22 切なさのマーブル模様 【22-3】

【22-3】
祥太郎は立ち上がると、鍋やお玉を、定位置に戻していく。


「祥太郎」

「何」

「お父さんがお前に渡せって言ってるの」

「は? 何」


圭子は、茶色の封筒を差し出した。

祥太郎はそれを受け取り、中を見る。


「ん?」


そこには2枚の映画招待券が入っていた。

祥太郎は、確か2週間くらい前に公開されたドキュメンタリー映画だったことを思い出す。


「『アニマルブース 生きていく意味』……って、記録映画?」

「そうなの? 中身は知らないよ。お父さんが持ってきたんだもの。
どうせ何かでもらったんでしょ」


圭子は、お世話になったあの子を誘ったらどうだと、祥太郎にそう言った。

祥太郎は『何を……』と言おうとしてセリフを止める。


「お世話にって、黄原さん」

「そうよ。お父さんが祥太郎にそう言えって」


圭子は調味料入れを一つずつ確認する。


「言えって言われても……」

「行くつもりがあるのなら、店はちゃんと俺がやるからってさ」


圭子は、近頃頑張っているから、そうしなさいと声をかける。


「映画なんてなんだっていいじゃない。お父さんがさ、休んでいいって言うんだから。
ブツブツ言ってないで、さっさと」

「……うん」


祥太郎はそうだねと言いながら、すぐに携帯を取り出した。

圭子と視線が合ったので、受話器を持ったまま店を出ると、

真帆の番号を呼び出し、ボタンを押す。


『はい』

「もしもし、黄原さん、黒木です」


祥太郎は今、話しても平気ですかとそう真帆に尋ねた。





「それではお先に失礼します」


真帆は仕事を終えると、まっすぐに駅へ向かった。

ホームで電車を待つ間に、自分の手帳を開く。

ちょうど1週間後、この日、祥太郎と会うことに決めた。

何やら映画のチケットをもらったと言っていたが、よく考えてみたら、

どんな映画なのかすら聞かなかった。

真帆にとっては、中身などどうでもよくて、ただ、また祥太郎と会い、

話しが出来ることだけで、飛び上がりたくなるくらい嬉しいことだった。

時間と場所を書いた自分の文字を見た後、それをバッグの中に戻す。

ホームに入ってくる電車を見ながら、

今日は近頃気に入っているワインを買って帰ろうと、そう考えた。





園児たちがまた元気な顔を見せてくれる日まで、残り5日となった朝、

陽菜たちは窓ガラスを割った犯人が誰なのか、正式に知ることとなった。

園長が前に立ち、実はそれほど離れていない場所に住むご主人だったと話す。

職員室は『近所』という言葉に、ざわつき始める。

その男性は、『新町幼稚園』に娘を入園させるつもりだったが、手続きのミスがあり、

1週間後にはすでに店員がいっぱいになってしまった。


「あの年は、駅の裏に分譲マンションが一気にできたでしょ。
そこに引っ越してきた子供たちが多くて、確か抽選になりました……」


陽菜が初めて正式な担任を持った年のことだったため、

確かたくさんの応募があったことも思い出した。

そこからの逆恨みと、自分自身の仕事がうまく行かなくなったこともあり、

鬱憤を晴らすために、園に石を数個投げ込んだ。

しかし、それを知った奥さんから説得され、そのご主人は警察に名乗り出たのだと言う。


「とにかく、子供たちが戻ってくる前に解決して、よかったです」


保育士たちは胸をなでおろし、いよいよだと気持ちを入れ始める。

朝の会が終了し、陽菜も準備を続けていると、インターフォンを鳴らす人影が見えた。

陽菜はすぐに反応し、玄関を見る。

そこに立っていたのは、大輔だった。

陽菜より先に、年長の担任保育士が気付き、扉を開ける。

数分すると、出来上がった子供たちの写真を早く見たいと話しながら、

大輔と一緒に職員室へ入ってきた。

顔をあげた陽菜と、大輔の目が合う。

大輔は、さりげなく陽菜に会釈をしてくれた。


「どうぞ、座ってください」

「ありがとうございます」


陽菜は大輔の後ろを通り、『りす』組に向かう。

しばらく聞こえていた大輔の声は、曲がり角のところで聞こえなくなった。



陽菜は、新学期に配るファイルに、一人ずつの写真を貼り付けていく。

同じような作業を繰り返しながら、陽菜は一度手を止めた。

瞬から妻の妊娠についての話を聞いてから、1ヶ月が経とうとしている。

問題が『離婚』だけだったら、いくら時間がかかっても、

気にすることはないのだろうが、誰がどう思おうが、お腹の中の子供は、

確実に成長していく。それでも、繊細な内容なだけに、焦らせるべきではないと、

陽菜はまた気持ちを仕事に戻す。

壁には子供たちと作った作品を並べ、一番大きなものは、目立つ場所に貼った。

色画用紙を重ね、それを天井に近い部分に貼ろうとしたが、

脚立を使っても、あと1歩というところまでしか届かない。

陽菜は、確か用具室には、これよりも高い脚立があるなと思いながらも、

なんとか出来ないかと手を伸ばす。


「うーん……」


つま先で立つと、バランスが悪くなり、あやうく落ちそうになった。

陽菜は目の前の壁に両手をつく。

やはり、無理をせずに持ってこようと思ったとき、入り口に人の影が見えた。

廊下に立っていたのは大輔だった。



【22-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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