分は全く乗り気ではなかったが、これ以上延ばしているのは失礼だと思い、

都合が悪いと言える日は特にないため、みんなの決定に従うとそう返事をした。

申し訳ないけれど、その日になったら予定が変わったとメールし、

欠席しようとさえ考える。

今の陽菜にとって、他人のことを考える余裕は全くなかった。

この後会うことになる瞬から、次はどんなことを言われるのか考えるだけで、

ただでさえ重い気分が、さらに重みを増してしまう。

そろそろ待ち合わせの駅に着くと立ち上がったとき、真帆からのメールが届いた。



『飲み会決定 場所は『華楽』。日時は……』



陽菜は届いたことだけを確認し、時間や日付などしっかり見ないまま携帯を閉じた。





待ち合わせの駅で降りると、陽菜は瞬の車を探した。

先に気付いたのは瞬の方で、運転席から出ると手を振ってくれる。

陽菜はすぐに手を振り返し、小走りに車のそばへ向かう。


「走らなくてもいいのに」

「でも……」


二人は車に乗り込むと、そのまま駅前のロータリーを離れた。

陽菜は、どうでもいい話題から入っていこうと思うのに、

聞きたいことがあまりにも大きく存在し、言葉が出ていかなかった。

瞬は、幼稚園が夏休みになったので、少しは楽になったのかと陽菜に尋ねる。


「うん、子供たちがいないのは気は楽かも。
毎日怪我がないかとか、いつも心配しているし」

「そうか、そうだよな」


自分の複雑な感情を理解し、瞬が話題を振ってくれたのだと思い、

陽菜は当日のことをあれこれ語っていく。

瞬はそれを頷きながら聞き、二人は食事をするために車をレストランへ止めた。

駐車場に車を止め、そのまま店内に入る。

メニューを見てそれぞれがオーダーすると、瞬は携帯電話を取り出し、

どこかにメールを打ち始めた。

陽菜はその様子を見ながら、誰に何を送っているのか考えてしまう。

そして、目の前に座る自分に、いつ本筋を語ってくれるのだろうとそう考えた。

ウエイトレスが前に立ち、コース料理につくサラダをそれぞれの前に置くと、

その場を離れていく。


「あ、そうか……」


仕事の相手なのだろうか、瞬はまだ携帯電話を見続ける。

陽菜はサラダを半分くらいまで食べ終えると、フォークを置いた。

知らなくてもいいことなら、知らないままで済ませたいが、

壁を無視していても、乗り越えられることはない。


「青葉さん」

「ん? あ、ごめん、このメールだけ送ったら終わるよ」


瞬は、携帯ばかり見ていることに、陽菜が怒ったのだと思い『ごめん』とすぐに謝った。

陽菜は下を向いたままの瞬に、『ねぇ』とさらに話しかける。


「何?」

「どうなった?」


何がとか、細かいことを話さなくてもその一言でわかるとそう思った。

『妊娠した』という事実がわかった後、それでも離婚話を進めると言った瞬を、

信じていないわけではないが、ほんの数ミリでも動いたのかと、

陽菜は我慢しきれずに聞いてしまう。


「……うん」


瞬はメールを打ち終えた電話をテーブルの上に置いた。



【20-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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