23 二人の思いがけない日 【23-6】

【23-6】
真帆がマンション前に戻ると、当たり前だが二人が車に入って待っていた。

祥太郎は運転席の前に立ち、申し訳ありませんと頭を下げる。

真帆の母はそれを無視したままだったが、祥太郎はさらに失礼しますと続け、

一度しっかり真帆と視線を合わせると、車に乗り、離れていった。

真帆はカギを取り出すと入り口に向かう。

母と美帆が遅れてついてきて、3人は揃って中に入った。

お茶を沸かす間も、3人は無言のままだった。

テレビのリモコンはあるものの、美帆もつけようとはしない。

真帆は準備をした後、それをテーブルに運ぶ。


「何を考えているの、真帆」

「何って、ごく普通のことです」

「普通?」


母は、条件が悪すぎると、祥太郎を批判した。

美帆は出されたお茶菓子の袋を破き、一人で食べ進めていく。


「条件で人を好きになんてなりたくないです。でも、
私には、黒木さんが条件の悪い人には思えません」

「個人経営の中華料理店でしょ。そんな油まみれで」

「それのどこが悪いの? 彼は大学を出て、色々学んだ上で、
自分は店を継ぎたいとそう決めたの。このままでは確かに経営が大変だと思うから、
古い家と店を改築することも考えて、今、第一歩を踏み出した」

「改築? 何それ」


美帆はそこで初めて声を出す。


「店と住居だけではなくて、上を賃貸として貸し出すことにするの。
家賃収入が入れば、お店の売り上げだけに頼っている今とは、また変わってくるし」


真帆は、それぞれの前に湯飲みを置く。


「へぇ……それならオーナーってこと」

「何がオーナーですか。あのまま信用金庫にいれば、
それなりの方とめぐり合うことも出来たでしょうし、
そんな男なら、この間お母さんが薦めたお見合いの人の方が……」


母は、先日送った見合い相手は、社会的地位もある教師だと、そう言った。

真帆は、自分の意見は絶対だと思い込み話す母親の顔をじっと見る。


「お母さんは、それならどうしてお父さんを責めるの」


真帆は、初めて強い口調で母を責めた。

祥太郎と心が通ったという事実が、ひとまわり自分を強くさせる。


「お母さんの理想でしょ。公務員、高学歴、安定した生活。
それなのに、どうしてお父さんを責めるのよ」

「……真帆」

「愛想がない。要領が悪い。話しが下手。お母さんから聞くお父さんのことは、
こんなことばかりだった。真面目に働いているお父さんがかわいそう。
私はいつもそう思っていた」


真帆は、ひとりで晩酌する父の背中を見ながら、いつもそう思ってきたと、

母に言いきった。美穂は黙ったままお茶を飲む。


「幸せは、思いがつながらないとつかめない。私はそう思う。
黒木さんはたくさん素敵なところを持っている人なの。私にはそう思えるの。
少なくともお母さんみたいに、私は相手を馬鹿にしたりなんてしない。
私はあの人の夢に、気持ちに、寄り添いたいと、心から思えるから……」


美帆は、必死に訴える姉の姿を見ながら、人はここまで変わるのかと思っていた。

家を出るときも母親と言いあっていたが、ここまで具体的ではなく、

どこか逃げるように出て行ったからだ。

美帆は、急須を持つと、自分の湯飲みにお茶を入れる。


「そのお父さんがね、入院したの」

「……エ?」

「職場で急に倒れたの。もちろん救急車で運ばれて、入院した。
先生はたいしたことがないと言ったけれど、実はお母さん、慌てているのよ」

「美帆」

「慌てているの。予想外の出来事に。だから私がここへついてきた」


美帆はそういうと、湯飲みのお茶を飲み始める。


「お姉ちゃんが思っているような、冷酷で無敵なお母さんでもないんだな……これが」


美帆は、そう言うとリモコンを持ち、テレビをつけた。

静かな空間に、ニュース原稿を読み上げるアナウンサーの声が入ってくる。

真帆は母に背を向けるような体制で座り、湯飲みを両手で持った。





祥太郎は家の駐車場に車を止め、エンジンを切った。

ライトもオフにして、一度大きく息を吐く。

自分自身は思っていたことを話し、交際をしようと申し込めたが、

反対していた母親に対して、あれから真帆がどうしているだろうかと心配になる。

携帯を取り出し、連絡をしようと思うが、それがまた新たな火種になる可能性もあると、

結局ポケットに戻した。


「ふぅ……」


車のシートに寄りかかり少し目を閉じると、1時間くらい前に訪れたぬくもりが蘇った。

抱きしめた感覚と、唇の感触。

真帆は最初、先輩の結婚式で司を見かけた。

あの時の勘違いがなければ、真帆がハンカチを落とすことがなければ、

自分たちの出会いはなかったのかと思うと、その偶然の確率が、

ものすごく貴重なものに思えてくる。


「真帆……か」


祥太郎は小さな声で、真帆の名前を呼ぶ。

誰にも聞かれていないのはわかっているのに、照れくさくなり、

外の風に当たろうと、車のドアをあけた。





春から夏にかけて、

クーデターという大きな事件に振り回された『リファーレ』の社員たちは、

9月を迎え、それぞれの新しい場所に異動した。

今まで秘書課に勤務し、広報部長である灰田についていた有紗は、

『総務部』に配属され、3日目となった。

華やかなところなど何もない仕事内容に、同じく秘書課から回った1つ年上の先輩は、

ため息ばかりついている。


「山吹さん、これからも続けるつもり?」

「仕事をということですか?」

「そうよ。だって、こんなことをするために入社したわけじゃないのにって、
日々、考えてしまうもの」


有紗は、灰田の本心を聞いてからというもの、どこか『無』の思いでいた。

何も欲しくないし、何も聞きたくないし、何もしたくない。

そんな調子の自分に、この総務部はどこか似合っている気がしてしまう。


「もう少し考えます」


有紗はそういうと、伝票をまとめ、それを社内回覧用の封筒に入れた。



【24-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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