24 全てを聞き終えた後 【24-2】

【24-2】
陽菜にどう思われているのか、気になりながらも、

ことは動き始めているのだから後戻りは出来ないと、必死に前へ進もうとする。

陽菜は、なぜ、瞬が大学時代の話を持ち出したのか、そこで合点がいった。

瞬にとって純香とお腹の中にいる子供は、ただそれだけではない別の価値を持っている。


「初めて……お腹の子を愛しいと思うようになったんだ」


妻という文字だけのつながりなら、切り離せるのかもしれないが、

純香という女性は、瞬にとって、『人生を切り開ける可能性』を持っている。

陽菜は、以前、瞬に誘われ気持ちが乗らないと断りを入れた時、

『何もかも無くす』と、必死に訴えられたことを思い出す。


「卑しい人間だと、そう思うだろ。金や地位が絡んで、急に気持ちが変わるなんてさ。
でも、俺は今年30になる。同じ条件をこれからつかめる可能性を考えたら、
大学時代、ずっと苦しんできたことを考えたら、この先、もっと上にいける可能性は、
今以上に少なくなるはずだ。俺は、今を……いや、これからを捨てられなかった」


瞬は、陽菜をまっすぐに見つめ、『ごめん』と頭を下げた。

陽菜は自分の前にあるカップを持ち、気持ちを整えようと何度かコーヒーに口をつけた。

いつも味わうような優しい味なのに、いつもならその香りにほっとするのに、

今日だけは、何も変わらない。

わかりましたなんて言える心境でもないし、どうしてそんなことになるのだと、

責め立てる元気も生まれてこない。

『全てを無くすのだ』と言われたことに、自分自身大きな責任を感じていた。

陽菜が瞬に思いを告白しなければ、瞬は離婚を切り出すこともなかったのだから、

子供が出来たこと、妻が離婚にごねていること。

難しい状態も全て受け入れ、自分は瞬を信じるべきだと、『覚悟』を決めてきた。

しかし、瞬が出してきた答えは、その『覚悟』をひっくり返してしまう。


「陽菜にも……実際、迷いがあったんだろ」


瞬は、ホテルに誘ったとき、拒否した日のことを言い始めた。

あの時、迷いがあったから、どこかこのままではダメだと思ったから、

二の足を踏んだのだろうと、聞き返してくる。


「無理かもしれないって、思っていたんだろ。今は、あの時の陽菜の気持ちが、
理解できるんだ」


瞬の言葉に、陽菜は長い間持っていた、コーヒーカップを置く。

自分だけではなく、陽菜にもこうなる予想が出来ていたのではないかと、

どこか責任をなすりつけようとしている気がして、

そこから、急に怒りのエネルギーが心に充満し始める。



大学時代から、ずっとこういう日々を捜し求めてきたのだから、

自分には商売の才能があって、相手にも求められているのだから、

不倫を決めた陽菜にも迷いがあったのだから……



だから、こうした結論になっても、俺だけを責めないでほしい。



瞬の自分勝手な理想の答えに、陽菜は唇をかみ締める。


「だったら……迷いがあったのなら何ですか。
自分だけではなくて、私にも責任がある。
こうなることもわかっていたのだから、あまり責めないでくれと、
そう言いたいのですか」

「……陽菜」

「迷いがあるのは当たり前じゃないですか。結婚している人を思うことが、
どれくらい大変なことか。でも……」


それでも、前に進もうと必死に立ち続けた自分に対して、

労わりの気持ちすらない瞬の言葉の数々に、陽菜は言葉を止める。


「苦しかったことは確かです。新しい命に対して、申し訳ない気持ちもあったし、
私が告白したことで動き始めたのだから、何があっても信じるべきだと、
必死に思い続けて……。それでも、どうしたらいいのか不安になった」


追い込まれても、『青葉瞬』を愛していくと、自分を奮い立たせてきたこと。

その言葉は陽菜の気持ちから、外へ行かないまま心の奥に沈んでしまう。

無言の時間を積み重ねる中で、陽菜は言葉が押し合う中、

何をどう言ったらいいのか、整理がつかなくなっていく。


「陽菜と生きていこうと思ったのは、ウソじゃない。でも……
純香の中に芽生えた命にも、責任がある」


瞬の、責任を取るのが当たり前だと言えるようなセリフに、

陽菜は思わず水の入ったコップを握った。

頭では、目の前にいる瞬に対し、冷たい水を頭からかけてやりたい気持ちだった。

しかし、手は動かない。

初めて妊娠がわかった日、瞬は迷惑だという態度を取っていた。

『流れ』という、あまりにも無感情なセリフに、陽菜の方が戸惑った。


「責任……ですか」

「うん」

「私には……」


自分を信じろと言ったことに対しての責任はどうなのかと言おうとして、

その言葉を止める。大学時代から思い続け、別れた後も再会に鼓動を速め、

何もかも投げ捨ててもと思った『青葉瞬』への気持ちが、そこで一気に冷めていく。



愛とは、こんなものだったのかというくらい……



昼間の風が、夕方になると急に冷たい温度を表すように……


「もうこれ以上、話す事は無駄ですね」


陽菜の問いに、瞬は黙ったままになる。


「結論だと、青葉さんはそう言いました。いいです、わかりました。二度と……」


出したら終わってしまう、最後のセリフ。

陽菜の心に、ほんの一瞬、ためらいが戻る。



「二度と……あなたにはお会いしません」



陽菜はそういうと、席に瞬を残したまま店を出る。

しばらく歩き続けその場に立ち止まるが、瞬が追ってくることはなかった。



【24-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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