26 遠い場所の笑顔 【26-3】

【26-3】
静かな幼稚園の職員室。

さすがに疲れたのだろう、今日はほとんどの職員が、

他の仕事を後回しにして、園を出てしまった。

陽菜は、休み明けに行う誕生日会のリボンだけは作って帰ろうと思い、

1時間ほど職員室に残っていたが、その作業も終了し、そろそろと席を立つ。

陽菜は、ホワイトボードに貼り出されている大輔からのハガキを見た。

旅立ちの前、自分の今を隠さずに語った陽菜に、

『あなたの生き方を応援します』と言った大輔の言葉が浮かんでくる。

遠い場所で懸命に頑張っている人に負けないようにと思いながら、陽菜は職員室を出た。





カレンダーは10月も半ばを過ぎ、すっかり街は秋の装いと変わった。

この日、陽菜は司と待ち合わせをし、樹里と会うことになった。

場所は、以前も使った喫茶店で、樹里と待ち合わせた時間よりも、

15分ほど早く、到着する。


「赤尾さん」

「こんにちは」


同じように15分前に来ることにしていた司が、陽菜に気付き、

座った席で右手を上げてくれた。

陽菜は、今日は少し寒いですねと言いながら、コートを脱ぐ。


「忙しいのに申し訳ない」

「いえいえ、運動会が終わったので、次は12月の発表会です」


陽菜が司の横に座ると、ウエイトレスが注文を取りに来たので、

『レモンティー』を注文する。


「あ、そうです。白井さんから幼稚園にハガキが届きました」

「そうなんだ。文乃さんのところにも届いたって聞いて、それは見たけれど……」

「『幼稚園』あてで、子供たちがたくさん笑っている写真をハガキにしてありましたよ」


陽菜は、先生たちがみなさん興味を持って写真を見たと、そう説明する。


「そっか、それじゃ違うね。文乃さんに来たものは、
一緒に動いている『NPO』の人たちが写っていたから」


司は、あいつなりに仕事をしているんですねと、笑ってみせる。

陽菜は、そうですねとあわせながら、大輔が子供たちにカメラを向けている姿を想像した。



「こんにちは」


それから5分後、樹里が姿を見せた。

前回会ったときのような雰囲気はどこにもなく、髪の毛もさっぱりとショートに変え、

司が電話で話してくれたように、将来に対して、明らかに前向きな感じがする。

陽菜に対して、自分がどんな『先生』になりたいのかを楽しそうに語っていく。

陽菜も、どういったことが楽しく、またどういったところが大変なのか、

精一杯『幼稚園教諭』の説明を続けた。

司は、二人の話を横で聞きながら、時々大きく頷いて見せ、

久しぶりの『名演技』は、本日も大成功のまま終了する。

樹里が店を出て行ったので、陽菜は司と向かい合う席に移動した。

司はそばでお皿を片付けていたウエイトレスに合図をする。


「ブレンドと……」

「同じもので」

「じゃぁ、2つ」


二人は仕切りなおしをするために、あらためて注文をした。


「本当に雰囲気が変わりましたね、樹里さん」

「でしょ。俺も驚きました。春の頃にはどこか不満そうで、
何をしても足りないと言いがちな態度でしたけれど、目標が出来るというのは、
人を変えるものですね」


司は、2人の会話が楽しそうで、口を挟む隙もなかったと、笑い出す。


「すみません。私も単純に、自分の職業を目指していると言われて、
嬉しかったのだと思います。喉が渇いたと思うくらい、話していたので……」


陽菜は残されたお冷に口をつける。


「最初は、赤尾さんが相手ではないことを、
話したほうがいいのかなと思っていたんですけど、今日の樹里さんを見ていたら、
どうでもいい気がして」

「あ……そういえば、そうですね」


陽菜も、『恋に恋する女学生』ではなかったですねと、樹里のことを表現した。

司は、陽菜の顔を見る。


「赤尾さんは『結婚に冷めている気がする』って、俺、前に言った気がするんですが」


司は、最初の飲み会の後、そういったことを覚えていますかと、そう聞いた。

陽菜は、そうでしたねと頷き返す。


「すみません、よく考えたら、ずいぶん失礼なことだと自分で思います」


司は、当時は自分自身が結婚に冷めていたのだと、そう話し始める。


「自分自身が、気持ちをきちんと処理できていなくて。初めての飲み会の日、
楽しそうにしている反面、どこか冷めていたというか……。
なんだろう、そんな雰囲気を、赤尾さんに感じたのかもしれません。
だからあんなふうに」


司は、これで『擬似カップル』は終了しますのでと、あらためて頭を下げる。


「いえ……実際、私もそうだったと思います」


陽菜は、あの初めての飲み会の日、

体は参加していたけれど、心は全く別のことを考えていたと、そう話す。


「私自身、今考えるとおかしな状態でした。世の中も友達もどうでもいい。
ただ、一つのことだけ願いが叶えばって……」


陽菜は、緑川さんは鋭いから、

そういう『心ここにあらず』状態を見抜いたのでしょうねと、笑ってみせる。


「今、自分自身が『真っ白』の状態になって、
あの当時の気持ちは、間違っていたと思えるようになりましたし、
それと同時に、初めて気付くこともありました」


陽菜の言葉に、司は『そうですか』と頷き返す。


「白井さんが出発前に話してくれました。緑川さんがお姉さんを守ってくれるから、
だからミャンマーに半年なんて、決断が出来たって」


陽菜は、大輔のお姉さんはどういう方ですかと司に尋ねる。


「大輔と同じように、すごく繊細なところがある人です。
年齢は3つ上ですけど、でも、すごくかわいらしいところもある人で……」


司のセリフに、陽菜はそうなんですかと笑顔を見せる。


「赤尾さん」

「はい……」

「あなたが『真っ白』になったのなら、また、好きな色をつければ済むことですよ」


司は、陽菜の言葉を借りて、時間の経過を表現する。


「はい」


陽菜は、久しぶりに楽しかったですと笑って見せた。



【26-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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