25 お酒と本音とため息と 【25-5】

【25-5】
陽菜は、先日、瞬から別れを切り出されたことを話し、

それを受け入れたことも続けていく。


「別れって、だって……青葉先輩、陽菜と生きるって言ったのでしょ」

「うん。そうなの、最初はそう言ってくれた。でも事情が変わったんだって」

「事情?」


真帆も有紗も、どういうことなのかと話の続きを求める顔をする。


「なんだろうね。奥さんだけなら、困難でも奪い取るつもりだったの。
再会してから、ずっと頭の中に青葉さんがいることもわかっていたし。
あの人がもう一度、自分に振り向いてくれるのなら、どんなことをしてもって、
そういう気持ちもどこかにあった……」


ここで鬼になれば、自分が幸せになれると、そう信じていたと、

陽菜は話し続ける。


「でも、奥さんが妊娠したって聞いたとき、なんだろう、そこから少し気持ちが変わった。
青葉さんがね、望んでいないからおろせばいいって、そういう言葉を口にしたとき、
この人は、私が思っていた人とは違うのかもしれないって、少しずつ不安になった。
そんな気持ちが出た瞬間があったのだと思う。
青葉さんに、『俺は全てを捨てるんだ』って言われて、私自身、現実が怖くなったの。
でも、その通りだ、青葉さんは今までの時間を全て捨てるのだから、
どんなに苦しくても私は青葉さんを信じる、そう心に言い続けて……」

「現実が怖くなったって、今、言ったよね、陽菜」

「うん……言い方があっているのかどうかわからないけれど、
片方で、幼稚園の先生として子供たちに笑いかけながら、
片方で生まれてくる命を切り捨てようとしている自分が、怖くなった。
でも、引き戻れない、これは運命だって、自分自身を毎日奮い立たせていたのだと思う」


引き起こした自分自身が、わき道にそれることなどありえないと、

必死に前を向き続けた日々。


「そうしたら、急に……青葉さんが気持ちを変えたの」


陽菜は、瞬が、子供が出来たことによって、

向こうの家族が、自分を大切にしてくれるようになったこと、

そこで初めてお腹の中にいる子を『愛しい』と思えるようになったと、

言ったことを話す。


「青葉先輩が?」

「そう……。義理のお父さんから、お店も任されることになったって」

「店? 『ミラージュ』?」


有紗の問いかけに、陽菜は他にも数店舗あるらしいよと、話を補足する。


「ひどくない? それ。それじゃ利益があるから、だからお腹の子供が、
かわいいみたいに聞こえてくる」


真帆は、青葉先輩って、そういう人だったっけと、クッションを抱えながら首を傾げた。

有紗は、先日、大輔と会った日、カウンターで精力的に仕事をしていた姿を思い出す。


「で、陽菜はなんて言ってやったの?」

「そうだよ、なんて言った……ううん、どうやって怒ったの?」


真帆は、数発くらい殴ったのかと、左で拳を作る。


「自分なりに感情はぶつけたよ。聞いているうちに本当に悔しくなったし、
この人は結局、自分がかわいいんだってそう思えたしね。
でも、どこかよかったと思っていたかもしれない」


陽菜の言葉に、有紗は『よかったの?』と顔を上げる。


「いや、よかったというか……なんだろう、
同じような思いをした園児を、自分が見ていたからかもしれない。
どんな理由でも、生まれてくる子を認めてくれたのも、嬉しかったのかな。
最初、どうでもいいというようなことを聞かされたでしょ。それもイヤだったし」


陽菜は、男と女は、親になる感覚が違うのだろうがと、言葉を続ける。


「本当に妙な気分だったの。私と歩くようなことを言っておいて、
自分勝手な理由で終わりにされて。大きな声で泣いてひっぱたきたくなるくらい、
腹が立ってくるだろうと、そう思っていたのに。怒りはあったけれど、
そうなりきれなくて……」


陽菜は、二度と会わないと強く言ったけれど、叩くことは出来なかったと苦笑する。


「数日経ってからのほうがきつかったかな。
もう終わったんだと思うと、どうしてなのか涙が出てきた」


陽菜は、それでも今は、吹っ切れてしまったと笑ってみせる。

陽菜を励まそうと、真帆は、これでよかったんだよと言い始める。


「よかったんだよ、陽菜。私はそう思う。色々と悔しいかもしれないけれど、
これでスッキリするじゃない。青葉先輩とは、結ばれない運命だったの。
また素敵な人が出て……」

「……白井さんがいるからじゃない?」


有紗の言葉に、真帆がセリフを止める。


「有紗……」

「白井さん、出発前に陽菜に会ったって言っていた。陽菜、気付いていたんでしょ。
白井さんが自分に好意を持ってくれているって」


有紗は、あれだけ思いを寄せていた瞬に対して、

そうあっさりを別れを受け入れられたのは、

大輔が出てきたからでしょうと、そう話す。


「白井さんは関係ないって」

「そうかな」


有紗の態度に、真帆はまたおかしな酔い方をしていると、声をかける。


「そうだよ、そこは関係ないと私も思う。
白井さんと陽菜は、仕事で一緒になることが多かったから、
そんなふうに有紗が思うだけだよ。青葉先輩とは、全然タイプが違うし……ねぇ」

「……うん」


真帆は陽菜も有紗も、仕切りなおししようと、それぞれの缶を手に持たせようとする。

陽菜はすぐに自分の缶を持ったが、有紗はまた下を向いてしまう。


「そんなに簡単に……気持ちって、割り切れる?」

「有紗」

「だって……大学時代からずっと好きだったんでしょ。再会して、
相手が結婚したこともわかっていたのに、それでも好きだったんでしょ」


有紗は、そういうと、また大きく息を吐く。


「いや、ごめん。私自身が、本当は納得できていないのよ、
だからこうして、苛立っているの。全てを話せば、過去に持っていけると思うのに、
まだ引きずっていて……」


有紗は、灰田に別れを告げられただけではなく、

さらに疑いまでかけられてしまったと、苦しい胸の内を披露する。


「疑い? 何の」

「会社のゴタゴタは、まだ実際終わっていないみたい。急激に地位を得たから、
それをひっくり返そうとする人がいるのかもしれないけれど……」


有紗は、飲みかけの缶をテーブルに置く。


「『フォトラリー』。白井さんが以前仕事をした雑誌にいる栗田って編集者。
だからこの人を知っているかと、白井さんに聞いたけれど、知らないって。
でも、どうなのかな……知っているけれど、言わないだけかもしれないし……」


有紗は、色々なことが起こり過ぎて、何を信じたらいいのかわからなくなったと、

テーブルに頭をつけてしまう。


「会社……辞めようかな」


有紗の嘆きに、的確な言葉が見つからず、真帆も黙ってしまう。

陽菜は『マカロン』を取ってくるねと言いながら、キッチンへ立った。

その時、数分前に有紗が言った言葉の意味を、あらためて考える。

瞬が別れを切り出したとき、悔しさと悲しさの中に、確かに安堵感があった。

それは子供の命を救えたという思いからだと考えていたが、

はたしてそれだけだろうかと、あらためて気持ちに向き合った。



【25-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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