20 伝わらないもどかしさ 【20-6】

【20-6】

「それでは、また」

「はい」


大輔と、『LIFE』での打ち合わせに同席した女性は、

NPOの『アスナル』で活動する、『藍田志穂』だった。

志穂は、久しぶりに日本に帰ってきたので、今日は実家に戻ると歩き出す。


「あの……」

「はい」


それではと挨拶し別れたはずの志穂が、慌てて戻ってきたため、

大輔はどうしたのかと聞き返した。何か忘れ物でもしたのだろうかと頭で考える。


「ごめんなさい、私の使う駅、こっちで合ってます?」


志穂は、極端な方向音痴なのだとそう言った。

大輔は確かにこの場所は、地下鉄が2路線あり、

さらに5分ほど歩くと他の駅があることにも気付く。


「一緒に行きましょうか」

「あ、でも、白井さんは」

「俺は、どちらからでも帰れるので」


大輔はそういうと、志穂の横に立ち、一番速いのは向こうの駅だと指で示した。

大輔と志穂は並びながら歩く。


「久しぶりって、今言われてましたけれど、どれくらいぶりなんですか? 日本」

「えっと……前回戻ってきたときには雪が降っていたので、半年は……」

「あぁ、そうなんですか」


大輔は、半年見ないと変わった場所もあれこれあるでしょうと志穂に語る。

志穂はそうですねと言いながら、大輔の持つ荷物を見た。


「白井さん」

「はい」

「『LIFE』とは、毎年縁があると話されてましたけれど、今まではどんな写真を……」


志穂は、自分たちは今回初めて『LIFE』の取材や撮影を受けることになりましたと、

大輔を見る。


「毎年といっても、ここ3年ですよ。最初は漁船に乗りました。
漁の様子を取りましたし、港での競りや、養殖事業も。
で、去年は日本の祭りを追いかけて……で、今年です」

「漁業ですか」

「はい。ポイントを決めてやる漁なので、長くて1週間ほどでした。
でも、最初は船酔いがひどくて、撮影どころじゃなかったですけどね」


大輔は、それでも真剣に頑張る人たちを撮影するのは楽しいと、

そう感想を入れていく。志穂は大輔の話を聞きながら、まっすぐに進んだ。





「それでは、お疲れ様でした」

「あぁ……明日も頼むね」

「はい」


有紗は灰田のいる部屋を出ると、ドアノブをゆっくりと動かした。

今日、灰田が会社に来たのは、今から2時間ほど前のことで、

そこまでは水島と一緒だったと、報告を受けた。

秘書というよりも、今や水島の存在は片腕であり、

もしかすると後継者くらいに考えているのだとしたら、

有紗以上に距離を近づけるのは当たり前なのかもしれない。

しかし、クーデターの一件以来、

有紗とは秘書以外での時間もなくなっていることもあり、

灰田に対する不信感だけが募っていく。

秘書課という肩書きは、9月いっぱいで無くなることも決定し、

有紗の新しい立場は、どういうポジションになるのかもまだわからない。

有紗は思い切って灰田自身に問いかけようと振り返るが、

ドアノブに向かうはずの手は、そこから動くことが出来ず、

他の社員が廊下を歩く姿が見えたため、そのまま秘書課へと戻ることにした。





「赤尾さん?」

「そう……前に大輔が、その人のことを楽しそうに話してくれて」


司と文乃の食事は進み、後はデザートとコーヒーを残すのみになった。

文乃は、以前大輔が置いていった写真をバッグ取り出し、

陽菜はどの女性かと聞いていく。


「赤尾さんは……この人」


司は、人差し指で陽菜を示すと、

『新町幼稚園』で先生をしている人だと解説をつけた。

文乃は、陽菜の顔を見ながら、そうなのかと頷いていく。


「本当に偶然です。先輩の結婚式で会って。
で、さらに大輔と赤尾さんは、仕事でも会っていたという偶然続きで」

「そう……」


文乃は写真をしばらく見つめ続ける。

司は、文乃の優しい目が、大輔に向いているとわかり、

そっと指を近づけ裏から軽く写真をはじく。

文乃は思いがけない出来事に、どうしたのという表情の顔をあげた。

司は、驚きましたかと笑ってみせる。


「本当に嫉妬したくなるくらい、仲がいいですね、大輔と文乃さんは」

「エ……」


文乃は、そんなことはとないと言い始め、慌てて写真を下に置く。

司は『冗談ですよ』と笑いながら、写真を文乃の方へ向けた。

文乃は、あらためて司の顔を見た後、写真を入れてきた袋に入れバッグにしまう。


「ごめんなさい、そうよね。弟のことなんて、
こんな年齢になって、気にすることじゃないわよね」


心配性のクセが治らないと、文乃は司に頭を下げる。


「だから冗談ですって。遠慮せずに、知りたいことは何でも聞いてください。
俺は文乃さんの味方ですから。大輔に都合が悪いことでも、あいつが隠したいことでも、
文乃さんが知りたいのなら、何でも答えます」


司はそういうと軽く胸を叩き、また笑顔を見せる。


「その分、いや、それ以上に、俺のことも知りたいと思ってくれると、嬉しいですが」


司のセリフに、文乃は笑顔を見せると、小さく頷いた。



【21-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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