24 全てを聞き終えた後 【24-6】

【24-6】
司と祥太郎から、出発の会を開いてもらった次の日、

大輔は、『フォトカチャ』を出ると、有紗と待ち合わせをした『ミラージュ』に向かった。

少し待ち合わせの時間よりは早かったが、

先に着いていたい気持ちの方が強く、大輔は扉を開く。

ウエイターの『いらっしゃいませ』が聞こえ、大輔は待ち合わせだと話し、

窓側の空いているテーブルに座った。視線は、自然とカウンターに向かう。

そこには、テーブルを拭く男性が一人立っていたが、

うっすら覚えている、男の顔ではない気がする。

しばらくすると、明らかに他の従業員と制服の違う男が姿を見せる。

それは以前、ここで飲み会を開いた日、

カメラを預かりましょうかと声をかけてくれた、この店の店長だった。

瞬は伝票らしきものの束を手帳に挟むと、何やら計算機を使い始める。

カウンターの外側にいたウエイターに声をかけると、指示を入れた。

店長から指示を受けた男は、テーブルをいくつかそばに寄せ、

団体客を受け入れる体勢を作りだす。

それから腕につけた時計を見ると、何やら携帯を取り出し、店から出て行った。


「白井さん」


大輔が視線を動かすと、そこには有紗が立っていた。

大輔は『こんばんは』と軽く頭を下げる。

有紗は同じように挨拶をした後、大輔の前に座った。

注文を取りにきたウエイターに、メニューの中にあるカクテルを選び指でさす。


「すみません、出発前の忙しいときに」

「いえ、出発前だからこそ、あまり忙しくないんです」


大輔は、このギリギリのタイミングで、込み入った仕事をするわけにはいかないため、

ここのところずっと、資料整理ばかりしていましたと言葉を返す。


「資料整理ですか」

「はい。データは圧縮して残しておくと、後から使えるものも出てくるときがあるので」


有紗はそうですかと答え、前を向いた。

ほんの数秒、タイミングを遅らせるようにして、

有紗は大輔に『ごめんなさい』と謝罪する。


「あんなふうに酔って、みんなのいい雰囲気を壊しておいて。
自分でも自分が腹だたしいくらいでした。でも、思いが整理し切れなくて」


有紗は、9月から『総務部』に異動しましたと新しい名刺を出す。

大輔はその名刺を受け取り、文字を確認する。

確かに、以前もらった秘書の名刺ではなく、『総務部』の文字があった。


「総務ですか」

「はい。灰田部長にはすっかり騙されました。なんていうのは、エゴかもしれませんが。
最初から、秘書課がなくなれば、自然とつながっていた糸も切れていくと、
そう思っていたのかなと……」


有紗は、自分も大輔のように、何か腕があればよかったと、

少し無理をして笑ってみせる。


「あらためて自分には何もないんだって、思い知らされた気がします。
悔しくて辞めたくても、その後が全く見えないですし」


有紗は、色々考えながら過ごしますと言い、少し寂しげな顔を見せる。


「人生が思った通りに流れないことなんて、誰にだってありますよ。
山吹さんだけではないです。あの日の後、
司も祥太郎もどうしたのかと心配はしていましたが、
誰も、あの日を引きずってなんていませんから」


大輔は、こんな仕事をしていると、予想外のことばかり起きますと言い、

どんどん心臓が強くなりますよと、胸を軽く叩く。


「白井さん自身にも、失礼なことばかり言ってしまって」


有紗は、陽菜を好きなのかと尋ねたことをあげる。


「あぁ、それですか」


大輔は、あの日の瞬間を思い出したのか、少し照れくさそうな顔をする。


「そうですね。正直、驚きましたけれど、山吹さんの問いかけに、
自分自身目覚めた気もしました」

「目覚めた?」

「はい。あ、そうか、そうだったんだって」


大輔は、そういうと、この間陽菜と会ったことも話す。


「幼稚園のイベント写真を持っていく用事があったので。その後食事に」


大輔は、視線をカウンターの中にいる瞬へ向ける。


「俺も、人生うまくいかないことばかりです」


有紗は、その時初めて、自分が陽菜の相手が瞬だと話したことも思い出す。

陽菜が、大輔に瞬とのことを正直に話したのだろうと、そう判断した。


「……ごめんなさい、私。場所、ここにしなければよかったですね」

「いいですよ、そんな気をつかわなくて。ここにと言ったのは俺です」


大輔は、もう全て終わったことですと笑顔を見せる。

有紗は、『そうですね』と答え、運ばれてきたカクテルに少しだけ口をつけた。



【25-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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