27 彼の手のファインダー 【27-1】

27 彼の手のファインダー
【27-1】

仕事が休みの日、文乃は大輔から預かったカギを持ち、アパートに向かった。

1週間以上留守をするときには、昔からカギは預かっていた。

外階段を上がり、カギを開ける。

1ヶ月閉めっぱなしになっている部屋を開けると、

どこか湿ったような空気が襲ってくる。


「窓、窓……」


文乃は部屋の奥まで進みカーテンを開けると、窓を開く。

大輔の住むアパートの前は、舗装されていない駐車場だったので、

建物は古いのだけれど、日当たりはいい。

文乃は、『空気を入れ替える』という約束どおりのことをしながら、

こういう機会だからと掃除機を取り出し、部屋の掃除をし始めた。

ベッドの布団をはがし、外に干せるものは外に干す。

日光と風をあてたら、少しは違うだろうと考えた。



『11月の頭に、1度日本へ戻ります』



大輔から連絡があったのは2日前のことで、文乃はすぐに司へ連絡を入れた。

ハガキは送っていなかったが、さすがに司にもその話は入っていたので、

祥太郎に声をかけ、集まることにしたと聞いた。

文乃は手際よく掃除機を済ませるため、床に置かれた本を一度テーブルに乗せる。

窓を開けたままだと少し寒い気もしたが、埃を残さないためにはその方がいいと思い、

上着を着たまま掃除を続ける。

一部屋と台所。掃除機のコンセントを外し、あった場所に戻す。

そこで窓を閉めた後、文乃は台所に移動した。


「何よもう……フライパン買ったって言ったのに」


以前、このアパートを訪れたのは、去年の秋になる。

1年後の登場なのにも関わらず、全く家事の道具が増えていないことがわかり、

ため息をつきながら、確認のため冷蔵庫を開けた。


「やだ、何残しているのよ、もう」


大輔は、どこかで買った卵とハムを冷蔵庫に入れたままだった。

文乃は、日付を見てため息をつくと、ゴミとして持ち帰ろうと考える。

ビニール袋がどこにあるのかもわからず探していると、

部屋の奥にある棚の横に丸めたコンビニの袋が数枚あった。

文乃はその中の2枚をほどき、匂いがしないように2重に袋に入れる。

床にあった本をテーブルに乗せていたので、頼まれていたわけではないが、

本棚を少し並べなおし、そこに収めていこうと考えた。

写真関連の本、雑誌、そして単行本。

背の高さや本の内容を見比べて並べなおしていると、薄いビニール袋が目に入った。

写真が入っているのがわかり、文乃はついそれを引き出して見てしまう。

1番上にあったのは、以前、文乃も見せてもらった『華楽』での写真だった。

大学生の頃よりも少し痩せた司や、髪を短くした祥太郎、そして大輔。

さらに、先輩の結婚式で出会ったという、3人の女性。

以前、話題にも出た陽菜の姿ももちろんあった。

文乃は、その後ろにある2枚の写真が気になり、上の写真を引き抜いてみる。

そこに入っていたのは、2枚とも園児と楽しそうに笑っている陽菜の写真だった。

文乃は、以前、大輔から、

会社に内緒で、写真を陽菜に渡そうとしている話を聞いたことがあった。

その写真がこれなのだろうかと、2枚の写真を交互に見る。

ミャンマーに出発する前、文乃は大輔に『恋人はいないのか』と尋ねた。

しかし、大輔からは肯定も否定もなかった。

文乃は、今は遠い場所にいる弟の、心の中を勝手にのぞいてしまったと、

すぐに写真を元に戻す。

そこから郵便受けに入れられたちらしなどの処理を済ませ、

一度風をあてた布団を中に戻していく。

作業を全て終えた後、文乃の視線は、もう一度隠した写真の場所へ戻った。





「白井さんが?」

「そうなの。11月に戻ってくるって。
だから、『華楽』に集まりませんかって、黒木さんから」

「うん……」


真帆から連絡をもらった陽菜は、すぐに手帳を見た。

運動会が終了した幼稚園では、次のイベントは発表会になる。

しかし、それは12月になるため、11月はそれほど慌しくはない。


「わかった、予定、空けておくね」


陽菜はそういうと真帆からの電話を切り、

ホワイトボードに貼り出されている、あのハガキ写真を見た。

自分の教えている『りす』組の子供たちではないけれど、

同じようなキラキラした目を持つ子供たちと接している大輔の感想を、

聞いてみたくなる。陽菜は、11月の日を間違えないように、

小さなカレンダーに早速丸をつけた。





「山吹さん、これ」

「はい」


同じ連絡を受け取った有紗は、仕事をしながら複雑な思いの中にいた。

大輔以外のメンバーには、失礼な態度を取ってから、会えていなかっただけに、

ここは勇気を出して、きっかけをもらった勢いで謝罪すべきだという気持ちと、

それでまた妙な空気感を出してしまうのではないかという不安な気持ちが、

右に左に行ったり来たりする。

栗田からの妙な電話はないものの、灰田からはすっかり疑われたままで、

正直、『リファーレ』にいること自体、有紗には辛いものになっていた。

総務部の仕事は、自分のペースが守れる反面、

自分でなくてもいいのではないかという、どこか引いてしまう感情が確かに存在した。

時計を見ると、そろそろ退社時間になる。

片づけを始めようかと思っていたとき、有紗の携帯が揺れた。


「はい、もしもし」

『すみません、緑川です』


電話の相手は、司だった。



【27-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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