22 切なさのマーブル模様 【22-2】

【22-2】
「本人に聞いたほうがいいぞ」


『華楽』に残っていた司は、片づけを終えた店のカウンターに座り、

1本のサワーの缶を開け、半分に分けた。

大輔はその隣に座り、コップを受け取っていく。


「いや……別に、聞くこともないよ」


大輔はそういうと、コップに口をつけた。

司もしばらく黙ったまま、飲み続ける。


「お前がいいと言うなら、まぁ、いいんだけど」


司はそういうと、空いた缶を片付けた袋に入れる。

誰に何を聞くのかなど、ハッキリあらわさなくても、二人の間では、当然伝わった。


「司……」

「ん?」

「俺、9月中旬から、しばらく日本にいないんだ」


大輔はそういうと、いつも世話になっている雑誌の特集が、

今回はミャンマーの小学校だと話していく。


「小学校?」

「まぁ、小学校だけではなく、
それを作り上げていく過程と、それからの四季を撮り溜めている。
半年後とに交代だから……」

「全く帰ってこないのか」

「いや、何度かは帰ると思うけれど……」


大輔は隣にある司のコップに、自分のコップを軽くあてた。


「姉ちゃんをしっかり見守ってくれる人が出来たから。俺も安心して行ける」


大輔の言葉に、司は横を向く。

自分が怪我をさせたと思っていた文乃のために、大輔自身も長い間、

気持ちを小さくさせて生きてきたのかと、あらためてそう考える。


「大輔……」

「頼むな、姉ちゃんのこと」


大輔はそういうと、本当に頼むぞと念押しする。


「わかっているけれど、たかが半年だろ、大げさに言うなよ」


司はそういうと、お前こそしっかり仕事をしろよと、大輔に声をかける。


「あぁ……」


大輔は頷くと、またサワーに口をつけた。





『全くもう、信じられないよ』


その日の夜、お風呂に入り終えた陽菜のところに、真帆からの怒りの電話が届いた。

真帆は、せっかくの飲み会で、しかも祥太郎が店の改築について語っている中で、

有紗が自分勝手な行動をしたと、いつもよりも早口で話し続ける。


「有紗が自分勝手って……」

『人の話しは聞かない。どんどん勝手に酔っていくし。
白井さんが陽菜にメールをしたことがわかって、好きなんですかって聞いてみたり』

「好きなんですかって、白井さんに聞いたの?」

『そうだよ。しかもね、白井さんに向かって、陽菜は好きな人がいますからって、
わざわざ……』


真帆は、今日の有紗はおかしかったでは済まないと、さらに口調が荒くなる。


『それでなくてもさ、前に白井さんに失礼なことを言って、
わざわざ謝っていたくせに、全く、何を考えているのかわからないよ』


真帆の言葉を聞きながら、陽菜は大輔に対し申し訳なさを感じていた。

酔っていたこととはいえ、決め付けられて話をされたことは、気持ちのいいものではない。


「ありがとう、真帆。おそらくまた白井さんとは幼稚園で会うから。
その時、謝っておく」

『うん……』


真帆は、自分よりも冷静な陽菜に気付き、それじゃまたと電話を切った。

陽菜は受話器を置くと、壁に貼った舞ちゃんからの絵を見る。

大輔は、幼稚園のお泊り会のとき、幼稚園の先生という陽菜の仕事を、

素晴らしいものだと褒めてくれた。その時、間違いなく目があった。

静かな夜という特別な空間が、心地よさを演出してくれたのだと思っているが、

思い出すとまた、ふわっと優しい気持ちになれる。

陽菜は肩にかけていたバスタオルで、あらためて髪を拭きながら、

大輔はいつ幼稚園に来るだろうかと、壁にかかるカレンダーを見た。





司には、確認しろと言われたものの、追いかけた有紗から、

細かいことを聞いた大輔は、それは必要のないことだろうと思っていた。

自分としては、態度に出していたとは思えないが、

実際、自分の心の中に、陽菜への思いが芽生えていたことは間違いなく、

司と文乃が落ち着き始めた今、自分も少しだけ前に出られるのではないかと、

そう考えていた。

有紗の話を信じれば、陽菜の相手は、

最初の飲み会で荷物を預かろうかと話してくれた店長になる。

大学時代からという言葉があったとおり、思いは深く長く続いてきたのだろう。

大輔は畳の上に寝転がり、何も変わらない天井を見続けた。





8月のお盆を通り越し、そろそろ9月の、秋の扉が近くなりはじめる。

真帆はいつものように事務仕事をしながら、ため息をついた。

『滑川自動車整備』に行く予定は作れるけれど、気持ちは前向きにならない。

何を前に出して、訪れたらいいのかわからないため、

『華楽』の暖簾が、重く遠く感じられた。


「はぁ……」


それと同じような感情を、祥太郎も実は持っていた。

今まで、『改築』という堂々とした理由があったため、

真帆に対し仕事の帰りにでも立ち寄ってと、気軽に声をかけられたのに、

今は、それが出来なくなったため、どうしたらいいのかわからなくなっていた。

跡取りを祥太郎にと決めてから、夜の店も中心は祥太郎で、

真帆を誘ってどこか食事でもなんていう、時間を得ることすら出来ない。

昼の営業が終了し、祥太郎はため息をついたまま、カウンターに突っ伏した。

母の圭子が、疲れたのかと聞いてくる。


「いや……別に」

「疲れているんでしょ、そんな態度で」

「疲れているというか」


あまりあれこれ言われるのも嫌だからと、顔をあげると、

圭子は何やら茶色の封筒を持ち、目の前に立っていた。



【22-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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