22 切なさのマーブル模様 【22-6】

【22-6】
陽菜は、大輔と二人きりの形で初めて向かい合うのに、

あまり緊張せずに食事が進むことが不思議だった。

会話が続いていなくても、それが大輔のリズムに思えて、

機嫌が悪いのか、どうなのかなと考えることもない。

静かな時があっても、そこに何も言葉が出ていなくても、

慌てることはないのだと、ナイフとフォークを動かしていく。


「あの……」

「はい」

「山吹さんのことなんですが」


大輔から有紗の名前を聞き、陽菜は真帆から聞いた先日の状況を思い出した。

陽菜に好きな人がいると宣言してしまい、場がしらけたと聞いている。


「はい、先日のことは真帆から聞きました。なんだか有紗が変な態度だったって。
すみません」

「いえ、山吹さんが辛いのだろうなということは、俺自身、わかっていたことなので」


大輔は、有紗の上司、灰田を追いかけていた自分が、

プライベートを知ろうとしていなくても、色々な情報を知ってしまったとそう話す。


「今まで、秘書として全面的に信頼していた人の、色々な面が暴かれると、
自分がしてきた仕事自体も否定されてしまう感覚があるのは、わかる気がします。
大手であるからこそ、情など関係なく、動かされてしまうでしょうし。
あの日も、不安や焦りみたいなものがあったのかなと……」


大輔は、司も祥太郎もこだわるような人間ではないので、

また、山吹さんも意識せずに参加できるよう、陽菜から声をかけてあげてほしいと、

そう頭を下げる。


「せっかく、偶然に出会って、こうして縁が出来たわけですし。
あんなふうに飛び出して終わってしまうのは、どこか……」

「はい」


陽菜は、有紗が負の状態から脱することを、大輔自身が望んでいるのだと感じ、

わかりましたと約束した。そこからまた食事が進み、テーブルの上には、

それぞれのコーヒーだけが残される。


「赤尾さん」

「はい」


大輔は、そのコーヒーにも終わりが見えてきたことに気付き、

陽菜に声をかけた。


「すみません、もう少し話をしてもいいですか」


陽菜は、目の前に座る大輔の表情を見たとき、この心地よい静かな空間を、

あえて壊そうとしているのかもしれないと思い、急に鼓動が速まった。



『話をしてもいいですか……』



拒否する理由もないため、陽菜は大輔に向かって一度小さく頷く。

大輔は、そんなに緊張した顔をしないでくれと言い、少し気まずそうな顔をした。

陽菜は、すみませんと頑張って口元をゆるめてみる。

そこからは急に、空気の流れる方向が変わっていく。


「初めてお会いした幼稚園での姿は、本当に凛としていたのに、
でも、その夜の最初の飲み会で、赤尾さんはどこにいるのかわからないくらいでした。
俺はそれがすごく、気になったんです」


大輔が話し始めたのは、陽菜との出会いについてだった。

手で四角を作り、自分を覗き込むような仕草をされたことが蘇る。


「幼稚園に行く日は、今日は赤尾さんがどんな顔をしているかなと、思ったりして。
どこか浮かない顔をしていると、何かあったのかなと。
それが舞ちゃんの退園だとわかった時には、なんとか形に残そうと思い、
勝手にシャッターを切っていました」


先日届けられた盆踊りでの集合写真。

確かに、大輔から舞ちゃんとの写真も、もらっている。

瞬とのことがあり、子供を守るべき立場の自分と、家庭を壊してまで、

好きな人を手に入れようとしている自分の正反対さに、心が折れた日。


「さっきも話したとおり、司のおかげで、姉に対する思いが肩から降りて、
自分の気持ちが知らないうちに、楽になっていたのだと思います。
人のことがよく見えるようになって……もっと、その人を知ってみたいと、
そう思うようになって……」


大輔はそこまで話すと、小さく息を吐いた。

陽菜はこの先、自分はどう答えるべきかと、考え始める。


「自分自身では気付いていなかったところを、この間、山吹さんに指摘されました。
赤尾さんのことを好きなのかと聞かれて、
妙な話ですが、自分自身、初めて気付かされたというか……」


大輔は、コーヒーに口をつける。


「そうだった。もっと知ってみたい、話がしてみたいと、俺自身が思っていることに、
気付きました。『あなたが好きだ』っていう、自分の思いに、
初めて向かい合えたというか……」


大輔は、照れくさそうにそういった。

陽菜は、大輔の語り方が、あまりにもまっすぐで、正直であると思い、

この後、自分が言わなければならない事情の重さに心が揺れていく。


「でも、山吹さんは鋭いです。その後すぐに、
赤尾さんには思いを寄せている人がいると、そうハッキリ言われてしまいました」


大輔は、大学時代からというのは、すごいですねと話し続ける。

大輔は、自分の告白に陽菜が戸惑っているのだろうと感じながらも、

途中で終わるわけにもいかず、そのまま話し続ける。


「この後、仕事で日本を離れるわけですから、
何も言わないでおこうとそう思っていました。
こんなこと、聞かされる赤尾さんが迷惑かなと。
でも、あなたの幼稚園の先生として頑張る姿に、単純に感動し、
心を動かされた男がいたってことは、これからの仕事に対して、
ほんの少しでも励みにならないかなと、そう勝手に考えたものですから。
今日はこうして食事に誘いました」


大輔は、有紗から聞いていた具体的な人物のことや、状況のことなどは一切語らず、

向こうから幼稚園に手紙でも送らせてもらいますからと、そう話をまとめてしまった。

陽菜は、大輔が、自分に対していい返事をしないこともわかっていて、

あえて語ってくれているのだとわかり、申し訳ない気持ちが大きくなっていく。

そして、大輔にとっても、自分が『理想の幼稚園の先生』になっていることがわかり、

それは違うという思いが強くなってしまう。


「違うんです」


陽菜は、繕っている自分だけが大輔に見えてしまっている気がして、

かけてくれた言葉を、素直に受け取ることが出来なかった。



【23-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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