24 全てを聞き終えた後 【24-4】

【24-4】

有紗は『山吹です』と名乗り、突然電話をかけたことをまず謝罪する。


『こんばんは』

「こんばんは……それと……この間は、すみませんでした」


有紗は、勢いで電話をしたものの、

そういえば大輔には失礼なことをしたままになっていたということを思い出し、

さらにその場で謝った。


『山吹さんからの電話は、いつも謝罪ですね』


大輔はそういうと、受話器越しにふっと息を漏らし、

少し笑っているような雰囲気を感じさせる。


「すみません、酔っ払って言いたいことを言って、そのままなんて」

『いえ、大丈夫ですよ』


有紗は、この大輔の口調なら、話が聞きだせると思い、

近いうちに会えないかとそう尋ねた。大輔はその時『フォトカチャ』にいて、

壁にかかるカレンダーを見ようとするが、その前に吉本が立っていたので、

手でどいてくれと合図する。

吉本は自分ですかと指で顔を差したので、大輔はそうだと何度か頷いた。


「えっと……今週ならいつでも。来週からは俺、日本にいないので」


受話器の向こうから、有紗の驚く声が届いた。

大輔は、毎年契約している雑誌の仕事で、ミャンマーに行くのだと説明する。

大輔の耳に、電車の音が聞こえ、有紗の声が聞こえなくなった。

もしかしたら電波が悪いのかと思い、『もしもし……』を2回繰り返す。


『はい』

「あぁ……よかった。切れたのかと」

『いえ、ごめんなさい』


有紗は、それなら明日にでも会ってほしいとそう言った。

大輔はいいですよと承諾する。


『それなら、どこかで……』

「いいですよ、いつもの店で」


有紗と大輔にとって、いつもの店とは、『ミラージュ』のことだった。

有紗はそれならそうしますと返事をし、おおよその時間を決める。

大輔は受話器を置いた後、もう一度、カレンダーを見た。

日は確実に1日ずつ進み、旅立つ日が迫ってくる。



『私は、白井さんに褒めてもらえるような、人間ではありません。
有紗の言うとおり、私は好きな人がいます。でも、彼には奥さんがいて……』



大輔は、陽菜の相手が『ミラージュ』の店長だということを、有紗から聞いただけに、

いつもの店だと話したとき、何か反応されるかと思ったが、有紗は気付かないのか、

そこには全く触れなかった。

自分が入り込む話しではないとわかっているのに、

陽菜の相手が、どんな男だったのか、あらためて見てみたい気もしてしまう。


「白井さん、これ、どうします?」


写真のファイル整理をしていた吉本に呼ばれ、大輔は椅子から立ち上がった。





「お先に失礼します」


有紗と大輔が電話をしていた頃、陽菜は『新町幼稚園』を出るところだった。

瞬との思いがけない別れを迎えた後、あまりにも自分勝手な言い分を聞きながら、

怒りも嘆きも通り越し、一人になっても涙すら出なかった。

しかし、数日が経過した今、自分の生活の中に、

埋められない大きな穴が開いてしまった気がして、足取りがだんだんと重くなる。

幼稚園で子供たちと触れ合っている時間は、そのことだけを考えていられたが、

電車の中で黙って立っていると、毎日見ている景色が通り過ぎていくだけで、

自然と目頭が熱くなった。

なぜ、こんな結末になったのだろうと、陽菜は唇をかみ締める。

辛そうな表情を前に座った男性に見られた気がして、

陽菜は次の駅でホームに降り、車両を移動した。





「こんばんは」

「おぉ、司」

「大輔は」

「まだだけど」

「そうか」


陽菜や有紗が不安定な気持ちに揺れている頃、

司と大輔は、『華楽』に集まることになった。

そう提案したのは祥太郎で、大輔が外国に行っている間に、

工事が始まってしまうからというのが、その理由になる。


「これなのか」

「そうなんだ、だいぶ具体的になっただろ」

「あぁ、確かに」


専門家の手が入り、『華楽』の改築は、一気に進みだした。

今時の住宅事情を考え、あまり凝った作りにはせずに、シンプルだけれど、

飽きがこないものをと、明彦と圭子の意見を取り入れた。

司が提案された見取り図を見ていると、そこに大輔が到着する。


「こんばんは」

「おぉ、大輔」


司は、いつものように、大きな荷物は持っていないのかとそう尋ねた。


「もう出発まで日がないからさ、撮影の仕事は無理だよ。
今は、おとなしく資料整理をしているところ」

「そうなのか、で、荷造りははどうなんだ」

「ほぼ出来た。トータルで半年近く行くけれど、何度かは戻ってくるつもりだし」


大輔は、移動もあるので、なるべく大荷物にはしたくないのだと、

そう話しながらカウンターに座る。


「なぁ、二人とも何食べる?」


祥太郎は厨房からそう二人に声をかけた。

司は、つまみになりそうなものを適当に作ってほしいとリクエストする。


「わかった」


祥太郎は二人に背を向けると、中華なべを火にかけた。

司は大輔の前にコップを置くと、ビールを1本取り出してくる。

栓抜きで栓を開けると、大輔の方から注ぎ始める。


「ありがとう」

「うん」


大輔が逆にしようとすると、司は面倒だからいいと、自分のコップにビールをいれた。



【24-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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