23 二人の思いがけない日 【23-1】

23 二人の思いがけない日
【23-1】
大輔の告白を聞きながら、陽菜は自分はそんなにしっかりとした人物ではないと、

叫びたくなる気持ちを抑え前を向く。


「違う?」

「はい。私は、白井さんに褒めてもらえるような、人間ではありません。
有紗の言うとおり……」


一気に押し出そうとした言葉が、なぜか止まってしまった。

見せたくない部分を見せる必要があるのだろうかと思い、大輔を見るが、

言わなければ、大輔のまっすぐな思いから逃げている気がしてしまう。


「有紗が言った通り、私には好きな人がいます。でも、彼には奥さんがいて……」


陽菜は、瞬に妻がいること、それをわかっていて付き合いを始めたこと、

さらに、瞬の妻が妊娠した事実があるのに、それでも自分を選んでほしいと、

願っていることなど、赤裸々に語ってしまう。

大輔は、有紗から言われていた以上のことを聞き、

近頃見せていた陽菜の辛そうな表情は、

園児との別れだけではない悩みの中にあったのだと、初めて知ることになる。


「舞ちゃんのお父さんのことを聞いていたし、自分自身が、
その浮気相手と同じだと思うと、このままでいいのかと悩んだり、
それでも全てが終わることも怖くて、気持ちを吹っ切れなくて」


陽菜は、自分自身がどんどん言葉を生み出し、大輔に語っていることに気付き、

もうここまでいいと話を止めようとしたが、止まらないままだった。

真帆にも、有紗にもここまで話しが出来ないのに、あふれだした不安な思いは、

止める箇所がわからないまま続いてしまう。


「私のことなど、褒めたりしないでください。自分自身が辛いです」


陽菜は『ごめんなさい』と大輔に向かって謝罪した。

大輔は謝る必要などないですよと、下を向いている陽菜に話しかける。


「俺の方こそ、こんなふうに語らせてしまってすみません。
赤尾さんの気持ちは、赤尾さん自身のものです。どんなことを言われても、
思いがそこにあるのなら貫けばいい」


大輔はそういうと、顔をあげてくださいと陽菜に声をかける。


「あなたの一度きりの人生です。謝ったりしないでください」


大輔は『謝る必要などないですよ』とさらに言葉を足していく。

陽菜は、大輔の顔を見られないまま、下を向き続ける。

自分自身が気持ちにピリオドを打ちたくて、瞬に対し妹では嫌だと結論を迫った。

どんなに複雑でも、今まで抱えてきたもの全てを捨てさせるのだから、

自分はこれからも苦しい中に立ち続けなければならないと、両手を握りしめる。


「赤尾さんの生き方を、俺は応援しますから」


大輔のセリフに、陽菜は黙ったままになる。

沈黙が続くのは、陽菜にとって辛いものだろうと思った大輔は、

そろそろ出ましょうと伝票を手に取った。





店から駅まではそれほど時間がかからなかった。

大輔と陽菜の方向は全く正反対になるため、改札の前で別れることになる。


「今日はありがとうございました。仕事で疲れているのに、すみません」

「いえ、そんな」


大輔は、カメラの入ったバッグを肩にかけた。

陽菜は、自分や園児に何度も向けられた、カメラのレンズを思い出す。

これほどまでに笑っていただろうかと思える写真もあったが、

それも、今まで気付くことが出来なかった自分自身になる。


「白井さん」

「はい」

「また……日本に戻ってきたときには、6人で飲みましょう」


陽菜の提案に、大輔は一瞬反応が遅れる。

それでもすぐに笑顔を見せ、『はい』と頷いた。

陽菜はよかったと頷き、『さようなら』の言葉を出そうとするが、

口から飛び出たのは、『お土産待っています』という別のものになる。


「……はい」


大輔はそう返事をすると、あらためて会釈をし、ホームに消えていく。

陽菜は、大輔の背中が階段の中に消えていくまで、ただ黙って見送った。





『赤尾さんの生き方を、俺は応援します』



帰りの電車に乗ってから、陽菜は何度もこの言葉を思い返した。

今まで幼稚園の先生という仕事をしている中で、感謝をされることはあっても、

その自分を『素敵』だと褒めてくれる人はいなかった。

自分の仕事が、子供たちの夢や未来を作り、

そして心からの笑顔を作れるものだという思いも、

常にレンズから一瞬を捉える大輔に、教えてもらったことだった。

陽菜は、まっすぐに気持ちを語ってくれた大輔のためにも、

動き始めた瞬との関係を、きちんと受け入れていくべきだとそう思う。


瞬の決断に従い、ついていく。


自分の告白によって、人生を変えようとしているのだから。

陽菜は、ふらふらと揺れている場合ではないと、流れる景色に目を向けた。



『白井さんに褒めてもらえるような、人間じゃないんです。
有紗の言うとおり、私は好きな人がいます。でも、彼には奥さんがいて……』



同じ頃、大輔も辛そうな顔のまま、自分に対して全てを語ろうとした陽菜に、

申し訳なさを感じていた。結果はわかっていたのだから、

黙っていればよかったのではないかという、後悔の気持ちまで襲ってくる。

空いた座席に座り、そのまま目を閉じると、

しばらく何も考えないようにしようと、電車の揺れに身を任せた。



【23-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3257-41932298

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
431位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>