20 伝わらないもどかしさ 【20-3】

【20-3】
サイドブレーキを引く音が聞こえ、瞬はエンジンを切る。


「どうした」

「ごめんなさい。あの……」


この気持ちをどう表せばいいのか、陽菜にはわからなかった。

瞬を嫌いだと思っているわけではないのだけれど、この間とは違い、

今は、頭と心がバランスを取れなくなっている。


「純香のことが、気になるってこと?」


瞬は、妻との離婚話が、流れるように進まないから機嫌を損ねたのかと聞いた。

陽菜は黙って首を振る。『離婚』の話しが進まないからではなく、

今も、そんなふうに考えてしまう瞬の気持ちに、また心を乱される。


「それならどうして。こうして久しぶりにゆっくりと会えたんだ。
俺の思いも理解してくれたと、そう……」


愛しいという思いがあれば、

抱きしめたいと思うことは当たり前ではないかと、瞬は陽菜の顔を見る。


「それはそうだけれど、でも……」


瞬は、以前、妻との時間を『流れ』と表現した。その上での『妊娠』に対して、

あまりにも瞬の態度がドライであることがわかり、

陽菜は会ったこともない妻の純香に対して、同じ女性としての切なさを感じてしまう。

駐車場にまた別の車が入ってきた。ライトが消えて、中から男女が姿を見せる。

互いの手をつなぎ、ホテルの中に消えていく。


「ねぇ……」


そのカップルが中に入った後、陽菜の顔を見ないまま、

瞬は車のエンジンをかけ、走ってきた道を戻り始める。

来たときよりもスピードは速く、黄色になった信号にも勢いよく突っ込んでいく。


「青葉さん」

「いいよ、わかった。そんなこと無理にすることじゃない。
俺の思いと、陽菜の思いには、差があるということだろう」


瞬は機嫌を損ねた顔つきのまま、夜の道を走り続ける。


「まぁ、仕方がないよな。俺のほうが立場が悪いし。従うしかないだろう」

「……青葉さん」

「ごめん、いいよ。確かに陽菜の言うとおりだから」


口では納得しているようなことを言っているが、陽菜からすれば、

明らかに瞬は不満そうだった。陽菜は自分の優柔不断さが、

瞬を傷つけたのかもしれないと、下を向く。


「君は何も変わらないかもしれない。毎日仕事をして、家に戻って。
でも、俺は全てを捨てるんだ。そんなこっちの気持ちも、少しは考えてくれ」


瞬はそれだけを言うと、そこからは無言になった。

陽菜は、迷い、不安を重ねる気持ちを素直に表現しただけなのに、

どうしてこうなってしまうのだろうと、両手を握り締める。

エンジンの音と、遠くから聞こえるCDの歌声だけが、

車内の重たい空気の中に、流れ続けた。





「自炊は、全く」

「何もですか?」

「うん……包丁とやかんは姉にもらったのがあるけれど、
使ったこと……あったかな」


大輔と有紗は、『ミラージュ』を出たあと、

そこから10分くらい歩いた場所にある、和食の店へ入った。

食事の時間とすれば遅めの到着だったので、店内は半分くらいしか客がいない。


「そういえば、以前お話に出てましたよね、お姉さん」

「あぁ……はい。3つ違いの姉が短大を出て、先に就職を決めていたので、
大学で東京に出てくるときも、親から同居するように言われました。
まぁ、今思えば、本当に何から何までしてもらってましたね。
だから、今になっても、ろくに食事の支度が出来ないんです」

「3つ違いですか、それくらいだと、一番いいのかも」


大輔は頼んだ『天ざる』のそばをすする。


「山吹さんのところは」

「うちは10歳違うんです。だから兄とはあまり交流がなくて」

「へぇ……」

「友達がお兄さんと出かけたなんて聞くと、すごくうらやましくて。
私も、普通の兄と妹のように、ケンカしたりしたかったんですけど……」


有紗は、10歳も離れると、兄というより父に近いとそう言った。

さらに、たまに会うと、お小言ばかり言われるので、

だんだん距離が離れてしまったと、葛餅を切りながら話し続ける。


「どこかでそんな気持ちがあったのかな……。自分のことを見てくれている、
きちんと評価してくれているってことが、嬉しかったのかも」


有紗のつぶやきを聞きながら、それが誰のことを示すのかわかりつつも、

大輔は黙ったまま、またそばをすすった。





瞬と別れ、陽菜は部屋に戻ると、すぐにシャワーをひねった。

冷たい水がお湯に変わっていくまで、陽菜は水の流れを見続ける。

そこから髪を洗いシャンプーを流しても、石けんの泡を落としても、

事実を知らされてからまとわりついてくる思いを、落とすことが出来ないまま、

右手で蛇口を戻す。

妻の『妊娠』という事実は、勢いで全てを乗り越えるには、

あまりにも重い現実だった。

陽菜は、体をタオルで拭きながら、次の約束も出来なかったことを振り返る。



『君は何も変わらないかもしれない。毎日仕事をして、家に戻って。
でも、俺は全てを捨てるんだ。そんなこっちの気持ちも、少しは考えてくれ』



抱きしめあっている中で、本音を聞くことも出来たはずだった。

陽菜は、どうして瞬の気持ちに応えてあげなかったのかと後悔する。

妻がいる男性を好きになったのだから、多少のことには動じない、

強い気持ちを持つべきだったと思いながら、鏡の前に立つ。

舞ちゃんの父親を奪った女性は、堂々と妻である舞ちゃんの母と向かい合ったと聞いた。

何を言われても、責められても、自分は譲らないという強い思い。

それがいいのか悪いのか、立場が変わればわからないというしかないけれど、

陽菜は、ため息ばかりつく自分の顔がいイヤになり、鏡の前を離れていく。

冷蔵庫を開けて飲み物を取り出すと、テレビでもつけようと部屋へ戻る。

テーブルの上に置いていた携帯のライトが光っていたので、すぐに開いた。

不機嫌なまま別れた瞬からかもしれないと相手を見ると、

それは、『新町保育園』の後輩からのメールだった。

そのメールには、休み明けに協力して欲しい書類があると園長が話していたこと、

そして、今日、『フォトカチャ』の大輔が幼稚園に来ていたことが書いてあった。

陽菜はすぐにカレンダーを見る。

大輔が、お泊まり会の打ち合わせと、

盆踊りの写真見本を持ってきたのだろうとそう考えた。

陽菜は、盆踊りの日、『いるか』組に大輔がいたことを忘れ、

泣き顔のまま飛び込んだことを思い出す。

しばらくリモコンでテレビ画面を変えていたが、内容が頭に入ることはなく、

陽菜はその日、早めにベッドへ入った。



【20-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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