21 笑顔が作れる仕事 【21-3】

【21-3】
「病気になってしまい、リハビリをする前は立つことも大変だったお年寄りが、
もう一度自分の足で歩きたいと頑張って10歩進むようになると、
本当に嬉しそうに笑ってくれるそうです。それを職員として見てあげられることが、
自分の喜びだとそう言っていました。ものを売ることも大事な仕事だけれど、
『人に笑顔』を作ってあげられる仕事、その笑顔をそばで見られる仕事も、
自分にとっては充実しているものだって」


陽菜は、毎日通園してくる子供たちのことを考えた。

お弁当を食べ終えると、得意げに見せてくる男の子。

折り紙でかわいらしいものを作り、えくぼを出して笑う女の子。

自分の周りには、いつも『笑顔』があった。


「実は、姉自身。足を怪我した時、リハビリをしたこともあって。
そういう気持ちになるのかもしれません。でも、今俺も、
こうして子供たちの写真を撮っていると、姉の言っている意味がわかるんですよ」


大輔はそういうと、今もかわいらしい寝顔を撮ってきましたと笑ってみせる。


「子供って、本当に愛される存在だなと、レンズを向けながら思います。
一番最初の遠足で、俺、赤尾さんに、そんなすごさを感じました」


大輔は、初めて遠足のカメラマンをした日、先に乗りこんでいたバスから、

陽菜と子供たちの様子を見ていたと話し続ける。


「バラバラと好き勝手に動く子供たちが、はるな先生の笛一つで、
集中していくんです。それが強制ではなくて、自分自身の意思だし、
ただ行進しているだけなのに、子供たちからは笑みがこぼれていて……」


陽菜にとっては、毎日のごく自然の時間。

大輔の言葉を聞きながら、そう思っていた。

しかし、子供たちがいずれ園を旅立っていくことを考えると、その毎日が、

どれほど貴重なときなのか、そう感じるようになる。


「笑顔をたくさん作ってやれる幼稚園の先生って仕事は、本当にいい仕事ですね」


大輔の言葉に、陽菜は最初の飲み会の時、大輔が両手で四角を作り、

陽菜の顔を見たことを思い出す。

あの時、子供たちと一緒にいた自分の笑顔を、

大輔は確かにたくさんカメラに収めてくれていた。


「素敵な仕事です……」


大輔はそう言いながら、陽菜を見た。

大輔の首が横に向くことがわかり、陽菜も合わせて横を向く。

互いに視線が合い、その距離の近さにすぐそらしてしまう。

『幼稚園の先生』

陽菜は、学生時代から子供に関わる仕事がしたくて、試験を受けた。

どんなに仕事が辛くても、今まで一度も辞めようと思ったことはなかった。

しかし、自分の仕事がどういうものなのかなど、

こうして客観的に考えたこともなかったが、大輔にあらためて言われると、

本当にその通りだと思えてくる。



舞ちゃんが自分の絵に星を書いてくれた意味。



陽菜は、子供たちが自分に笑いかけてくれる意味を、あらためて考える。


「そんなふうに言っていただくと、少しだけ自信がつきますね」


陽菜はそういうと『ありがとうございます』と頭を下げる。


「赤尾さんは、自信を持つべきですよ。素敵な人……なのですから」


大輔は視線を縦長の窓から見える『東京タワー』に向けていたが、

言葉だけは、横にいる陽菜に向けていた。

陽菜は、姉の話しから自分に向かって流れてくる、大輔の優しい思いを感じながらも、

ただ黙っていることしか出来なかった。





『笑顔をたくさん作ってやれる幼稚園の先生って仕事は、本当にいい仕事ですね』



大輔と別れ、当番クラスに戻った陽菜だったが、

横になるもののなかなか眠りにはつけなかった。

大輔の言葉は、幼稚園の先生という仕事に対する全体論だと思っているけれど、

そのセリフは、思っていたよりも自分の心に響き、そして心地よい余韻を残している。

瞬が自分を見つめてくれるような、ときめきはないけれど、

それでも、自分自身を認めてくれている発言に対して、感謝に近い気持ちが芽生え始める。


『笑顔を作る仕事』


陽菜はもう一度幼稚園の先生として原点に戻り、しっかり前を見ようとそう考えた。





幼稚園のお泊り会が終了し、気付けば『華楽』での飲み会当日になっていた。

どうなるのと強く言われ、とりあえず『出席』の返事をしていた陽菜だったが、

実際その日を迎えると、6人で会うことが、どこか楽しみになっていた。

いつものように幼稚園に入り、『りす』組に向かう。

あと2週間程度で、

またあの元気な子供たちと楽しい時間を迎えることになると考えながら、

新学期の準備をし始めた。





その頃、この日を半分楽しみに、そして半分不安に迎えた真帆は、

いつもの仕事をこなしながら、これからのことを考えた。

今までは『改築』をキーワードに距離感を保っていたが、

ここからは、自分が口を挟める状態ではなくなってしまう。


「黄原さん、出来たの?」

「あ……はい。今すぐ出します」


真帆は、自分が数字を扱っていたことに気付き、

気持ちを切り返すと、電卓を取り出ししっかりと確認し始めた。



同じ頃、有紗は今日の予定を発表するために、灰田の前に立っていた。


「今日は……午後から雑誌『フェリア』の撮影があります。
『リファーレ』の製品も取り扱ってもらうことに決まりましたので」

「あぁ、水島が同行することになっているから、それで大丈夫だろう。
君には、社内に残って、提出しなければならない書類の清書と、
コラムに投稿する記事内容を、確認してもらいたい」


灰田はそういうと立ち上がる。

有紗の横を通り抜けようとしたが、その道を体を斜めにして塞いでしまう。


「何をしているんだ」

「部長、お聞きしたいことがあります」

「今、忙しい」

「それではいつなら……」


有紗の表情に、灰田は大きく息を吐く。


「まぁいい。言いたいことがあるのなら、言いなさい」

「すみません」


有紗は、『クーデター』の頃から、

自分自身が、どう立ち位置を見つけたらいいのかわからなくなったと、

正直に不安な気持ちを吐き出した。



【21-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3247-bbc3c33b

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
500位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>