23 二人の思いがけない日 【23-3】

【23-3】

『アニマルブース 生きていく意味』という題名どおり、動物たちの生活ぶりが、

カメラに収まっていた。海で堂々と泳ぐくじらやいるか、

そこにペンギンのような愛らしいものまで加わってくる。

しかし、開始から15分くらいすると、生きていくための狩りが当然のように行われ、

その事実の残虐さに、真帆は下を向いてしまう。

テレビなどでもこういった特集はあるけれど、あまり好んで見ることはなかった。

映画のスクリーンだと、映像も音も迫力があり、より怖い思いが前に出てしまう。

隣の祥太郎の目は前を向いていたので、真帆もなんとかと思うのだが、

どうしてもまっすぐに見ることが出来ない。

叫び声からはどうしても逃げることが出来ず、真帆は下を向き続けた。

その様子は、隣に座る祥太郎も感じ取っていたが、どうすればいいのかがわからず、

数回、横にいる真帆の状態を確認するだけになる。

男の自分でも目をそらしたくなるようなシーンが続き、いくらもらったものとはいえ、

これを見せようとしている自分に対し、真帆が悪感情を持たないかと不安になりだした。

しかし、しばらくすると、画面はがらりと変わり、親子の絆が映り始めた。

一生懸命にエサを集め、子供たちを大きくしようとするもの、生きていく術を教えるため、

何度も繰り返し練習させるもの、動物というくくりの中でも、

『愛情』のかけ方は、それぞれになる。

真帆は、映画の中に出てくる動物の親子を見ながら、

しばらく会っていない自分の両親のことを考えた。

夏休みとして数日間、仕事が休みだったのに、家の掃除をしたくらいで、

実家に顔は出していない。距離からすればそれほどではないのに、

どうせまたけんかになると思い避けている。

真帆は隣にいる祥太郎が、

しっかりと家族と向き合い、新しいことにチャレンジし始めているのに、

自分は、後押しをしたものの、何も行動が出来ていないことを反省する。

そこからは、親が亡くなってしまった小猿を、研究者たちが立派に育て、

群れに戻していくまでの出来事が記録されていた。

最初こそ残虐なシーンに目をそらしていた真帆だったが、

最後は小猿の旅立ちを見ながら、目頭をハンカチで押さえることになる。

映画が終了し、会場に明かりがつくと、眩しい目が慣れるまでしばらくかかった。


「行きましょう」

「はい」


二人は立ち上がると映画館を出て、そのまま食事に向かうことにした。

『チーズ』を使った評判のお店は、平日なのにすでに列が出来ている。

祥太郎はそこに並ぶと、一度大きく息を吐いた。


「俺、途中で黄原さんに出ましょうかと言うところでした」


祥太郎は、戦って傷つくシーンなど、自然と目が閉じていたと笑う。

真帆も、自分もなんだか怖くて、下ばかり向いていたと話した。


「親父のやつ、なんてチケットをもらってきたんだって思いましたけど、
途中からはよかったですね」

「はい……感動して」

「俺もです。今度は泣きたくなりました」


祥太郎はそういうと、照れくさそうに笑って見せる。

真帆は、祥太郎と自分が、映画の間、同じようなことを考えていたのだと思い、

さらに距離が近くなった気がしてしまう。

15分ほど映画の感想を話し合っていると、『どうぞ』と呼ばれ、

二人は席につくことが出来た。





陽菜の携帯に、瞬からの連絡が入ったのは、

祥太郎と真帆が楽しい時間を過ごしているその頃だった。

電車の中だったため、内容の確認だけをする。

そのメールには、近いうちに会いたいという文面が入っていて、

陽菜は、これから運動会準備が本格化するので、今週中でいいかと返信する。

陽菜はすっかり暗くなった外の景色を見ながら、目的地に着くまで過ごした。





「あぁ、チーズケーキ、あれはいいですね」

「そうですね。レアもよかったし」


食事を終えた祥太郎と真帆は、二人は駐車場に向かい車に乗り込んだ。

祥太郎はエンジンをかけ、出発しようとする。


「黄原さんの家の近くまで送りますよ」


祥太郎は、そのために今日は車で来ましたと言い始める。

真帆は、ここからなら『華楽』の方が近いから、

待ち合わせした駅で十分だとそう遠慮する。


「遠慮しなくていいですよ。今日の天気予報を聞いた時から、
こうしようと思っていたわけですし……」


二人が地下から出て行くと、嵐とまでは言わないが、

確かに10分程度歩けば、足元はびしょ濡れになりそうな状況だった。

ワイパーを動かしながら、車は道路の流れに合流する。

しばらく走ると、祥太郎の方が、音楽でも聞きましょうかとボタンを押した。

FMに設定されていたので、そこから流れるように曲が聞こえ始める。

どこかで聞いたことがあると思い、真帆が耳を傾けていると、

それは『ディズニー映画』で流れる、何かの映画のテーマ曲だった。

聞き覚えはあるものの、映画のタイトルが浮かばない。

真帆がそれを考えながら黙っていると、祥太郎がふっと横を見た。


「疲れましたよね、今、時計を見たら、10時になっていて」

「エ……」


真帆が黙ってしまったことが、『疲れ』だと思った祥太郎は、

もう少し早く店を出ればよかったなと、そう反省の言葉を話した。

真帆は、そんなことはありませんからと、力を込めて言う。


「疲れてなんていませんから。私、今日がとっても楽しみで……」


そこまで勢いで言ってしまい、思わず口を閉じる。

祥太郎はそれならよかったと笑顔を見せた。


「俺も、楽しみにしてました」


祥太郎の返事に、真帆は気持ちが通じている気がして、嬉しくなる。

そこからの時間は、互いにいっぱいの思いを抱えながら、あえて無言になった。



【23-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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