27 彼の手のファインダー 【27-5】

【27-5】
「藍田さん……白井さんのこと、ずっと『大輔』って呼んでますよね」


勇気を出した真帆の問いだったが、

全員同じような疑問を持っていたことが裏目に出て、その場が一瞬静かになる。

真帆は、また余計なことを聞いてしまったと、下を向いてしまう。


「あ、そうそう。大輔って呼ぶから……ちょっとびっくりした、うん。
もしかしたらここで交際宣言しちゃうとか」


祥太郎は真帆の状況をフォローするつもりで、そう続けた。

志穂は一瞬、どういう意味なのかという顔をしたが、すぐに笑い始める。


「あ、そうか。大輔……って、確かに呼んでます。でも、私にはこれが普通で」


志穂は勘違いですよと、両手を振る。


「メンバーのリーダーが平居さんって言うんだ。で、俺が白井だろ。
現地の人たちも聞き取りにくいみたいで、
わかりやすいように『リーダー』と『大輔』って別れて」


『大輔』と呼ぶのは志穂だけではないと、大輔は言い、

真帆はそうなんだと、話を終わらせようとする。

志穂は、呼び名について語った大輔の顔を見た後、立ち上がる。


「あの……今日は私の名刺を、みなさんにも配らせてもらおうと思って、
持ってきました。こういったところでビジネスの話もなんなのですが、
日本を離れている時間も多いので、よかったら、みなさんの自己紹介も、
していただきたいなと」


志穂は、こういったボランティアに近い活動には、

色々な人たちの力が必要になるのだと、そう話した。

志穂は名刺を取り出すと、それぞれに渡していく。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


斜めに座っていた陽菜にも、志穂の名刺が届く。

『NPO アスナル』という団体名は、大輔がミャンマーに向かう前の食事会で知った。

タブレットのホームページに出ていた活動内容が、実際にどういうものなのか、

名刺の裏に今までの活動記録が色々と書いてあり、陽菜も初めて知る。

全員の目が、志穂の名刺に向いている中、

それではと司が自己紹介のトップバッターとなった。


「えっと……緑川司と言います」


司は、どんな会社に勤めていて、今は何をしているのか、

営業マンとして歩く苦労を一言つけ足し、自己紹介を終了する。

続く祥太郎はこの店が年末に一度閉まり、改築される話を自己紹介に付け足した。


「改築ですか」

「そうなんです。おそらく春に大輔が戻ってくる時には、もう壊されていて、
半年くらいで完成かと……」


祥太郎は、その頃にまたお越しくださいと、営業コメントも送り出す。


「ありがとうございます」


志穂は、大輔から『華楽』のことも聞いていますと話す。


「大輔、なんて言ってます?」

「とっても美味しいって……」


志穂はそういうと、大輔の顔を見る。

大輔は、そんなふうにこっちを見ると、コメントがうそっぽくなると、志穂に言った。

祥太郎の自己紹介の余韻が残る中、有紗が立ち上がった。


「山吹有紗と言います。今現在は『リファーレ』の総務部で働いています」

「あ……『リファーレ』ですか」


志穂は、結構デザインが好きでよく買いますと、有紗に話す。


「ありがとうございます。ただ……おそらくそう長くはいないと思いますが」


有紗は、年末、もしくは来年の3月までには会社を辞めようと思っているのだと、

そこで発表した。先日、希望とはいえない異動を知った司は何も言わなかったが、

真帆や祥太郎は、辞めてしまうのかとそう聞き返す。


「うん……」


大輔は、有紗なりに自分の過去とけじめをつけようとしているのだと思い、

その意思を受け止めようと黙っている。


「辞めるんですか? 大手なのに……あ、すみません。関係ないのに」


志穂は余計なことを言いましたと、口の前に手を置く。


「いえ、いいですよ。元々は秘書課にいました。
でも会社の体制が変わって、秘書課がなくなって、色々と自分らしく働けなくなって。
我慢ばかりしているのは、心にも体にもよくない気がするんです。
また、具体的に決まったら、報告させていただきます」


有紗は、そこまで話すと、隣にいる真帆にバトンタッチする。


「有紗……。本当に辞めちゃうの?」

「私の話は終わりでしょ。ほら、真帆の番」

「でも……」


真帆は有紗を気にしながらも、志穂の方を見ながら、

自分の名前と『原田運送』という企業で、事務をしているのだと語る。


「小さな会社ですが、みなさんいい人で、
辛かった『信用金庫』をやめてよかったなと……あ、私も辞めていたわ、そういえば」


真帆は、自分も再就職をしたのだと、そう言い始める。


「私も、大学を出て働いた企業は1年持ちませんでした」


志穂は、大学を卒業してすぐに『大手家電メーカー』に勤めたが、

流れ作業のような仕事が嫌で、辞めてしまったとそう言った。


「仕事って、辛くてもどこかに『楽しさ』がないと、続けられないですよね。
途上国での仕事は、確かに辛いことが多いですけれど、そこに達成感があるのは、
日本でやる仕事の何倍もある気がします」


志穂は、そう言いながら、目の前で手を大きく広げてみせる。


「ごめんなさい……つい、ジェスチャーしてしまうんです。
言葉よりわかりやすいところがあって」


志穂は、斜めに座る大輔に向かって軽く舌を出す。

大輔はそんな志穂を見ながら、少し口元を緩めた。

真帆からバトンを受け取った陽菜は、

名前を言った後、少し前にも話したが、幼稚園の先生をしていますと自己紹介する。


「年齢が重なってきて、正直、後輩が増えていく中、そろそろ辞めどきなのかなと、
そう思ったときもありました。でも、今、藍田さんも言っていたけれど、
子供たちの笑顔には、本当に達成感があります……」


陽菜は、あらためて自分の仕事が、すばらしいものであることに気付いたと、

そう話し続ける。


「そんな基本的なことを、園児の写真を撮ってくれていた白井さんに、
思い出させてもらいました……」


陽菜は、大輔が撮ってくれた数々の写真に、勇気をもらえましたと、

あらためて頭を下げる。


「いえ……」


大輔は、陽菜の前向きなコメントを聞きながら、自然と表情が柔らかくなる。

志穂は、大輔が陽菜を見る表情を確認すると、また立ち上がった。


「ありがとうございました、みなさん」


志穂は、全員の自己紹介を受け、

今日の出会いは自分にとっても貴重なものだとそう言った。



【27-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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