20 伝わらないもどかしさ 【20-4】

【20-4】
次の日、陽菜は副園長から、舞ちゃん分の集合写真を受け取った。

母親から新しい住所は聞いていたため、すぐにでも送ってあげようと考える。

以前、出かけたときに買った、

かわいらしい、ひまわりのイラストが書いてある便せんと封筒を使おうと思い、

机の引き出しを開けた。


「はるな先生」

「はい」

「はるな先生がいないのかって、気にしていたようだよ、彼。
何? アタックされてるの?」


副園長は『はるな先生』はどうなのかと、陽菜のことを肘でつつく。


「違います。『フォトカチャ』の白井さんとは、
偶然、同じ結婚式に新郎と新婦の後輩同士で出席したんです。
それを後から知って驚いて……」


副園長は、そうなのと言いながらも、何やら怪しげな笑みを浮かべる。


「そうなんです」


陽菜は、くだらない言いあいをするのは疲れるだけだと、

副園長との会話を打ち切り、席に着いた。

渡された集合写真を見ようと封筒を開くと、スナップサイズの写真を見つける。

それは、舞ちゃんと陽菜が別れを惜しんで抱きしめ合っている、あの日のシーンだった。

陽菜は、残っているとは思わなかった瞬間を手に取り、

部屋に残してある舞ちゃんの絵を思い出す。


「あ、そうそう、それは彼のプレゼントらしいよ。
見えた瞬間、勝手にシャッターを押していたってさ」


副園長はそう言うと、職員室を出て行ってしまう。

ファイルを持って『りす』組に行こうとした足が、『いるか』組の前で止まる。

盆踊りの日、舞ちゃんとの別れと、瞬から聞いた話がごちゃ混ぜになり、

陽菜はこの部屋で泣き崩れたことを思い出す。

その時、大輔が心配そうに顔をあわせたことも、思い出された。

陽菜は教室の隅を見る。

涙が止まらなくなり、立っているのが辛くなった後、『ひとりにして欲しい』と頼み、

仕事で来ていた大輔を追い出してしまった。

心に余裕がなくなっていたため、『大丈夫ですよ』と軽く笑うことも忘れていた自分。

陽菜は携帯を取り出すと、大輔宛にメールを打ち込み、それをすぐに送信した。



その時、大輔は、毎年秋から冬にかけて仕事をしている雑誌、

『LIFE』の出版社に向かうため、いつものバッグを持ち歩いているところだった。

携帯が光っていることに気付き、すぐに誰からだろうかと考える。

『赤尾陽菜』という名前の表示に、道の隅に立ち止まるとバッグを下ろした。

すぐにメッセージを開いていく。



『先日は、みっともないところを見せてしまってごめんなさい。
泣き虫なので、いつもあんな調子です。
でも、今日は元気に職場に来ましたので、大丈夫です』



陽菜は、元気に笑っている顔文字を入れたメールを、大輔に送って来た。

文章はさらに先へ続く。



『『りす』組の集合写真、みんなの笑顔がバッチリ撮れていました。
わが『りす』組は、これほどまでにかわいい子供たちが揃っていたのかと、
あらためて感動しています。一足先に、舞ちゃんへ送ります。
それから、スナップ写真もありがとうございました。思いがけない瞬間なので、
少し恥ずかしさもありますが、これも舞ちゃんに送ります。
お泊り会でも、ぜひよろしくお願いします』


大輔は、元気がなさそうに見えた陽菜が、前向きなメールをよこしたことに、

ほっとしながら、昨日、有紗から聞いた話を思い出した。

陽菜が泣き虫なのは本当のようで、これからイベントがある度に、

笑ったり泣いたりを繰り返すのかと、笑みを浮かべてしまう。

それでも、心配していたような状態ではないことがわかり、

朝から気分がいいことには変わりがなく、大輔はまたバッグを肩にかけると、

出版社への道を歩き出した。



「すみません、白井大輔と申します。『LIFE』の真壁編集長をお願いします」


大輔は出版社に到着すると、そのまま編集部へ向かった。

毎年、秋から冬、そして春にかけて行われているドキュメンタリーものの仕事。

大輔が一番メインにしているのが、この雑誌の特別増刊号だった。

編集長の、真壁は大輔に気付くと、すぐに手をあげて中に入れと声をかけてくれる。

大輔が小さく頭を下げると、真壁の前にいた女性が立ち上がった。

大輔の方を向き、その女性も頭を下げてくれる。


「白井君、彼女が『アスナル』の藍田さんだ」


真壁は、これから大輔が向かう仕事に関係ある人だと紹介すると、

それぞれにソファーへ座れと、指示をした。





「お先に失礼します」

「あ、お疲れさま」


文乃は『アプリコット』での仕事を終えると、すぐに時計を確認した。

今日は、司と食事に行く約束になっている。

大輔がいた前回とは違い、今回は二人だけで会うのだと思うと、

どこか緊張しながらも、そのドキドキする感覚に踊っている自分が嬉しくて、

いつもなら雑談をする事務所からもすぐに出て、寮へ戻った。

身支度を整えて、時間を確認する。

一度玄関に向かおうとしたが、忘れ物に気付き部屋へ戻った。

大輔が以前置いて行った、1枚の写真。

文乃はそれを封筒に入れて、傷や汚れがつかないようにするとバッグに入れると、

あらためて鏡を見ながら口紅の色を確かめる。

嬉しそうにしている自分が映っていることが、どこか恥ずかしく、

文乃は鏡の前に布をかけると、寮を出た。



【20-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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