26 遠い場所の笑顔 【26-1】

26 遠い場所の笑顔
【26-1】
司から陽菜に電話があったのは、その日の夜だった。

久しぶりですの挨拶の後、『実は』と切り出され、

陽菜は、司に思いを寄せていた女子学生の樹里が、

『幼稚園の先生』になろうとしていることを聞かされる。


「本当ですか」

『そうなんですよ、俺もビックリするくらい、変わっていて。
以前のように不満だらけの顔など全然しないんです』


樹里は、これからどんなことを勉強しておけばいいのか迷い、

今度は陽菜に対して、憧れの先輩として会いたいと言い始めたことも、

そのままつけたした。

司は、本当に面倒なことになって申し訳ないと、受話器越しに謝ってくる。


「いえ、そんな」

『最初は、本気なのかと疑いましたが、まぁ、根は単純でいい子なのだと思います。
本当に先生を目指そうとしているようで。強く断りきれなくて』


陽菜は、自分の職業に憧れてもらったことは、決して嫌なことではないからと、

申し訳なさそうにする司に話した。


「わかりました。そういう理由ならまた名演技を披露しても」

『あぁ、そうですね』


司は、それならばと話し、『ビューティークール』に行ったら、

樹里から都合がいい日を聞きだすことにすると話す。


「緑川さん」

『はい』

「でも、こうなったら、本当のお相手は、実は私ではないですがと、
樹里さんに思い切って、言ってしまったらどうですか?」


陽菜は、出発前の大輔から、司と文乃のことを軽く聞いていたので、

わざとそうからかった。陽菜から出た思いがけない言葉に、

司は数秒間沈黙したが、『大輔ですか』と聞いてくる。


「はい。お姉さんを守ってくれる人が出来たこと、
白井さん、出発前にとても喜んでいました。
今度みんなと会うときには、話してもらうといいよって……」

『……ったく、余計なことを』


司は、そう言っているものの、陽菜に届く受話器越しの声は明るかった。

陽菜は、ミャンマーに行った大輔から、何か連絡はあるのかと尋ねてみる。


『最初に着いたって電話があったくらいですよ。
あいつは元々、マメに連絡を取るようなヤツじゃないですからね。
昔からいつもそうでした。忘れた頃にきっと、手紙でも寄こすでしょう』

「そうですか」


陽菜は、司からなら、大輔がミャンマーでどんなふうに過ごしているのか、

聞かせてもらえるのではないかと思ったが、そうはいかなかった。

陽菜は、運動会がもうすぐなので、それが終わったらいつでもいいですよと、

司に話し電話を切る。


「ミャンマー……か」


陽菜の目は、自然と大輔がくれた遠足の写真に向かう。



『学校に行くことなんて、日本人にとっては、当たり前ですけれど、
向こうの子供たちにとっては、本当に夢のような話なんです』



陽菜は、写真を置き、お風呂に入ろうと着替えの入っているタンスを開けた。





祥太郎との付き合いを始めた真帆だったが、『華楽』の改築が決まってからは、

今の店を懐かしむ人たちの訪問があり、

祥太郎自身が、なかなか自由な時間を作ることが出来ずにいた。

夜1時間ほど電話をするだけだったり、

閉店後、駅前の喫茶店で少し話をしたりするだけの日もあったが、

それでも、気持ちがつながっていることがわかっていたので、少しの不満もなかった。


「12月いっぱい?」

「うん。近所のお店とかで、毎年忘年会を予約してくれるところもあってさ、
そういう人たちに迷惑はかけられないからって、親父が決めた」

「そう……」


祥太郎は、店がお休みの間は、少し自由になるだろうからと、

真帆に『ごめん』と頭を下げる。


「そんなこと謝らなくていいのに。こうして話しが出来たりするだけで、
私は満足」

「……本当に?」

「本当に。黒木さんが楽しそうなのが、わかるもの」


真帆は、カフェオレに口をつけると、祥太郎の顔を見ながら笑ってみせる。


「なぁ、あれからお母さん、どう?」

「母には何も言われてはいない。まぁ、父が入院して、
忙しかったのもあるみたいだけれど。この間、退院したって」

「そうなんだ」

「うん……来週あたり、実家に帰ってみようと思っているの。
お父さんの様子も気になるし、逃げてばっかりも嫌だし」

「うん」

「私も努力しないと」


真帆はそういうと、小さなガッツポーズを作ってみせる。

祥太郎はそのポーズを見ながら、申し訳なさそうにしていた表情を、

優しく穏やかなものに変えていく。


「黄原さんには……いや……真帆には俺がいるから」


祥太郎はそういうと、照れくさそうに笑ってみせる。

真帆は『ありがとう』というと、赤くなった顔を隠すように、

コーヒーカップを顔の前に置き、ゆっくりと飲むことにした。



【26-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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