22 切なさのマーブル模様 【22-1】

22 切なさのマーブル模様
【22-1】

「陽菜は一途なんです。相手が結婚しているような難しい人でも、
それが『不倫』であっても、諦めず進むんです」


真帆は、有紗の持っていた缶を取り上げると、

どうしてそんなことを言うのだという顔をする。


「……そんな怖い顔しないでよ、真帆」

「有紗」


有紗はその場で立ち上がると、また最初に座っていた席へ戻るが、

そのままバッグを取り立ち上がった。

祥太郎や司も、今度は有紗が何を言うのかと、視線を向ける。


「ごめんなさい。今日の私はやっぱりおかしいです。
これ以上、みなさんの楽しい会を傷つけたくないので、失礼させてください」


有紗はそう言って頭を下げると、店を出て行ってしまう。

真帆が立ち上がろうとしたとき、その動きを大輔が止めた。

大輔はそのまま有紗の後を追い、出て行ってしまう。

祥太郎の改築話に盛り上がりを見せるはずだった会は、一気に冷たい風が吹いた。


「山吹さん、確かに今日はおかしいな」

「うん……」


司は遅れて出て行った大輔が、何かを知っているのかもしれないとそう考える。

真帆は有紗が残した缶を、片付け始め、

祥太郎は、広げたファイルを1つにまとめていく。

3人は重たくなった空気の中で、それぞれの思いを巡らせた。



「山吹さん」


大輔は有紗にすぐ追いつき、ガードレールの外側から声をかけた。

有紗はバッグの紐を強く握り、大輔の顔は見ないようにしているようで、

視線はまっすぐ前だけを捉えている。


「ごめんなさい、酔っ払いの言っていることですから、ウソだと思ってくれていいし、
もう戻ってください。みなさんに謝って」


有紗は止めようとする大輔の手を振り払い、駅の方へ向かう。

大輔は有紗を追い抜き、ガードレールを越えると前に立った。


「山吹さんも戻ろう。このまま抜けてしまったら……」


大輔が前に立ったので、有紗も歩みが止まる。


「いいじゃないですか、別に。私たち、昔からの友人ですか?
違うでしょ。偶然、結婚式で会っただけだもの。つながりを持ちたい人だけが、
持てばいいんです。私はもう……」

「どうしたんだ、何かあったの?」


大輔の問いかけに、有紗は『本気で聞いているのか』と尋ねる。


「本気で聞いているつもりだけれど」


有紗は、大輔の顔を軽く睨んだ。


「じゃぁ、言います。白井さんですよね、灰田部長に聞いてみろとそう言ったのは。
だから私は聞きました。これからどうなるのかと」


有紗は大輔をまっすぐに見たまま、そう訴えかける。


「確かに言いましたね。気になることは本人から聞くことだと思うので」

「そうしたら言われました。『長い付き合いの人だって』。
間宮さんって人、その人のこともご存知でしょ。白井さんなら」


大輔は、知らないとは言えずに黙ってしまう。


「本人から聞く方がいいと言いましたけれど、結果は一緒です。
だから私は白井さんに教えたの。陽菜には思いを寄せる人がいるってこと。
ほら、好きになって振られちゃう手間が省けたでしょ。結果は一緒ですから。
だから、今教えました」


有紗は、大輔を見ながら、そう言いきった。

最初に飲み会を開いた、『ミラージュ』の店長で、

陽菜とは大学時代からの付き合いがあり、結婚した今でも、思いは残っていて、

二人はこれからともに歩もうとしていることなど、全て話してしまう。


「『不倫』です。状況は私と一緒。誰から聞きだそうが、どう思おうが事実は一つです」


有紗はそういうと、大輔の横を抜けようとする。

しかし、そこまでの勢いは、風船がしぼむように消えてしまい、

有紗の肩は力なく下がってしまう。


「……ごめんなさい」


有紗は消えそうな声でそういうと、また駅に向かい進み始める。

大輔はそれ以上有紗を追うことはしないまま、しばらく後姿を見送った。





大輔が『華楽』に戻ると、3人はいっせいに振り向いた。

一番心配そうな顔をしている真帆に、大輔は小さく頷き、心配ないよと合図する。


「山吹さん、会社でのゴタゴタがあって、気持ちが滅入ってたみたいだ。
みんなにごめんなさいってそう」


大輔はそういうと、自分の席に戻った。

司は、何もないような顔をしている大輔が、

一番傷ついているのではないかとそう考える。

結局、そこから話しは互いの仕事のことなどに代わり、飲み会は続いていく。

それでも、有紗の残した後味の悪さは最後まで付きまとい、

2時間ほどでお開きということになった。

店に大輔と司を残し、祥太郎は真帆を駅まで送るため一緒に歩く。


「ごめんなさい、黒木さん」

「ん? どうして」

「有紗があんなふうになって、もっとお店のこと話したかったでしょ。
全部説明できなかったというか」

「いいよ、そんなこと。司や大輔にはいつだって話せるし。
まぁ、そこに理由をつけただけで、集まりたかっただけだし」


祥太郎はそんなに黄原さんが気にすることはないよと、明るい声を出した。

真帆は、小さく頷きながらも、視線は下ばかり見てしまう。

改築のことが終わり、また、有紗が場を壊してしまったという事実に、

これから先がどうなるのか、全く見えなくなった。

祥太郎も、今は真帆に何を言っても気にするだけだと思い、

二人は黙ったまま、駅に向かった。



【22-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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