25 お酒と本音とため息と 【25-3】

【25-3】

『君が協力をしてくれると、栗田がそう言った。
私に恨みがあるというのなら、それは残念な話だが仕方がない』



有紗は、携帯で『フォトラリー』編集部の電話番号を調べ、すぐに番号を押した。

大輔にも話した通り、栗田という男性に会ったことはあるが、

取材の協力などした覚えはないし、さらに、灰田が触れられては困るような資料を、

渡すなどとんでもない誤解になる。

あの日、有紗が頑なに間宮あかりに対して、資料を渡すことを拒んだのは、

女としての意地だけであり、その後のことなど何ひとつ考えてはいなかった。

呼び出し音は鳴り続ける。

向こうはこのまま知らない振りをするのかと思っていたら、

『はい』という、眠そうな男の声が聞こえた。


「もしもし『フォトラリー』編集部でしょうか」

『……そうですが』

「あの、編集者の栗田さんはいらっしゃいますか」


有紗は、自分が『リファーレ』の山吹有紗というもので、

どうしても確認したいことがあるので、連絡を取りたいのですがとそう説明した。

受話越しにあくびをする声が聞こえ、有紗は、必死になっている自分と比べ、

相手の態度が悪いことに腹が立ってくる。


『栗田は俺です』


有紗は、最初は丁寧な口調で自己紹介をしたが、相手があの栗田だとわかり、

そこからは一気に事情を説明して欲しいと迫った。


「本当に栗田さんですか」

『本当にと言われても困りますが、栗田です』


有紗は、あの日も、声を覚えているほど会話をしたわけではなかったので、

顔が見えない以上、絶対に栗田だという保証はなかったが、

とりあえず言うことだけは言おうと決める。


「あの……先日、会社の前で声をかけたこと、覚えていますか」

『はい、覚えていますよ、で?』

「で? じゃありません。全くのでたらめを告げ口するなんて、
あなたは何を考えているのですか」


有紗は、秘書課がなくなり、総務部に異動となったが、

まだ退社をしているわけでもないし、灰田に逆恨みされるようなことを、

自分から仕掛けたつもりもない。

有紗の話に、黙っていた栗田だったが、しばらくすると『わかりました』と、

落ち着いたコメントを返してきた。


「わかりました? 何がわかったのですか」

『だから、山吹さんの電話から、色々なことが……ですよ』


栗田は、大げさな話をしてしまったのは申し訳ないと言いながらも、

今日電話をしてもらったことは、とても意味があると、嬉しそうに話し続ける。


「意味?」

『はい。私は灰田部長に事実を迫っただけです。
確かに、あなたの協力があったというのは……まぁ、少し大げさというか』

「大げさではありません、それはウソではないですか」

『あはは……ウソですか』


栗田はウソにしなければいいじゃないですかと、悪びれることなく、

さらに有紗へ迫ってくる。


「どういうことですか」

『あなたに協力してもらうということですよ。このクーデターは完了ではないんです』


栗田は、こうなった以上、今からでも会えませんかと、そう言い始めた。


「こうなったってどういうことですか。私は何もなっていません」


有紗はこれ以上、巻き込まれては大変だと、すぐに電話を切ってしまう。

かけなおされてはたまらないと、今かけた番号は『着信拒否』状態に設定し、

有紗はそのまま駅に向かった。





「遅いな、有紗」

「大丈夫よ、待っていれば来るって」

「でも……」

「子供じゃないし、仕事で急に時間が動くこともあるでしょう」


先に陽菜の部屋に到着していた真帆は、料理も完成したし、お酒もあるのに、

乾杯が出来ないと言いながら、クッションを抱えた。

陽菜は、先日の飲み会には参加できなかったので、

『華楽』はいつから工事に入るのかと、真帆に尋ねる。


「えっと……具体的にはもう少し詳細が決まってかららしいけれど……
あ、あのね、陽菜」

「うん」


真帆が祥太郎と交際を始めた話をしようとしたとき、インターフォンが鳴った。

陽菜はオートロックを解除し、有紗の到着を告げる。


「うん……」

「で、何? 真帆は何を言おうとしたの?」

「今いいや……」


真帆は、有紗が到着し、食事をしてから話をすると言い、スープを温めなおす。

数分すると部屋に有紗が到着し、久しぶりに女3人が顔をあわせた。


「ごめんね、遅くなって。これお土産」

「何?」

「マカロン。ここのお店、結構有名なの」

「へぇ……かわいいね、包装紙も。さすが有紗の見立て。
前にほら、『華楽』に持って言ってくれたロールケーキのお店も、
あれから雑誌で見かけたもの」


陽菜はセンスを褒めながら、後で食べようと『マカロン』を流しの横に置く。

有紗は奥にいた真帆にも声をかけると、一緒に皿と箸を並べた。

まずは乾杯だとサワーの缶を持つ。

それぞれの思いを秘めながら、食事はスタートした。



【25-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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