23 二人の思いがけない日 【23-2】

【23-2】
カレンダーは9月になった。

『新町幼稚園』もスタートし、夏休み元気に遊び、家族と過ごした園児たちが、

副園長に走ってはダメだと言われながらも、あふれるパワーで廊下を横切っていく。


「来ましたね、また、慌しい時間が」

「そうね、でもやっぱり幼稚園はこうじゃないと」


先生たちもそれぞれの準備をし、教室に向かう。

陽菜は『盆踊り大会』での集合写真をデスクに飾る。

これからも一緒に過ごす子供たち、そして新しい出発をするために離れていった舞ちゃん。

そして……この一瞬を残してくれた大輔のために頑張ろうとそう考える。


「さて、行きますか」


ファイルと手帳。夏休みの宿題を入れる袋を手に持ち、

陽菜は『りす』組に向かった。





その日は、予想が午後から雨だったため、祥太郎は家の軽自動車を使い、

帰りは真帆を送るつもりでいた。そのため待ち合わせ場所は、いつもの駅前にする。

昼の客たちが入り始め、注文を聞きながら中華なべを振るものの、

少し時間があると、車の中は汚かったのではないかと心配になった。


「なぁ……」

「何」


祥太郎はカウンターを拭いている母、圭子に声をかけた。


「あの車、親父が趣味の釣り道具とか入れてなかった?」

「車? あぁ、そうじゃないの? だって……」

「まずいな」


祥太郎は餃子を皿に入れると、お盆に乗せる。

圭子は布巾を横に置き餃子の皿を持つと、テーブル席にいる客たちに渡していく。


「気になるのなら、出しておけばいいでしょうに」

「後でやるよ」


祥太郎は汚れた皿を流しに入れると、片手でスポンジを持ち洗い出す。

あと数時間後に真帆とまた会えると思うと、自然と鼻歌が始まった。

昼間の営業を終了した後、祥太郎は素早く食事を済ませ、

明彦の釣り道具を全て車から出し、玄関にまとめて置くと、

シートカバーを剥ぎ取り埃を払った。

とりあえずセッティングしてみるものの、車の中に妙な臭いが残っている気がして、

扉を全てあけたままにする。

その様子を洗濯物を取り込みながら見ていた圭子に、

妙なことをしていると言われたが、母親の小言より、

真帆の不快な顔を見ることになったほうが数倍も大変だと思い、無視し続ける。

そして、出発時刻を迎えた祥太郎は、身支度を整え運転席に座った。

努力のおかげで、気になる臭いもない。

祥太郎は駅に向かう前にガソリンスタンドへ寄り、洗車もしてもらうことにした。

店員には、これから雨が降るのにいいですかと言われたが、それでもとお願いする。

待っている間、祥太郎は父親からもらったチケットを取り出し、

それをまたバッグに戻す。いつもなら手に取るスポーツ新聞より、

今日は男性ファッション誌の方が気になった。

祥太郎が待ち合わせの10分前に到着し、真帆を待っていると、

予定よりも少し早めに姿が見える。祥太郎は運転席から出ると、

真帆に向かって軽く手を振った。


「すみません、車」

「いや、なんだか天気予報がよくないし。
映画を見る場所がショッピングモールだろ、駐車場もあるからと思って」


真帆は映画なんて見るのは久しぶりだと、そう言った。

祥太郎も、自分もそうだと話す。


「親父が商店街の人からもらったんだって。
だからたいした映画じゃないかもしれないけど、ごめん」


あくまでも、偶然手に入ったので、なんとなくこんな状態になったという、

軽めの言葉をわざと言ってみせる。


「いえ、そんなこと」


真帆は、祥太郎と出かけられることが嬉しいと思い、内容などどうでもいいと、

何度も首を振った。

祥太郎も、内心、映画はこうして真帆と会えるきっかけになってくれただけで

十分だと思いながら、エンジンをかけ走り出す。

2つめの信号が赤だったので、ブレーキをかけて止まる。

すると、車内が静かだったことに、あらためて気付かされた。

祥太郎は何か話そうと思い、浮かんだセリフを口に出す。


「あ……そうだ。あれから山吹さんと連絡取った?」

「……いえ」


真帆は、最初の話題がまた有紗のことだと思い、少し肩を落とした。

祥太郎は、そんな真帆の思いには気付かないまま、『そうなんだ』と頷いている。


「まぁ、少し置いたほうがいいのかな。大輔が追ったときも、そんな感じだったしね」


祥太郎は、あまりガンガン言っていくのもよくないかと、そうつぶやいた。

真帆は、複雑な気持ちとは裏腹に、

『近いうちに電話をしてみます』と、いつものように、見本といえる返事をする。


「あ、そうだよね。うん」


広げようと思った話題は広がらず、ちょっぴり微妙な空気と二人を乗せた車は、

目的地に向かって、順調に走り続けた。



祥太郎は、地下の駐車場に車を止めて、最上階にある『シネマプレイス』に向かう。

ここでは、普通の映画館の半分くらいの客席数しかないが、

いくつかの映画が公開されている。

祥太郎はチケットを見ながら場所を探した。

入り口に立っている女性に、2枚のチケットを手渡す。

女性は半券をちぎり、残りを祥太郎に戻してきた。


「6だって」


祥太郎はそういうと、真帆の少しだけ前を歩き、『6』と書かれた部屋に入った。

映画の予告と、コマーシャル。そして色々な映像が流れ、上映時間に近付いていく。

『全米大ヒット』や『話題作』なんてものではないので、

当たり前なのかもしれないが、館内は3分の2程度の入りだった。

祥太郎は半分より少し後ろ側にある4人並びの席が空いていたので、

わざと1つ空けて、真帆と並んで座る。どちらかに詰めてしまうと、2つ座席が空くため、

誰かに座られかねないが、これならばわざわざ空いている席に、

知らない人が入ってくることはないとそう思った。

真帆はハンカチを取り出すと、手で握る。

肩が触れ合うような距離にいることが、新鮮でもあり、どこか気恥ずかしい思いもある。

それからも数名館内に入ってきたが、満員とはならない状態で、映画が始まった。



【23-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
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あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
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