25 お酒と本音とため息と 【25-1】

25 お酒と本音とため息と
【25-1】
「『栗田大悟』」

「はい」


謝罪を終えた有紗の話題は、いきなり声をかけてきた『栗田大悟』のことに変わった。

名刺はもらわなかったと話し、大輔に知っていますかと聞いていく。


「『フォトラリー』の編集者ですか……すみません、俺は会ったことないですね。
栗田って人に」

「そうですか」

「まぁ、元々機密性のある雑誌なので、全面を知る自体難しいですし、
編集者がそれぞれ、使いやすいフリーのカメラマンやライターを使うので、
俺が知らないだけかもしれませんけれど……で、その栗田さんが何か」

「会社の前で、私を待っていたんです。私の協力が必要だとかなんだとか」


有紗は、もう何も関わりたくないし、

本当なら会社自体も辞めてしまいたいと思っていると、カクテルを飲み続ける。


「そうですか。まぁ、『リファーレ』は色々とありましたからね。
まだ、何かあると思われているのかもしれない」


大輔は、もう一度『栗田大悟』の名前を思い浮かべてみるが、

やはり全く記憶がない。


「もし、どうしても山吹さんが気になるのなら、
俺、編集長の宮石さんを知っています。そこから確認しましょうか」


大輔がそう聞いたが、有紗は首を振る。


「いえ、それならば無視すればいいことです。
逆に聞いていただいて、また話が動くのも面倒ですし。
それにしても、まだ何かあるんですかね。前を向いても、どこを見ても、
私には、何が正しいのかすらわからなくて」


大輔はその嘆きに頷いた。

1年、年齢を重ねるごとにそうなりますねと、返していく。


「白井さんはならないでしょ。夢も目標もあるし」

「いや、そんなことはないですよ」


大輔は首を振る。


「この仕事が最後だったらと、いつも危機感は持っていますけど」


大輔はそういうと、心臓に悪いですよと笑ってみせる。


「危機感ですか」

「はい。フリーなんて立場が守られていませんからね、
常にそういう緊張感は持っています。その代わり、二度とイヤだと思っても、
サラリーマンなら会社から逃げられませんから、窮屈さは、それほど変わらないでしょう」


大輔はそういうと、軽く笑ってみせる。


「そうですね、わからない相手なら徹底的に無視すればいいと思いますよ。
協力して欲しいといっても、するかしないかは山吹さんの自由ですから」

「はい」


有紗はそうですよねと言うと、少し気が楽になりましたと笑顔になる。

互いに注文したお酒に口をつけた時、有紗はふっと笑みを浮かべる。


「白井さんに、初めてアドバイスしてもらえました、私」


有紗は、いつもはぐらかされていたのでと、冗談っぽく言ってみせた。


「あぁ……すみません。頼りにならずに」


大輔は何度もこうして会いながら、確かにいつも何も言えなかったことを思い出す。


「いえいえ、冗談です。今思えば、言えるわけないですからね、
白井さんの立場で」


有紗の言葉に、大輔は苦笑いになった。

有紗はグラスを見つめながら、細い脚の部分をゆっくりと回す。


「私、真帆と陽菜に連絡を取ります。近頃の私は、自分自身反省点だらけなので」


有紗は、次に白井さんが日本に戻ってくるときまでには、

仲直りしておきますと、笑ってみせる。


「そうですね、また6人で飲みましょう」


有紗はわかりましたと返事をすると、もう1杯だけ何かを飲みませんかと、

大輔に提案した。大輔はその誘いに乗り、二人は別のものをさらに一つずつ注文した。





それから5日後、

秋の空が気持ちよく晴れた日、大輔がミャンマーへ旅立った。





祥太郎はその時間、いつものように厨房へ立ち、

父、明彦と忙しく動き回っていた。『華楽』が改築するという話題が、

ご近所からさらに広がり始めたのか、職場が異動したというサラリーマンが、

この建物が無くなるのは寂しいと、思い出すように訪れてくれることが増える。

明彦は、以前の反対がウソのように明るい顔で、新しくなっても味は変わらないと、

常連客に笑って見せた。祥太郎は、そんな父の姿を見ながら、中華なべを振っていく。

母、圭子からオーダーが入り、厨房はまた慌しくなった。

司はその頃、外回りの最中で、次の約束までどこで時間をつぶそうかと考えていた。

少し歩くといい香りが漂い出したので、視線を横に向ける。

初めて見るコーヒーショップだったが、大通りから少し入ったところにあるからなのか、

思ったよりも、席があった。

ブレンドを注文し、そのまま奥に入る。

手帳で相手の名前をもう一度確認した後、カップに口をつけた。

そして真帆は、社長に頼まれた書類を持ち、郵便局へ向かう途中にいて、

昨日見たドラマの挿入かを、自然と口ずさんでいた。

途中まで調子よく歌っていたものの、フレーズがわからなくなり、

強制的にまた最初に戻る。

有紗は、総務部のデスクに座ったまま、数字に間違いがないのかものさしを置き、

チェックしていた。数字だらけの書類は見ているだけで疲れてしまうので、

少し首を動かし、時々空を見る。

雲の隙間から見えた秋の日差しは、有紗のいるビルの中にも、

温かさを届けてくれた。



そして陽菜は……



「はるな先生、さようなら」

「はい、さようなら」


その日は午前で保育が終わりだったので、お迎えの園児たちを送り出し、

有紗と同じように秋の雲が広がる空を見た。

一本の線のように空に跡をつけている『ひこうき雲』。

澄んだ空気が頬をかすめ、どこかからさわさわという葉のこすれる音がした。



【25-2】

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