21 笑顔が作れる仕事 【21-5】

【21-5】
「それじゃ、そろそろ始めましょうか」


司の合図に、それぞれが自分の席に座り始める。


「それにしても、残念だったな、赤尾さん」


料理を作り終えた祥太郎は、大皿に入れるとそれをそばにいた司に渡す。


「うん……」


結局、陽菜は幼稚園で起きた出来事の処理があるため、

飲み会を欠席することになってしまった。

その報告を少し前に受けた真帆は、陽菜分として出されたお皿や箸を片付ける。


「幼稚園も色々と大変なんだなって、話を聞きながら……」

「まぁ、子供たちが怪我をしたわけじゃないから、最悪の事態は免れたのだろうけれど」


祥太郎は作業服を脱ぐと、厨房から出る。

『華楽』はすっかり、貸切会場の様子に変わった。


「まぁ、そうだな、子供が怪我をしたら今度は幼稚園側の問題だし」


幼稚園でガラスが割れる音がした後、副園長がすぐに警察へ連絡を入れたのは、

実は数ヶ月前から、園宛に不審な電話がかかってきていたという事実があるからだった。


「不審な電話って、恨みってことかな……」


その話を聞きながら、大輔は陽菜はどんな思いで、園に残っているのだろうと考える。


「白井さん」

「あ……うん、ありがとう」


有紗からコップを受け取った大輔は、いつものように端へ座ると、

座ってくれる人のいない場所を見た。


「子供が少なくなってきているとはいえ、人気がある幼稚園はあるらしいよ。
プレ幼稚園に入らないと、入園できないとか、そんな記事をどこかで読んだ気がするし」


司は同じように有紗からコップを受け取ると、大輔の隣に座る。


「犯人がハッキリわからないと、親も心配だよね。子供を預けるのだから」


真帆は遅れて座った祥太郎のコップに、乾杯用のビールを注ぐ。

祥太郎は『ありがとう』と真帆を見た。


「まぁ、また次もあることだし、とりあえず乾杯しよう」


司の合図でそれぞれがコップを前に出し、乾杯の声を出す。

司の前に座った真帆は、料理を小皿に取り、それぞれの前に置いた。

今日のメインがなんであるかはわかっているけれど、とりあえず陽菜の話しから始まり、

世間一般的な話題が、その場であがり始める。

有紗は一番端の席に座り、いつもより少し速いペースでコップを空にした。

食べ物にはあまり手をつけないまま、用意していたチューハイの缶を開けていく。

この場にいない陽菜の話題からスタートしたことは、仕方がないこととはいえ、

有紗にしてみると、陽菜自身がそれぞれから心配されていることに、

どこか焼き餅に近い感情を持った。

頼りにしていた灰田からは、冷たい視線を向けられ、自分がどれだけ精神的に辛いのか、

ここでわかってくれている人はと、思わず一番離れた場所に座る大輔を見る。

大輔の視線は、近況を語る司の方を向いていた。

そして、携帯を取り出すと、視線はそこから下に向かう。


「おい、祥太郎」


司が、祥太郎に声をかけた。


「ん?」

「んじゃないだろうが。お前が集まれって声をかけたんだろ」

「あ……そうでした」


祥太郎はそうだっと言い立ち上がると、一度部屋の中に戻った。

有紗は、携帯を見ている大輔を横目で見ながら、チューハイを飲み進めていく。


「有紗……」

「何?」

「どうしたの? ピッチ速いけど」

「そう?」


有紗は、心配そうに隣で自分を見る真帆に、大丈夫と言い返した。

真帆は、食べながら飲まないと酔うよと助言する。


「いいじゃない、みんなで気持ちよくお酒を飲むために集まったのでしょ。
ここなら酔っても、警察に捕まるようなことにはならないし」


有紗はそういうと、チューハイの缶を持ち、また飲み進めた。

大輔は、顔を上げることなく、メールを打ち始めたように見える。

隣にいる司は、何をしているのかと大輔に聞いた。


「いや……メールだけでも送っておこうかなと」

「メール?」

「うん……」


全員に聞かせようとしていない、小さな声だったが、

有紗は、大輔が陽菜宛にメールを打っているのだろうと、そう思えた。

司はその大輔の行動を見ながら、

大輔が陽菜に写真を渡したと文乃が言っていたことを思い出す。


「お前って……そんなふうにマメだったっけ?」

「ん?」

「いや、いいよ別に」


有紗は、缶を握ったまま大輔の姿を見ていたが、

立ち上がると祥太郎の前から大輔の正面に席を移動する。

自分の前に有紗が来たことに気付き、大輔は携帯から一度顔を上げた。


「白井さん……陽菜のこと、気になります?」


有紗の問いかけに、大輔は持っていた携帯をテーブルに置くと、ビールを飲んだ。

有紗は、邪魔をしてごめんなさいと、頭を下げる。


「邪魔だなんてことはないよ。ただ、あの幼稚園で仕事をしているからかな。
どうなったんだろうって、俺自身、気になることは気になるのかも」


大輔は『俺が心配しても仕方がないけれど』と言い、取りわけた皿を持つ。

そこに色々な書類を持った祥太郎が戻ってきた。

真帆は、手に持っているファイルに書かれている銀行名と企業名に、

すでに動き始めているのだということを、実感する。


「えっと、最初の飲み会で色々と話していたこの店の改築ですが、
いよいよ、実行に移す段階まで話が進みました」


祥太郎はまず、工務店に話を持っていったこと、

そこで建物の高さは3階までの方がいいと言われたことなど、

わかりやすく説明し始める。

しかし、有紗だけは祥太郎の方を向くことはなく、一人チューハイを飲み干し、

さらにまた新しい缶を手にとっていく。

真帆は、話をしている祥太郎を見ないまま、有紗が動き、

さらに飲み進めていることに気付いた。

今は、全員が祥太郎の方を向き、ずっと話していた改築が進むことを喜ぶべきなのに、

有紗の態度は、まるでどうでもいいと思っているようにしか見えてこない。


「ほぉ、これが」

「そうなんだ」


有紗の行動が、祥太郎の話に興味がないのではを通り越し、

さらにバカにしているようにさえ思え、真帆は少しずつ苛立ち始める。

有紗は、そんな真帆の変化に気付かないまま、大輔を見た。


「白井さん……」

「ん?」

「もしかしたらですけど……」


有紗はそこまで言うと、勢いをつけようと思うのか、さらにチューハイを飲んだ。

そして、『ふぅ』と息を吐く。


「陽菜のこと……好きになっているとか?」


気持ちをのぞきこもうとしている有紗の目を、大輔はしっかりと見た。



【21-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3249-ced26af5

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
261位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>