21 笑顔が作れる仕事 【21-2】

【21-2】
「みんな、お鍋のまわりには寄らないでね」


お弁当が届く前に、園児たちは野菜をつかったお味噌汁作りに取り組んだ。

大輔と吉田は、真剣にネギを切る子供たちの顔を、写真に収めていく。

子供たちは、大きな鍋をかき回す先生を見ながら、同じような仕草をし笑い出す。

そして、自分たちで作ったものを満足げに食べてから、

さらに花火というイベントが続いた。


「白い線の外側に立ってね、花火は絶対にお友達に向けたらダメだよ」


陽菜は裏方として子供たちの後ろに回り、火が危なくならないように配慮する。

大輔は、そんな陽菜と子供たちの写真も、数枚カメラに収めた。



そして、日付が変わる少し前の時間。

たくさん遊び、たくさん笑い疲れた子供たちは、各教室で天使の寝顔を見せている。

大輔と吉田は手分けして、思い出をしっかりとカメラに収めた。

控え室である『いるか』組に戻る吉田と別れ、大輔は屋上に続く階段を上る。

あと数段で屋上というところまで来た時、縦長の窓から外を見る陽菜に会った。


「こんばんは」


大輔の声に、陽菜は振り返るとすぐに頭を下げた。


「どうしましたか」

「あ……いえ、すみません。花火大会の前に、ここから園庭を撮りましたよね。
子供たちが手を振って」

「はい」

「もう12時ですけれど、ここからいい夜景が見られるのではないかなんて、
ふと思ってみたものですから」


大輔は個人的な理由ですみませんと、照れ笑いする。


「そうだったんですか、すみません。花火大会の後、すぐに閉めてしまって。
カギは職員室に」

「あ、いいんです。そうですよね、子供たちが間違えて登ると危ないし」

「そうなんです」


陽菜はそういうと開いた縦長の窓を閉めようとする。

大輔は、陽菜が一人、ここからの景色を見ていたのだと思い、

何か見えるのですかと尋ねた。


「ここ、昔から私の息抜き場所なんです。気持ちが落ち込んだり、迷ったりするときは、
ここでこう……」


陽菜は、建物と木々の隙間から、『東京タワー』が見えるのだと、そう説明した。

大輔は残りの階段を上がりながら、

陽菜には、やはり何か悩み事でもあるのだろうと考えた。

階段を上がりきり、言われた通り縦長の窓から外を見る。


「あ……本当だ」


大輔の目の中に、確かに『東京タワー』が入った。

そのまわりにある木々や、屋根は、暗闇の中にあって、

存在だけがぼんやりとわかる。


「なんだか窮屈そうですけど、タワーを遮断しない場所に建物や木があるでしょ。
それが奇跡のような気がして」


陽菜は、自分勝手な感想ですがと、笑顔になる。


「いや……何か一つ別方向を示したり、角度を変えられていたら、
こういう景色にはならなかったでしょうね。確かに奇跡です」


大輔はそういうと、空いた窓の隙間からレンズを入れるが、

シャッターは切らずにカメラを下ろす。

レンズに収めてしまうと、この狭さが表現できなくなると考える。

あくまでも、この窓の狭さや、距離感に意味があるような気がした。


「あ……そうだ。白井さん、盆踊りの日にはすみませんでした。
私、白井さんたちの休憩場だとすっかり忘れて、飛び込んだりして」


陽菜は、別れはどんなときでも辛いですと、あの日のことを語る。


「いえ、そんなことはいいんです。ただ、泣いていた赤尾さんを見て、
自分がどんなふうに声をかけてあげたらいいのか、俺自身も全くわからなくて。
オロオロしてしまって」

「いえ、当然です。いきなり泣いた女が飛び込んだんですから」


陽菜はそういうと、2年前、園児を卒園させたときも、

一人で大泣きしてしまったと、思い出話を語る。


「そう、その話しはこの間、聞きましたよ山吹さんに」

「有紗に……ですか」

「はい」


陽菜は、有紗と大輔が個人的に連絡を取っているのだとそう思った。

特にそれを聞きだす必要もないと思うが、どういうつながりがあったのかと考える。


「実は、この間、山吹さんからも謝罪されたんですよ。
前に話しましたよね。『クーデター』に至るまでの、灰田部長を追いかけて、
写真を撮っていた話」

「あぁ……はい」

「あの時は、自分自身に余裕がなくてと、この間、謝ってくれました」


大輔は、屋上の扉横にあるベンチに腰かける。


「山吹さんも、会社の変化に戸惑っているみたいです。まぁ、あれだけの規模ですからね。
社員たちにはわからないことも多いでしょうし。
年数を積み重ねたつもりでも、まだまだわからないことが急に出てくることもあるし、
築いてきた時間を、急に疑ってしまうことも、あるかもしれない」


大輔は、そういうとカメラのレンズを外し、ケースに入れた。

陽菜はそんな様子を黙って見続ける。


「以前、少し話したことがある気がするんですけど、姉の話」

「あぁ……はい」

「3つ上の姉は今、老人ホームで介護の仕事をしています。
体力的にも足の怪我を追っているから辛いだろうと言ったら、
体は辛いことがあっても、気持ちは前向きだってそう言われました」


陽菜は、今まで大輔が飲み会でも黙っていることが多かったため、

こうして自分から話をしてくれることが驚きだった。

有紗のこと、姉のこと、自分以外のこととはいえ、

大輔が何を語ろうとしているのか、陽菜は純粋にその先を知りたくなる。

陽菜の視線を感じ、大輔はベンチの隅に寄る。

陽菜は大輔が反対側を空けてくれたのだと思い、その隣に座った。



【21-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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