21 笑顔が作れる仕事 【21-1】

21 笑顔が作れる仕事
【21-1】
『純香には産まないでくれと話したが、まだ結論が出ていない。
しばらく、こちらに集中する』


先日、食事の後にホテルへ向かおうとした瞬に対し、

陽菜は、不安定な気持ちのまま、抱きしめあうことをためらった。

瞬にしてみると、それは『拒絶』になってしまい、

陽菜はフォロー出来ないままになっている。

もらったメール。

瞬から出た集中するという言葉からして、妻の純香が、

無事出産することを、相変わらず希望しているのだということがわかる。

しばらくという期間では、解決しないかもしれない。

陽菜はそう思いながら食事を終えたテーブルで、小さな紙の飾りを、

一つずつ丁寧に作り続ける。

幼稚園を退園した舞ちゃんがくれた絵。

それを見るたび、陽菜の気持ちは複雑に揺れた。

何もかもを捨てるという瞬の気持ちに、自分が寄り添うべきだという思いと、

もう少し自分にも、そして妻純香にも、

優しい対応が出来るのではないかという瞬への思い。

日付ごと、そして時間ごと、その思いは波のように行ったりきたりする。

陽菜は作業の手を止めると、答えの出ない気持ちを抱え、

そのままテーブルに突っ伏した。





『お泊り会当日』

この日は土曜日になり、園は本来休みだった。

朝から年長の担任と、それをフォローする年中の担任があつまり、

今日1日のスケジュールを確認する。

副園長は業者から仕入れた花火を、クラスごとに分けた。

陽菜も年長たちのために、教室の掃き掃除から拭き掃除、

お味噌汁作りの準備など、慌しく手伝っていく。

眩しい日差しが西に傾き始めた午後5時。

『新町幼稚園』に今日の主役、年長たちが集まりだした。

布団代わりの座布団や、寝巻き、そして歯磨きのセットなどを持ち、

母親や父親と一緒に通園し始める。


「はるな先生」

「こんばんは。今日は花火出来そうだよ」


『思い出作り』のためにやってきた園児たちは、みな笑顔が輝いていた。

子供よりも親たちの方がどこか心配顔で、何度も先生たちにお願いしますを繰り返す。

その中に紛れて、大輔と吉田が時間通りに顔を出した。

陽菜は大輔に気付いたが玄関と園庭で、距離が離れていたので声は出せない。

大輔は靴を脱ぎ、来客用の下駄箱に入れると、大きなバッグを持ち、

前回と同じ『いるか組』に入っていった。


「はるな先生、こっち」

「はい、今行きます」


はるなは水の入ったバケツを、園庭につけたしるしの上に置き始めた。

終わった花火を必ずここに入れること、人に向けないこと、

そんな注意事項は、夏前から何度も繰り返した。

子供たちの明るい声が、廊下や園庭に響き渡る。

『いるか』組に入った大輔と吉田にも、その声は届いていた。


「『LIFE』。9月からですか」

「うん。今年は半ばくらいからだな」

「いや、でも、いいっすよ。完全なるドキュメンタリーですもんね。白井さん」

「ドキュメンタリーって……まぁ、NPOとのつながりもあるから」


大輔は、9月半ばから取り掛かる雑誌『LIFE』の内容について、

目を輝かせている吉田に説明し始めた。吉田は、また空のシャッターを切る。


「今年もまた、船に乗るんですか?」

「船? それは一昨年だ」

「あれ? そうでしたっけ」


大輔が毎年、半年の契約を交わしている『LIFE』は、

『ドキュメンタリー』を扱っているテレビ局が、自社の番組とタイアップで出している、

記録ものの写真雑誌だった。実際にはテーマを決め、1年間追い続けるものだが、

一人が担当し続けるのは体力的にも難しいため、

半年ごと2人ずつのカメラマンが撮りためていく。


「去年は祭りだったよ。雪の中に数時間待たないとならなかったり、
結構ハードだったんだ」

「祭りですか……」

「ピントを合わせるにも、暗い場所と火を使って明るい場所と、
そのへんのバランスに苦労した」


大輔はレンズを取り出し、撮影用のカメラに取り付ける。


「で、今年は。この間、打ち合わせだったって……」

「あぁ、今年は『小学校』」

「小学校?」


驚き顔の吉田に対し、大輔はNPOとのつながりがあると説明しただろと、

笑みを浮かべた。吉田は、外国ですかと聞き続ける。


「うん。ミャンマーがメイン。半年の中で、山の中にある村の学校と、
都心に出来た学校と、両方を追うことになる。NPOの『アスナル』が、
今までの活動で得た資金を使って、向こうに小学校を建設した。その1年を追っている」


大輔は、今まで家の仕事が大変だからと、なかなか学校に顔を出さなかった子供たちが、

日本の援助をもらい、前向きに変わってきているという話をし続ける。

吉田もレンズを取り出すと、それをカメラに取り付けていく。


「学校ですか……それに行くために苦労するなんてね。
俺たちなんて行くことが当たり前でしたけど」

「まぁな。でも世界は違う。そういうところにいくと価値観が変わるぞと、
先輩に言われたよ」


大輔は、今まではあまり外国に行くのが好きではなかったけれどと、照れ笑いする。


「どうしてですか」

「どうしてって、日本ほど暮らしやすい場所はないだろう。何でも買えるし、
水だって考えずに蛇口から飲めるなんて国、なかなかないぞ」

「確かに……」


そんな話をしていると、『いるか』組の扉を叩く音がした。

大輔と吉田は、担当者が来てくれたとわかり、立ち上がって挨拶をする。

子供たちの声が大きくなり、『新町幼稚園』のお泊り会がスタートした。



【21-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3245-653ce74c

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
271位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>