21 笑顔が作れる仕事 【21-4】

【21-4】
『秘書』という肩書きがあっても、水島や先日訪れていた間宮のような、

新しい人たちが入ってきていて、しかも、彼らのほうがより一層、

灰田自身に近しい気がしてしまう。


「今日の予定もそうです。以前なら私が」

「君は自分が言っていたことを、覚えていないのか」

「……部長」


灰田は横に立つ有紗に対し、冷たい目を見せた。

有紗は、初めてみるような表情に、そこから先の言葉が出なくなる。


「私を支えられたらそれでと君はそう言った。そのひたむきな思いに、
私は君へ信頼とそして……愛情を持って接してきたつもりだ」


灰田は有紗の顔を見る。


「君が煙たがる水島は、仕事の出来る男だ。私自身が見込んでそばにおいている。
そして、君の言った間宮とは……長い付き合いがある」


灰田のそのセリフに、有紗はやはりそうなのかと唇をかみ締める。


「押し付けようとする関係性は望まない。君も色々と思うところがあるからこそ、
こうして僕に強く出るのだろう」

「部長……」

「自由になりなさい。私はそれでいい」


灰田はそういうと、強引に扉を開けて出て行ってしまう。

有紗は、一人、思い出を重ねてきた部屋に残される。

1年半前、灰田部長本人の希望だと言われ、秘書になった。

どこに行くにも有紗の言葉を聞き、時間があれば優しい言葉をかけてくれた。

仕事の出来る上司から、全てにおいて魅力的な男に代わるまで、

そう時間がかからなかったのに、『クーデター』という大きな出来事は、

有紗の密かな思いまで、全て奪い取ってしまう。

頼まれた書類を受け取りにきた間宮あかりを見た時、この人と灰田の関係は、

ただのビジネスではないとそう直感した。

それでも、一番愛してもらえていると信じ、写真を撮っていた大輔に、

灰田を庇う発言までしていたのに。

有紗は扉の取っ手を握ったまま、その場から動けなくなる。

今まで何度も名前を呼ばれていたのに、『君』という表現だけで、済まされてしまった。

それでも最後の力を振り絞って、ドアノブを開けると、

あふれそうになる涙を指で消し、廊下をまっすぐに進み始めた。





『華楽』での飲み会まで、あと3時間。

祥太郎は父、明彦に改築を許可してもらってからというもの、

ノンストップで、色々なことに取り組んできた。

紹介してもらった工務店に、自分が計画した書面を持ち込み、

実現させるにはどうしたらいいのかを、考えてもらった。

日照権の問題から、賃貸として機能させるには、

どういうマンションにするべきか、話を聞けば聞くほど希望が膨らみ、

取り込みたいと思うようになる。

さらに、取引関係のある銀行に対しても、自分が計画した書面を出し、

どういった金額、条件なら融資が可能なのかまで、細かく話し合った。

6人で集まり発表する意味ももちろんあったが、祥太郎にしてみると、

今まで自分を支えてくれた真帆を、安心させたいという気持ちが一番大きかった。

これからは、『心配』という関係性ではなく、

対等になり、会うことが出来たらとそう考える。


「はい、チャーシュー麺、出来たよ」


その日、『貸切前』最後のオーダーを作り終えると、すぐに時計を見た。





陽菜の勤務も、残り1時間になった。

今日はそれほど多くの子供たちがいたわけではないので、

お迎えが終了すれば、早めに園を出ることは可能だろうと考える。

運動会の衣装を袋にまとめ、紐でくくっていると、

今度は大輔がどんな写真を撮ってくれるのかと、そう想像する。

その瞬間、ガチャーンと大きな音が聞こえ、

職員室にいた教員たちが体を硬直させる。何があったのかと思い、

職員室を出ようとしたとき、さらに二度、ガラスの割れるような音がした。

そして少し遅れて、子供が泣き始める。

陽菜は、子供が何かしてしまったのかと思い、職員室を飛び出した。

子供たちが集まっている『ひよこ』組に駆け込んでいく。


「みんな、大丈夫!」


『ひよこ』組のガラスは割れていたが、飛び散らないものになっていたので、

子供たちに直接の被害はなかった。しかし、ある子供が割れたガラスに驚き、

慌てて逃げようとして転んでしまい、園児の座る椅子に頭をぶつけてしまったと、

他の園児が興奮しながら語っていく。


「コウ君……」


陽菜の横にいた後輩が、すぐに救急車を呼び、音に驚いてやってきた副園長が、

被害の状態を見ながら、すぐに警察へ電話を入れる。


「はい、『新町幼稚園』です。そうなんです」


陽菜は泣いている子供たちを優しく抱きしめると、大丈夫だからねと何度も声をかけた。

子供たちは陽菜にしがみつき、『怖い』という言葉を何度も繰り返す。

穏やかだった時間は、急に嵐の時間へと変化した。



【21-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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